1月15日。ドン・ヴァン・ヴリート、オルソー・ノウン・アズ・キャプテン・ビーフハート先生の誕生日を祝って、胡麻うどんを食べる。満腹したのでおもむろにギターを取り上げ、"アバ・ザバ"を弾こうとするが、どうも小箱さんの具合が良くない。
嬉しいときも悲しいときも、何時も僕の隣に居て黒光りしていた小箱さん。そろそろ交代のお時間ですか。お休みしたいとせがむのですね。『おお、そうじゃ、あたいはもう疲れたのじゃ。おまえがこんなに弦高を上げて苛めるものだから、あたいのボディがつくつくするのじゃ』『左様ですか、確かに先生にはお若いときから、色々と無理を強いてまいりました。お疲れと仰言るのも道理であります。それでは暫く、そこにある下倉楽器特製ケースの中でお休みくだされ。ところでひとつ相談事が』『なんぞえ、遠慮せんでゆうてみぃ』『有難う。では伺いますが、先生がお休みくださる間にも、小生エレキを必要とするシーンが多々ございまする。小鳩ちゃんもおりますれど、所詮は他所から派遣されてきた借り物に過ぎませぬ。憚りながら申し上げれば、先生の代役としてどなたか御推薦下さればと、そこんとこでございますが』『なんじゃ、そんなことか。それならもう手は打ってある』『なんと、してそのお方はいずこに』『うう、あたいはもう眠い、あとは明日じゃ』『先生、それは殺生な。このままでは小生安心して眠れません』『煩い凡人め、機は目前じゃ、おまえの轍には味が無い』『先生、小箱先生、お目覚めくだされ、どうかお言葉を』『ううむ、首は木なれど根っこは合わせじゃ。いわば手乗りのサイボーグ。ヘヴィ・メタルならぬライト・メタルが奴の身上じゃて・・・』『なんと、これは含みのある寝言であろう、手乗りのライト・メタルとな・・・』
そして小箱さんは再び意識を無くし、ケースの中で眠りについたのだったが、それから三日後、雪の降る晩にそいつは我がアジトにやって来た。
原子量26.98、比重2.70の金属塊から生るメタルの怪物。私の新しいギターは木では有りません。