西新宿のスペース・ゼロという、初めて行くホール。自転車をしゅるしゅるっと漕いでいると着いてしまう御近所にあるそのホールで、平沢進の新バンド、核P-MODELのデビュー・ライブを観る。
新バンドといってもメンバーは平沢進ただ独りで、じゃあ何故バンドもどきを名乗るのかっていうと、最新作『ビストロン』の舞台は好戦国アメリカとマス・メディアによって統制される現代の右傾化した日本/東京であり、日がなTVスクリーンに行動を監視され、逸脱した者や異端が抹殺される「1984」の世界観を再び現代に投影してみよう、という試みなのである。つまり初期P-MODELのテーマそのままなのである。ということはこれはP-MODELとして演奏しなくてはならないのだが、現在P-MODEL本体は解体されてメンバーが居ない状態なので、仕方なく平沢ひとりで無理矢理バンドを再開させてしまったらしい。それで核P-MODEL、要するに「P-MODELの核はオレ」=「オレがP-MODELだ」ってことか。
異常とも思える程の大音量でシンセのシーケンスが始まり、ライブはスタート。客席前方には耳をおさえている人までいる。TR、TB系のリズム・マシンの重低音で、会場の床がびりびり震えている。音のバランスは最悪だが、恐らく爆音であるということ自体が大事なんだろう。うん、P-MODELらしい。
今回の御大はステージ上で自転車に乗る事も無く、CGも巨大スクリーンも無く、ただただシンセを弾き、自作発電機のダイナモを回し、ギターを膝で蹴り飛ばしてうたい叫ぶ。うん、P-MODELらしい。
MCも一切無し、曲の紹介もまったく無しで、矢継ぎ早に新曲および過去の名曲を演奏し続ける。うん、P-MODELらしい。でも久々のノン・ストップのライブは余程疲れるんだろう、途中「シェブロン」ギター・ソロの名フレーズを大幅に間違える。これには客席もガックリ。でもそれもP-MODELらしい。
挨拶無し、お喋り無しで立て続けに15曲くらいを演奏して、何も言わずに平沢はステージを降りる。その間わずか70分ほどで、残された観客は呆然。あ、これで終わりなんだ、と気付いた者から順に嘆息とどよめきが漏れ、アンコールを求める拍手と歓声に変わる。5分ほど待って漸く、あーあ、まだやんのか、って感じで御大登場。1曲だけ演奏して、「サイナラ」と一言残して走り去った。うん、実にP-MODELらしい。
で、結論はというと、やっぱり平沢進は格好良かった。恐いのはこのライブがあと3日間続くことであり、恐らく過去のP-MODEL曲のストックからもまだまだ演奏する筈なのだ。「サイボーグ」とか「アトム・シベリア」とか、当然やる筈の曲を今日はやらなかった。そして会場へ自転車を漕いですぐの場所に居る僕は、最低でもあと一回はまた自転車を漕いで観に行くんだろうな、と、それが恐い。