オール群馬コンテストの結果が出た、といふことらしいのですが、今回、ある、いたいけな学生さんが、誰かにそそのかされてひどい目にあったというらしいことを元に、小説を書いてみました。
その個人文庫の名前は、「土砂降り文庫」としてみました。
自分のアマチュア活動の新たな境地としてのアマチュア無線小説家の最初の拙い一文ですが、御笑覧賜はりまして、ご指導ご鞭撻いただければさいわひであります。
土砂降り文庫(1)
ペヤング
クソリプ川まっきー之介
蒸し暑い日だったことだけは覚へて居る。遺りの記憶はほとんど無い。
さうだ、あれはオールグンマーコンテスツのことだったのか知ら? それすらももう記憶に無いのだがたぶんそうだ。
おれは宇佐美にそそのかされて、わざわざ赤城山まで壱拾貫目もある荷物を背負い、オールグンマーコンテスツに、倶楽部コオルで単身部門に出るべく出撃したのだが、気がついたらCQテスツを垂れ流しのまま気絶してゐたのだつた。
まだ6月だといふのにミンミン蝉が五月蠅かつた。そして喉が渇いて仕方なかつた。
だが水は無かつた。水を得るためには、この見晴らしのよい山から三百めえとるも下った谷まで降りなければならない。
「水、みず。!みずを呉れええ!!」、と叫んでみたものの、俺をそそのかして赤城山まで登らせた宇佐美は居ない。
「おのれ!宇佐美め!、自分の手柄のために俺をこんな目に遭わせやがつて!!」、、、俺は今頃はぐつすりとヒルネを決め込んでいるだろう宇佐美の住んでいる鈴鹿山麓の方角に向かって睨みつけた。
だが赤城山から鈴鹿山が見える筈は無い。ガツクリと岩に腰を落として、ふと右手に軽くて四角い箱が手に触れた。
「何か知ら?」、目を遣ると、その四角い赤い箱には、黄色の毒々しい文字で、
ペヤングやきそば、と書いてあつた。
「やきそば?」、真上から日が照りつける、そのラツプが反射する箱の文字を見て、俺は、もう早、昼過ぎであることを知った。とたんに腹がへつた。
――誰よりも十戒を守つた君は 誰よりも十戒を破つた君だ。
そんな言葉がふと頭を過ぎった。 だが空腹を癒やそうにも、カツプやきそばには水が必要なことは、朦朧とした頭の俺でもわかる。 「水、みず!!、水を呉れえええ!!!」、再び俺は赤城山から虚空に向かつて叫んだ。
だが誰も助けに来るはずが無いそんなことはとうに解つている。 日光の照りつける外に居ては危ない。さう考えた俺は、日を避けるためテントに戻つた。
熱気に噎せ返へるテントのなかでは、俺の運んだFT-817が「はい!ごーきゅーひとろくひとさんですね!ありがとうございました!、QRZ? こちらはじゅりえいと」などと呑気にがなり立てている。
いらついていた俺はFT-817を蹴飛ばしてテントの外に追いやり、そして宇佐美がヒルネしている鈴鹿山方面の谷底に放り投げた。すこし気が晴れた気がした。頭の中ではCQ GM TESTのモヲルス符号が繰り返へし鳴り響いてゐる。
――陽気のせいで神も気違(きちがい)になる。
またしばらく気絶していたやうだ。気がつくと、太陽は背後の赤城山の上にあつた。さらに喉が渇いていた俺は、ふたたび、「水、みず。!みずを呉れええ!!」と思わず叫んでしまつた。だが水は無い。
「もう俺は死んでしまうのかな? 宇佐美に乗せられた俺が莫迦だつたんだな」、いまはもう宇佐美への恨みも薄れ、甘い夢の中に入りこんで行くやうだつた。
、、と、左足に何か冷たい丸いものが触れた。火に触れたやうに起き上がってその透明に光る丸い円筒形のプラスチツクボトル――
―それは宇宙から降りてきた物体のやうにも感じられた―
を取り上げてみると、そこには、黒マジツクで、
赤城山御神水と書き殴りのやうに書いてあつた。
さうだ、これは宇佐美が、グンマーコンテスツで勝てるやうにとお守りに俺に持たせたものだったのだ!! たしか
ペヤング焼きそばも宇佐美が持たせて呉れたはずだ。
急に記憶がはつきりした俺は、今頃は、鈴鹿山でまだヒルネして居るであろう宇佐美に初めて感謝の念が沸いた。
幸ひ、運び上げたバツテリヰにはまだ蓄電は残つているやうだつた。コツヘルに
赤城山御神水を注ぎ、バツテリヰからの電力で湯を沸かした。
そして
ペヤング焼きそばのラップを乱暴にむしり取り、湯を注ぎ入れ、規定の三分も待てずに、まだ固い麺にソースを混ぜ込み一気に喰らい込んだ。
そして再び俺は宇佐美に対して、今度は殺意が沸いた。その
ペヤング焼きそばの蓋には、
ペヤング 激辛やきそば
まるか食品株式会社
と書いてあつた。
頭の中に鳴り響いていたCQ GM TESTのモヲルス符号も、エコヲを引きながら遠ざかつていった。
底本:「現代日本文学大系43クソリプ川まっきー之介集」冗楽書房
2017(平成29)年8月25日初版第1刷発行
入力:長倉 大
校正:長倉 大
監修:ポンコツ森子
2007年6月29日公開
土砂降り文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、土砂降り文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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