「橋本、目ぇイッとったなぁ!!」
5年前、私が勤めていたバイト先の店長は、前夜に行われた、橋本真也vs小川直也(2000.4.7 東京ドーム)の生中継を観て、興奮気味にこう言った。
店長はプロレスを馬鹿にしていた。しかしながら彼は、素晴らしい人格者だった。私は彼に、本当にお世話になった。それゆえに、彼がプロレスを「ヤラセ」だとか「八百長」だとかと蔑むのが、すごく切なかった。私は彼に、ホンモノのプロレスを観てもらいたかった。
三沢信者、四天王崇拝者、ハイスパート至上主義者。そんな私の信じる“ホンモノのプロレス”とはやはり、全日本プロレスのマットだった。残念ながら、橋本のいる新日本プロレスのそれではなかった。そして、深夜というよりも、ほとんど朝方に放送される、私の“ホンモノのプロレス”が、店長の眼にとまることはなかった。
橋本は、私にとって“いいレスラー”ではなかった。ボクサー風情に何度も負けた。チャンピオンになっても、何回防衛しても、放送席から山本小鉄の辛辣な言葉が飛んできた。プロレスの祭典、東京ドーム、セミファイナルの全日本6人タッグに弱気な発言をした。
そして今度は、“挌闘家”小川に無残なTKO負けを喫した。
その試合を観た店長の感想が、前述の「橋本、目ぇイッとったなぁ!!」である。
その試合は、『総合』なんかじゃなかった。紛れもなく『プロレス』だった。
そして橋本は勝った。
店長のまぶたに刻み込まれたのは、橋本の“イッてる目ェ”だった。
そう!トニー・ホームの強さなんて、これっぽっちも思い出せない。
思い出すのはただ、動かない膝をたたきながら、悔しそうにホームを睨み付ける、あの眼だ。
勝っても、どこか納得のいかないような、複雑にうつろう、あの眼・・・・・。
橋本は、その眼で、その身体で、全存在で、プロレスの持つ凄みを、我々に魅せてくれた。
・・・・・気付くのが遅すぎたのかもしれない・・・・・。
しかし、今日こそは言わせて欲しい!!
橋本真也こそ、超一流のプロレスラーである!!!
『破壊王 喧嘩鉢巻 ここにあり』

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