2010/3/29 | 投稿者: losthouse

3月も終わりだというのに、寒風吹き荒ぶ港区台場。

寒さに打ち震えながら、今日もゼップ東京というライブハウスへ行き、ボブ・ディラン来日ツアー最終日、東京公演7日目を観る。

あのボブ・ディランが日本に居て、毎日のようにライブを演っているという、考えただけでもわくわくする夢のような日々も今日で終わり。
ディランとそのバンドの姿をしっかりと目に焼き付けようと、今日も開場と同時に入場し、Aブロック後方、丁度フロアの真ん中位、ステージ全体がよく見渡せるポジションを確保した。
フロア前方で揉みくちゃになって最後を迎えるのも悪くは無いが、矢張り落ち着いて、最終日の演奏を噛み締めるように聴きたかったのだ。

開演予定時刻の19:00、珍しく定刻通りに客電が落ち、SEが流れ、アナウンスが始まった。
バンドの面々が所定の位置に着いた後、少し遅れて、白い帽子に灰色のシャツ、そしていつもの黒いスーツに身を包んだ、ボブ・ディランが悠々と現れる。
やはり最終日だけあって、迎える拍手と歓声も一段と大きい。

スネア・ドラムがリズムを刻み、誰もが聞き覚えのあるあのイントロが鳴る。
なんと1曲目から、「雨の日の女 #12&35」なのである。
熱狂的に盛り上がるフロア。「Everybody must get stoned!」の大合唱が会場に反響する。

こりゃあ最初っから飛ばして来たな、と思う間も無く、2曲目には僕の愛して止まない「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビーブルー」が始まった。
ディランはオルガンを離れ、サンバーストのストラトキャスターで、辿々しく物悲しいフレーズのリード・ギターを弾く。
低い声で切々と歌われる、「すべては終わったんだ、ベイビーブルー」という歌詞に、胸が詰まる。
これは悲しみの歌では無く、希望に満ちた出発の歌なんだ、という事が、2010年のボブ・ディランの演奏を聴いていると、レコードよりもすんなりと理解出来る。

そして60年代3連発、3曲目には「我が道を行く」。
曲の構成がタイトなぶん、90年代のライブを隠し録りしたブートレグなんかを聴くと、大概グダグダになってしまっている事の多い曲だが、今日の演奏は完璧の一言。
バンドがぴたりとブレイクを決め、ディランが「When you go your way and I go mine!」とシャウトする。
あんまり格好良く決まって嬉しかったのか、全編実に楽しそうに歌う。
ディランによるオルガンの奇妙なフレーズと、チャーリー・セクストンのリード・ギターの絡みも素晴らしい。名演である。

4曲目ではまたしてもディランがギターを持ち、2009年のアルバム「トゥギャザー・スルー・ライフ」から、「妻の田舎」が演奏された。マディ・ウォータースばりの不気味なブルースにのせて、悪鬼のように低い声で「妻の田舎こそはこの世の地獄だ」と歌うディラン。誰も視たことの無い「アメリカ」の幻がそこに顕れる。


それにしても今回のツアーでは、今のところオリジナル・アルバムとしては最新作である「トゥギャザー・スルー・ライフ」からは僅か数曲しか演奏されなかったわけだが、それでも近作の充実ぶりをアピールするには充分過ぎる程の内容であった。
例え60年代の有名曲を演奏していても、そこに立ち上がる音像は21世紀に入ってからのアルバム3枚(「ラヴ・アンド・セフト」「モダン・タイムス」「トゥギャザー・スルー・ライフ」)と通ずる世界観が軸になっていて、それは広義の「アメリカ」音楽であり、最早失われた「アメリカ」であり、誰も視たことの無い幻想の「アメリカ」なのである。


軽やかな「アイ・ドント・ビリーヴ・ユー」と「水の精霊」を挟んで、7曲目には「コールド・アイアンズ・バウンド」。
東京初日でも最高に格好良いアレンジで名演を聴かせた曲目だが、今日はそれに輪をかけて素晴らしい。
バンドのブレイクとディランのボーカルのタイミングがジャストに決まり、ハーモニカ・ソロでディランは右腕を高々と上げ、バンドの演奏を先導する。格好良い。

そして8曲目、「デソレイション・ロウ」。
朗々と歌われる、廃墟と化した街に佇む人々、その風景。サーカスの見世物小屋のような、妖しい幻がゼップ東京に立ち上がる。
それにしても、ディランがギターを止めてオルガンをメイン楽器としたのは本当に素晴らしい選択だったと思う。実際にライブを観るまでは判らなかったが、この妖しく不思議な感覚をバンドに持ち込む為に、ディランはオルガンを選んだのだと思う。

9曲目「堤防が決壊する」でもオルガンは大活躍。オルガンで弾いた変梃なフレーズに合わせて、ディランのボーカルが自由自在に変化して行く。
前回、前々回に観たライブでは「サマー・デイズ」が果たしていた役割を、今日はこの曲が補っている。ディランはニコニコでノリノリ。洪水は堤防を破壊し、ロックンロールの世界へ船出するのである。

「ウェン・ザ・ディール・ゴーズ・ダウン」ではジェントルな演奏をしっとりと聴かせ、「ハイウェイ61再訪」でまたしてもドタバタのロックンロールをやらかした後、「キャント・ウェイト」では再び不気味なブルースを渾身のボーカルで聴かせる。

そして13曲目、「サンダー・オン・ザ・マウンテン」。今日も溌剌とした名演奏だったが、この頃になると、「ああ、あと1曲で終わってしまうのか」と僕は寂しい気分でいっぱいになって来る。

「サンダー・オン・ザ・マウンテン」でのやりたい放題なセッション大会が終わり、大歓声が響き渡る。
さて、次は毎日固定の「やせた男のバラッド」で終わりだな、最後だからしっかりと目に焼き付けよう、と思っていると、ディランがやおらステージ中央に歩き出し、ベースのトニー・ガーニエと何やら打ち合わせを始めている。
僅か数秒で打ち合わせは終わり、バンド全員にさっ、と緊張が走るのが観ているほうにも伝わって来る。

そして流れるイントロ。毎日演奏していた「やせた男のバラッド」じゃ無い。スローで美しい、あのイントロ。
ディランが歌い出す。「May God bless and keep you always…」
「フォーエヴァー・ヤング」だ!
会場に居る全員に対する祝福として歌われたプレゼント。ディランのボーカルも伸びやかで力強い。
感動に溢れた大歓声のなか、本編は終了する。

そしてアンコール。
「ライク・ア・ローリング・ストーン」の大合唱と、ディランがとっても楽しそうに歌う「ジョリーン」が終わると、いつものメンバー紹介。今日はドラムのジョージ・リセリを紹介する段になって、なんとディランの口から「イキマショー」と日本語が飛び出すというサプライズも有り、客席からは割れんばかりの拍手。
その拍手が鳴り止まぬうちに、「見張り塔からずっと」のイントロが鳴り始める。
ジミ・ヘンドリクス・バージョンのアレンジにのせて、今日はスチュ・キンボールとチャーリー・セクストンのツイン・ギターが、いつもより数倍メタリックに響く。
ディランのボーカルは低音で言葉を切り刻むような歌い方で、曲にあたらしい命を吹き込む。
そしてコーダ、ディランのボーカルとバンドの演奏に火が着いて、爆発。壮絶な演奏を終えて、ディランとバンド・メンバーがステージ中央に一列になって並ぶ。
両手を前に掲げて、2階席まで会場をぐるりと見渡すディラン。数十秒後、すべての観客と目を合わせた事を確認したかのように、ステージから去って行った。

しかし鳴り止まぬ歓声。今日の歓声は一際大きい。本当に地鳴りのように、会場中に轟いている。
客電は点かない。それに気付いた観客からは、また一段と大きくなった歓声が沸き起こる。

そして、ステージにバンド・メンバーたちが再び現れる。
少し遅れて、ディランが両手を前に挙げたまま、ステージ正面を向いて現れる。映画や写真では見た事の無いような、にこやかで晴れ晴れとした顔をしている。
「サンキュー」とも何も言わないけれど、僕等はそれがボブ・ディランがみせる最大級の感謝と喜びの表現である事を知っている。
2度目のアンコール。
曲目は「風に吹かれて」。
演奏が終わると、再びメンバーと共にステージ中央に並び、ディランは深くお辞儀をしてステージを去って行った。
どこからともなく、「サンキュー!」と叫ぶ声が、または日本語で「ありがとう!」と叫ぶ声が客席から聞こえて来る。

僕も言った。本当にありがとう、ボブ・ディラン。
また来てね。



Set List:
Zepp Tokyo
March 29, 2010

1.Rainy Day Women #12 & 35

2.It's All Over Now, Baby Blue

3.Most Likely You Go Your Way (And I'll Go Mine)

4.My Wife's Home Town

5.I Don't Believe You (She Acts Like We Never Have Met)

6.Spirit On The Water

7.Cold Irons Bound

8.Desolation Row

9.The Levee's Gonna Break

10.When The Deal Goes Down

11.Highway 61 Revisited

12.Can't Wait

13.Thunder On The Mountain

14.Forever Young

(1st encore)
15.Like A Rolling Stone

16.Jolene

17.All Along The Watchtower

(2nd encore)
18.Blowin' In The Wind


Band Members
Bob Dylan - guitar, keyboard, harp
Tony Garnier - bass
George Recile - drums
Stu Kimball - rhythm guitar
Charlie Sexton - lead guitar
Donnie Herron - violin, electric mandolin, pedal steel, lap steel


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↑まつりのあと。







2010/3/28 | 投稿者: losthouse

今日も曇天。少しく肌寒い港区台場。

すっかり通い慣れてしまったゼップ東京というライブハウスへ行き、ボブ・ディラン来日ツアー、東京公演6日目を観る。

実を言うと今日の公演はそもそも行く予定にしていなかったのだけれども、大阪、東京と観続けて来て、連日繰り広げられるその名演奏の数々に、「行かないという選択肢など有るものか、行かなかったら絶対後悔する」という気分になり、でも前売券は完売、当日券も出るのかどうか判らない、という状況でくよくよしていたところ、Twitterでチケットを譲ってくれる親切な御仁と出会い、幸運にもチケットを手に入れる事が出来たのだった。しかも整理番号はAブロックの900番台という良番。譲って頂いた方には、全くもって感謝の念に堪えない。


開場と同時に入場。今日は折角の良番なので、フロア前方の揉みくちゃエリアに陣取る。
開演前のSEとして、今日もポップな音楽にのせた英語の朗読が流れている。なんでもこれはケルアック「路上」の朗読なのだそうだ。「オン・ザ・ロード」ってこと?

ステージ奥で焚かれているインセンスの香りが、今日は僕の居る場所にまで漂って来る。
バンド・メンバー用のドリンクとセット・リストが配置され、今日も唐突に始まるヤナーチェクのSE。
客電が落ちて、アナウンスが流れ、揃いの黒スーツを着たメンバー5人と、こちらも黒スーツのボブ・ディランが登場。
今日のディランは白い帽子に、銀のラメ入りシャツ+ネクタイ(スカーフ?)。

1曲目が始まる。が、なんだこりゃ?ハードなギター・リフが繰り返される。
こんな曲知らないぞ、と思って慌てていると、ディランが歌い出して漸く曲名が判った。
79年のゴスペル・アルバム「スロー・トレイン・カミング」B面の1曲目、「考え方を変えよう」だ。
なんとまぁマニアックな選曲。意外な曲目に、客席も盛り上がる。

2曲目も、何だか聴きおぼえの無いイントロ。ディランがオルガンを離れ、ステージ中央のスタンド・マイクに忍び寄り、歌い始める。
「My love she speaks like silence…」おお、「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」だったのか!
低音の効いたボーカルで、シリアスに歌い込むディラン。今日のボーカルも絶好調なのは言わずもがな。ハーモニカのソロも大変素晴らしく、ディラン自身も盛り上がったのか、コーラスふた回しぶんハーモニカを吹き続ける。
ここまで2曲、日本ツアー初披露となる曲目が続く。

3曲目、今日もぺけぺけギターが炸裂した「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」を挟んで、4曲目にはまたしても日本ツアー初登場、「運命のひとひねり」。
言葉のひとつひとつを丁寧に歌い込むボーカルが素晴らしい。

「トゥィードルディーとトゥィードルダム」でロックンロールの世界へ舞い戻った後、「嵐からの隠れ家」。今日はドニー・ヘロンのペダル・スティール・ソロが素晴らしかった。

次が「サマー・デイズ」。連日ニコニコでノリノリのディランが観られる曲目だが、今日もとっても楽しそう。客席を指差して、歯を剥き出して笑っている。

8曲目には、2006年のアルバム「モダン・タイムス」の白眉となる名曲「ワーキングマンズ・ブルース#2」が、これも日本では初めて演奏された。

次の「ハイ・ウォーター(チャーリー・パットンに)」でも、バンジョーを手にしたドニー・ヘロンの活躍が目立つ。彼の演奏に煽られて、ステージ中央で歌うディランのボーカルにも火が着くのがわかる。

そして10曲目、東京初日に僕の涙腺を決壊させた「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」が再び登場。
それにしても美しいメロディ。美しいボーカル。この曲のこのアレンジを聴いていると、どうかこのまま演奏が終わらないでいて欲しい、と祈るような気持ちになってしまう。僕にとっては今回の日本ツアーを代表する曲目になってしまった。

11曲目は不動の「ハイウェイ61再訪」。今日はチャーリー・セクストンのスライド・ギターが炸裂してて良い感じ(ジョニー・ウィンター・バージョンへのオマージュか?)。

次にはまたしても日本初登場、「ネティ・ムーア」が演奏される。矢張りバイオリンを弾くドニー・ヘロンの貢献が目立つ。
そしていつもの「サンダー・オン・ザ・マウンテン」、「やせた男のバラッド」を熱演して、本編は終了。


数分の後、アンコールに応えて、これも不動の「ライク・ア・ローリング・ストーン」が始まる。
実はこれまで、「ライク・ア・ローリング・ストーン」に関しては、いかにもファン・サービスといった感じであまり前向きに聴けていなかったのだけど、今日の演奏を聴いて認識を改めた。
ニコニコと楽しそうに演奏をするディラン。客席を指差して、「おいおい何かすげぇ盛り上がってるよ」とでも言わんばかりに、演奏中にメンバーの方を向いて爆笑するディラン。途中で歌詞を忘れたのか詰まってしまい、照れ臭そうにするディラン。もう一回ひとヴァース歌い直すディラン。そんなディランを眺めて微笑む、トニー・ガーニエやドニー・ヘロン。最初から最後まで、メンバー全員が演奏する歓びに満ち溢れている。とても良い演奏じゃないか。

次の「ジョリーン」も、いい加減聴き飽きても良さそうなものだが、やっぱり面白い。
ブレイクの部分でノリノリになって歌うディランを、間近で観られるだけでも幸せだ。

そしてメンバー紹介の後(今日は出身地の紹介は無かった)は、今日も「風に吹かれて」のイントロが始まった。
「The answer, my friend, is blowin’ in the wind,The answer is blowin’ in the wind」
コーラス部分の終わりで、客席から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
そしてオルガンを離れ、ステージ中央に歩み出たディランが吹く素晴らしいハーモニカのコーダで、今日のライブは終了した。

歓声に応えて、メンバーと共に舞台中央に一列に並び、両手を小さく挙げるディラン。
いつもはそれだけでスッ、と帰ってしまうのに、今日は客席に向けて深々とお辞儀をしていた。


Set List:
Zepp Tokyo
March 28, 2010

1.Gonna Change My Way Of Thinking

2.Love Minus Zero/No Limit

3.I'll Be Your Baby Tonight

4.Simple Twist Of Fate

5.Tweedle Dee & Tweedle Dum

6.Shelter From The Storm

7.Summer Days

8.Workingman's Blues #2

9.High Water (For Charley Patton)

10.Tryin' To Get To Heaven

11.Highway 61 Revisited

12.Nettie Moore

13.Thunder On The Mountain

14.Ballad Of A Thin Man

(encore)
15.Like A Rolling Stone

16.Jolene

17.Blowin' In The Wind


Band Members
Bob Dylan - guitar, keyboard, harp
Tony Garnier - bass
George Recile - drums
Stu Kimball - rhythm guitar
Charlie Sexton - lead guitar
Donnie Herron - violin, banjo, pedal steel, lap steel




2010/3/26 | 投稿者: losthouse

曇天。小雨もそぼ降る港区台場。

ゼップ東京、というライブハウスへ行き、ボブ・ディラン来日ツアー、東京公演5日目を観る。

21日に引き続き、今日のチケットもBR200番台。かなり後ろの番号である。
前回味を占めたので、今日もフロア前方には目もくれず、最後方に位置する一段高くなったブロックへ突進。ステージ全景を見渡せる、好ポジションを確保することが出来た。

開演予定時刻を少し過ぎた頃、唐突なタイミングでSEが鳴り(ヤナーチェクの曲らしい)、客電が落ちる。
いつもの呼び込みアナウンスが始まり、バンド・メンバーとご本尊がステージへ登場。
フロアを埋め尽くす群衆の拍手と歓声。

今日のディランはいつもの黒スーツに黒帽子、それに緑色のスカーフ付き?シャツ。
オルガンの定位置に着いて、ブギーのイントロが始まる。

1曲目は「豹革の縁なし帽」。
大阪で観たときと同じ曲目だが、フロアの前方で揉みくちゃになりながら観ていた大阪公演と違って、今日は落ち着いて演奏を堪能出来る。
そのせいかも知れないが、大阪での演奏よりも、バンドも歌も幾分タイトに感じられる。
ディランは今日もニコニコでご機嫌。「Pill-box haaaaaat!」とシャウトする部分では、客席の真正面に顔を向け、「どうだ、凄ぇだろ」みたいな表情で観客を煽る。

2曲目、「レイ・レディ・レイ」。
ディランがオルガンを離れ、ステージ中央のスタンド・マイクで熱唱する。
これもまた大阪公演と同じ曲目。しかし明らかにディランとバンドの演奏に対する集中度が違う。
大阪ではディランのハーモニカを存分に堪能する事が出来たが、今日はハーモニカは少なめ。その分、堅実な演奏が繰り広げられる。

3曲目には、日本ツアー初登場の「親指トムのブルースのように」が演奏された。
奔放なイメージを連ねる歌詞が、オリジナル・バージョンとはまるで違う、不安定でありながらも実に美しいメロディ・ラインで歌われる。
今日もボーカルは絶好調。

4曲目は僕の大好きな「エヴリ・グレイン・オブ・サンド」。
81年のアルバム「ショット・オブ・ラヴ」に収録されたスロー・ナンバーだが、現在のディランの手に掛かると、とてもソウルフルで激しい演奏に生まれ変わってしまう。
曲の後半では、ステージ中央に進み出てハーモニカ・ソロ。
ベンドの効いた、素晴らしいソロを聴かせる。

5曲目、「サマー・デイズ」。
東京公演初日でも、ノリノリのディランを拝む事が出来たロックンロール。
今日も、お尻を振りながら、早口で歌詞をまくし立てる上機嫌のディラン。モールス信号みたいな不思議なオルガン・ソロを奏でる上機嫌のディラン。フロアの歓声も一際大きくなる。

薄暗い照明のなかで、ドスの効いた低音ボーカルを披露した「シュガー・ベイビー」と、演奏が堅実にまとまり過ぎてちょっと小じんまりしてしまったかな、という感じだった「トゥィードルディーとトゥィードルダム」を挟んで、8曲目には「メイク・ユー・フィール・マイ・ラブ」。
大阪ではオルガンを弾きながら歌ったこの曲で、何とディランがギターを持ち出した。今日もサンバーストのストラトキャスター。
メロウで美しい演奏を聴かせるバンドにのせて、イントロから調子の外れた爆音ギターが鳴る。
ぺけぺけぺん、ぺけぺけぺん、という「これぞディランのギター・ソロ」なフレーズに、観客が沸く。

そして、ここから本編終了の14曲目までは、大阪で観たライブと全く同じ曲目が続いた。
「日替わりのセット・リスト目当てに、日参して色んな曲を楽しみたい」追っかけとしては、外れくじを引いた気分だが、逆に考えると、「全く同じ曲目でも、日によって演奏がこんなにも違う」楽しみを味わえるというのは、ディランのライブでは希有な体験だとも言える。

バンドのノリは大阪で観たときよりも格段に良くなっているし(しかしチャーリー・セクストンだけは何故か大阪よりも大人しめだった。ディランに怒られたのか?)、ディランのボーカルも気迫が増している。

「オネスト・ウィズ・ミー」では、歌の途中で客席を指差して「ウワーハッハッハー」と笑い出してしまったディランを観られたし、今日の「痩せた男のバラッド」は、ディランの振り付けが以前よりだいぶ大仰になっていて、その一挙一動が兎に角格好良かった。


そしてアンコール。
ここからはいつも不動の3曲なので、「ライク・ア・ローリング・ストーン」「ジョリーン」が終わり、ディランによるバンド・メンバーの紹介が終わった時点で(ちなみにこの日のメンバー紹介では、名前と担当楽器と共に、それぞれの出身地までが紹介された)、「さて、次は見張り塔で終わりだな。今日も良かったな」と安心していたところ、どうもディランがごそごそとハーモニカを準備している。
「あれ?見張り塔でハーモニカは吹かない筈では?」と思っていると、後ろでドニー・ヘロンがバイオリンを構えている。
まさか、と思っていると、「風に吹かれて」のイントロが鳴り出した。
ビートの効いた、雄々しいアレンジ。
「How many roads must a man walk down」の歌い出しで、興奮の坩堝と化すフロア。
気迫のハーモニカ・ソロで、歓声に応えるディラン。
サプライズにふさわしい選曲だった。


さて、残すところあと2日。次はフロア前方で、また揉みくちゃになりながら観よう。


Set List:
Zepp Tokyo
March 26, 2010

1.Leopard-Skin Pill-Box Hat
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

2.Lay, Lady, Lay
(Bob center stage on harp)

3.Just Like Tom Thumb's Blues
(Bob on keyboard and harp, Donnie on lap steel)

4.Every Grain Of Sand
(Bob on keyboard then center stage on harp)

5.Summer Days
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

6.Sugar Baby
(Bob center stage on harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

7.Tweedle Dee & Tweedle Dum
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

8.Make You Feel My Love
(Bob on guitar, Stu on acoustic guitar)

9.Honest With Me
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

10.Po' Boy
(Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

11.Highway 61 Revisited
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

12.I Feel A Change Comin' On
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

13.Thunder On The Mountain
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar)

14.Ballad Of A Thin Man
(Bob center stage on harp, Donnie on lap steel)

(encore)
15.Like A Rolling Stone
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

16.Jolene
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Tony on standup bass)

17.Blowin' In The Wind
(Bob on keyboard then center stage on harp, Donnie on violin)


Band Members
Bob Dylan - guitar, keyboard, harp
Tony Garnier - bass
George Recile - drums
Stu Kimball - rhythm guitar
Charlie Sexton - lead guitar
Donnie Herron - violin, pedal steel, lap steel




2010/3/21 | 投稿者: losthouse

前日の嵐も収束し、穏やかに晴れて暖かい、港区台場。

ゼップ東京、というライブハウスへ行き、ボブ・ディラン来日公演、東京初日を観る。

今回の日本ツアーの中でも、最も競争率の高いチケット争奪戦が繰り広げられた東京初日。
あらゆる手練手管を駆使して、やっとの思いで手に入れたチケットは、BLブロック400番台。
有り体に言えば、いちばんうしろである。

律儀にも、開場時刻である16:00には列に並び、整理番号が呼ばれるのを待っていたものの、いつまで経っても番号は呼ばれず、結局入場出来たのは開演予定時刻の約15分前、16:45頃のことであった。

中に入って吃驚したのはその人の数。群衆がフロアを埋め尽くしている。先々週の大阪公演ののどかさが懐かしくなる。
前方へ行くのは諦めて、今日はうしろのほうでゆっくり観ようと、一段高くなった最後方のブロックを陣取る。
これはこれで、ステージ全体が見渡せて良い感じ。

大阪で観たときのように近くは無いので、今日はインセンスの香りが届いて来ない。
客電が消えて、いつもの呼び込みアナウンスが始まる。
客席の歓声とどよめきが、地鳴りのように響く。

1曲目は「河の流れを見つめて」。
ディランは大阪のときと同じ黒のスーツに、今日は黒地に白い水玉のシャツ。それに白い帽子を被っている。
「水玉の時のディランは本気だ」というのは誰が言い出したか知らないが、根も葉もないつくり話だとは思うのだけど、それでも期待が高まってしまう。
ここで、自分が確保したポジションが意外に恵まれていた事に気付く。
オルガンを弾きながら歌うディランの丁度真正面であり、歌うディランの表情をじっと見ていられるし、バンド・メンバー5人の姿も全て見渡せる。偶然この場所に立った、自分の幸運に感謝する。
立っている場所のせいなのか、音響も抜群に良い。ディランのボーカルがとても良く聴こえる。というより、ディランの声の調子が良いのか?

2曲目が、大阪では4曲目に演奏した「ドント・シンク・トゥワイス」。いきなりのギター曲だ。
ディランがサンバーストのストラトキャスターで、辿々しくも印象的なリード・ギターを弾く。
やっぱりボーカルが圧倒的に良い。今日のディランの喉は絶好調の様子。

続いて、「アイル・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」のイントロが鳴る。なんと2曲続けて、「ギタリスト・ボブ・ディラン」が堪能出来るセット・リスト。日によってはギターを1曲も弾かない日もあるというのに、本当に気まぐれというか、自由なひとだ。
しかしこの曲のギター・ソロは本当に素晴らしかった。ブルース・マナーではあるのだけれど、時折アラビックにも聴こえてしまう独特のフレージング。ディランかキース・リチャーズにしか、こんな変梃なギターは弾けまい。


そして今日のハイライトは、6曲目から始まった。
「嵐からの隠れ家」が、簡素でありながらも実に力強い、ミディアム・テンポのアレンジで始まる。
今日のディランはとても丁寧に、歌詞を歌い込んで行く。ひとつずつの言葉と声に、命が在る。
個人的にも凄く思い入れのある歌なので、その素晴らしい演奏に胸を詰まらせてしまった。

続く「サマー・デイズ」で、バンドは再びロックンロールの世界へ突入。
チャーリー・セクストンのリード・ギターがディランを煽り、ディランもオルガンで応戦する。
最後のヴァースに入る直前で、ディランのスイッチが完全にオンになり、前後左右に身体を揺すり、くねくねと踊り出す。
そして、ディランの歌声にも火が着く。「Summer days, summer nights are Gone!」
素晴らしいボーカルに、客席からも歓声の嵐。

8曲目が、「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」。
97年のアルバム「タイム・アウト・オブ・マインド」に収録されていた曲だが、アルバムよりも数段ソウルフルでエモーショナルなアレンジに生まれ変わっていて、ここでもまた、ディランのボーカルが聴く者の心を鷲掴みにする。
ボブ・ディランをして、歌が下手だとか、カエル声だとか、ゲロゲロだとか言っている輩には、今日のこの曲の演奏を是非聴いて欲しい。
ここまで、言葉のひとつひとつに感情を込め、伸びやかで、力強い歌声で歌える歌手を、僕は他に知らない。
生まれて初めて、ひとが歌う姿を観て本気で落涙してしまった。

次も再び「タイム・アウト・オブ・マインド」から、「コールド・アイアンズ・バウンド」。
暗くハードなアレンジで、ステージ中央に置かれたスタンド・マイクに向けてディランが吠える。
ブルースとは、ロックとはかくあるべし。

10曲目には、今回のツアー初登場となる「ミスター・タンブリン・マン」が演奏された。
客席からは、割れんばかりの歓声と拍手。

そして「ハイウェイ61再訪」のロックンロール大会で盛り上がり、「ノット・ダーク・イエット」ではまたしても「歌手ボブ・ディラン」の歌唱力に舌を巻き、「サンダー・オン・ザ・マウンテン」は前回の大阪よりもまた更にパワー・アップしていたバンド演奏に驚愕し、迫力満点の「やせた男のバラッド」で本編は終了した。

アンコールの曲目は連日固定のようで、大阪公演と同じく、「ライク・ア・ローリング・ストーン」「ジョリーン」「見張り塔からずっと」の3曲。


それにしても、今日のボーカルは凄かった。
これまで僕が観たボブ・ディランのライブのなかでも、ベスト・ワンである事は間違いない。
もう一度言うが、「ボブ・ディランは歌が下手だ」と思っているひとは、今日の「トライン・トゥ・ゲット・トゥ・ヘヴン」をブートレグで聴いてみて欲しい。
ひとつずつの言葉に生命を吹き込めるひとが、本当に「上手い歌手」だと僕は思っている。

涙の跡を拭きながら、そそくさと退場。


Set List:
Zepp Tokyo
March 21, 2010

1.Watching The River Flow
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

2.Don't Think Twice, It's All Right
(Bob on guitar, Donnie on lap steel, Tony on standup bass)

3.I'll Be Your Baby Tonight
(Bob on guitar, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar)

4.Sugar Baby
(Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

5.Tweedle Dee & Tweedle Dum
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

6.Shelter From The Storm
(Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

7.Summer Days
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel, Tony on standup bass)

8.Tryin' To Get To Heaven
(Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel)

9.Cold Irons Bound
(Bob center stage on harp, Donnie on lap steel)

10.Mr. Tambourine Man
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

11.Highway 61 Revisited
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

12.Not Dark Yet
(Bob center stage on harp, Donnie on lap steel)

13.Thunder On The Mountain
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Stu on acoustic guitar)

14.Ballad Of A Thin Man
(Bob center stage on harp, Donnie on lap steel)

(encore)
15.Like A Rolling Stone
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

16.Jolene
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Tony on standup bass)

17.All Along The Watchtower
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)


Band Members
Bob Dylan - guitar, keyboard, harp
Tony Garnier - bass
George Recile - drums
Stu Kimball - rhythm guitar
Charlie Sexton - lead guitar
Donnie Herron - pedal steel, lap steel





2010/3/12 | 投稿者: losthouse

南へ下る道路には避難民が溢れ僕は新幹線のぞみ号で。
大阪へやってきた。

地下鉄を乗り継ぎ、大阪港周辺の鄙びた土地に有るゼップ大阪、というライブハウスへ行き、ボブ・ディランのライブを観る。

苦労して手に入れたチケットは、整理番号700番台。
開場と同時に入場し、ステージセンター前、ディランまで数メートル、という絶好のポジションをキープする。

インセンスが焚かれ、客電が消え、司会者による呼び込みアナウンスが始まる。
「みなさん、ロックンロールの桂冠詩人に拍手を。60年代のカウンター・カルチャーの希望の星、フォークとロックを交合させた男。70年代には化粧をし、薬物濫用のとばりに姿を隠した男。イエスを見つけて再び登場し、80年代後半には過去の人と呼ばれた男。そして90年代後半、突然ギアを入れ替え、強力な音楽を発表し、いまも盛んな活動を続ける、コロンビア・レコーディング・アーティスト、ボプ・ディラン!」

1曲目は「豹革の縁なし帽」。ディランは黒のスーツに黒の帽子という格好で、ステージ上手のオルガンを楽しそうに弾いている。スーツの下の鮮やかな緑色のシャツが、暖色の照明に映える。対するバンド・メンバーは、揃いの灰色のスーツに身を包み、疾走感溢れるブギーのリズムを奏でている。客席には絶叫がこだまし、僕も揉みくちゃ。

2曲目の「レイ・レディ・レイ」で、ディランはキーボードを離れ、片手にハーモニカを持ってステージ中央のスタンドマイクに向かい、楽器を弾かずにただただ歌う。
この後、7曲目の「トゥィードルディーとトゥィードルダム」と、本編ラストの「やせた男のバラッド」でも、楽器を持たずに歌唱に専念する「歌手ボブ・ディラン」が堪能出来たが、ハンドマイクを左手に持ち、ちょっと小指を立てて気持ち良さそうに歌うその姿が、まるでプロダクションの忘年会でバック・バンドを率いてスタンダードを歌うさいとう・たかをみたいで凄く格好良い。

アンコールはお馴染みの「ライク・ア・ローリング・ストーン」で始まり、3曲を演奏。
凄絶な「見張り塔からずっと」を熱演して、本日のライブは終了した。

ステージ前方にバンド・メンバーたちと並び、帽子を脱ぎ、両手を掲げて観客の歓声に応えるディラン。
揉みくちゃになって大騒ぎする客席を眺めては、にこにこと楽しそうに微笑むディラン。
全体的にとても上機嫌な印象だったが、このご機嫌を持続してツアーを続けてくれれば、きっとこの後の東京でも素晴らしい演奏を観ることが出来るだろう。

僕も、これまでの人生で最も近い距離でご本尊の姿を目の当たりにする事が出来て、揉みくちゃになりながらも終始楽しくて仕方なかった。

終演後はミナミで乾杯。ディランのご機嫌にアテられて、許容量を超えて飲む。騒ぐ。歌う。


Set List:
Zepp Osaka
March 12, 2010

1.Leopard-Skin Pill-Box Hat
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

2.Lay, Lady, Lay
(Bob center stage on harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar)

3.Beyond Here Lies Nothin'
(Bob on keyboard, Donnie on trumpet)

4.Don't Think Twice, It's All Right
(Bob on guitar, Donnie on lap steel, Stu on acoustic guitar, Tony on standup bass)

5.The Levee's Gonna Break
(Bob on keyboard, Donnie on electric mandolin, Tony on standup bass)

6.Just Like A Woman
(Bob on keyboard and harp, Donnie on pedal steel, Stu on acoustic guitar)

7.Tweedle Dee & Tweedle Dum
(Bob on keyboard then center stage on harp, Donnie on pedal steel)

8.Make You Feel My Love
(Bob on keyboard and harp)

9.Honest With Me
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

10.Po' Boy
(Bob on keyboard and harp)

11.Highway 61 Revisited
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

12.I Feel A Change Comin' On
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)

13.Thunder On The Mountain
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Stu on acoustic guitar)

14.Ballad Of A Thin Man
(Bob on center stage on harp, Donnie on lap steel)

(encore)
15.Like A Rolling Stone
(Bob on keyboard, Donnie on pedal steel)

16.Jolene
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel, Tony on standup bass)

17.All Along The Watchtower
(Bob on keyboard, Donnie on lap steel)


Band Members
Bob Dylan - guitar, keyboard, harp
Tony Garnier - bass
George Recile - drums
Stu Kimball - rhythm guitar
Charlie Sexton - lead guitar
Donnie Herron - trumpet, electric mandolin, pedal steel, lap steel




2010/3/5 | 投稿者: losthouse

小学館クリエイティブの有る方角へ、足を向けずに寝られない日々はまだまだ続く。

水木しげる「恐怖の遊星魔人」限定BOX を購入。

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これまでにも「地獄の水」や「怪獣ラバン」など、水木貸本漫画の中でも余り復刻される機会が少なかったタイトルを、安価で次々と刊行してきた小学館クリエイティブだが(「お笑いチーム」に至っては史上初の復刻を果たした)、ここに来て、遂に真打ち登場の感である。

世の中にレアな貸本漫画は数あれど、「恐怖の遊星魔人」程に「レア」「幻」といった形容が似合う本は他に無い。
現在国内で確認されている初刊本は僅か数冊と言われるが、何せ、著者である水木しげる本人にしてからが、当時出版されていた事を知らなかった、という曰く付きの作品である。
90年代に入り、漸くマニヤの手によって発見された「恐怖の遊星魔人」は、少部数の限定出版として目出度く復刻されたが、何せ部数が少なかった為に瞬く間に完売。この復刻版ですら、古書店やオークションでは高値で取引されていた。

こんなもん定価1万円でも良いような気がするが、小学館クリエイティブから出た今回の復刻版は、税抜4200円。
繰返すが、とても足を向けては寝られない。

今回も「限定BOX」と名付けられている以上、(以前出た復刻版ほどの少部数では無いにせよ)部数限定なのだろうから、そこのあなたは今すぐ書店へ急ぐがよろしい。




肝心の中身はと言えば、これが驚く程の傑作である。
書かれたのは恐らく水木しげるが漫画家としてデビューしてから僅か2年後、と推測されているが、それでいてこの完成度は目をみはる。
画も、物語も、構成も、すべてが完璧。初期貸本作品の中では、かなり重要な一編と言えるだろう。

さ、次は「ロケットマン」が出るか、「ベビーZ」が出るか。はたまた「ブル探偵長」か。





2010/3/2 | 投稿者: losthouse

伊藤計劃のデビュー作、「虐殺器官」が文庫化された。

これを機会に、と再読し、もう一度感動する。
今世紀の日本SFにおける、いや、今世紀の日本文学における最重要作である、と改めて思った。


初読のときもそうだったが、読んでいて、安部公房のことを思い出す。
両者の作品が似ている、という事はまるで無いのだけど、クレオール文化に入れ込み、「言語」の発生という事に執拗にこだわり続けた晩年の安部公房に、是非「虐殺器官」を読んだ感想を聞いてみたかった。

しかし伊藤計劃も安部公房も、いまでは故人だ。

安部公房が生前準備していたという「アメリカ論」と、伊藤計劃の第四長編「屍者の帝国」が最後まで書かれなかったのは、この世界にとって大きな損失だと思う。


ちなみにこの文庫版「虐殺器官」は、好調な売れ行きで既に四刷が決定したらしい。
こういう本当に素晴らしい小説が広く読まれるのは、大変良いことだと思う。

最後に、同期デビューの盟友、円城塔がTwitterに2/26付で投稿したツイートを勝手に引用して終わり。

『伊藤計劃は五万部くらい売れるべきだし、僕はその半分くらい売れるべき。それは最初から言っていたこと。舐めんな。』

ごもっとも。








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