「因果」という言葉がある。「因=原因」「果=結果」この世で起こりえる全ての現象には原因と結果が存在する。
今回のレースアクシデントも、そのように考えると原因が存在するはずだ。ただし、あくまでも個人的見解によるもので絶対とは言えない事を付け加えておきます。
今回のレースアクシデントは私の分析では、「起こるべくして起こった」と認識しています。
阿部選手との接触は、今回が初めてではなく130Rで故意に当てられた1回(ビデオ有り)、後の2回は立上がり並走しながら当てられ、今回が4回目だという事。
原因1 「ラインの違い」
私のラインは、セオリー通り「アウトインアウト」阿部選手のラインは「インインアウト」故意に当てて来た1回は除き、今回も含めた3回の接触は全て立上がり区間。私が「アウトインアウト」で進入し阿部選手が「インインアウト」で進入する。最も接近するのがクリッピングポイントである。クリッピングポイントから二台は並走状態になる。ラインの関係から毎回、阿部選手がイン側、私がアウト側になる。「インインアウト」のラインの阿部選手は立上がりでアクセルワークを考えず、すぐさまアクセルを全開にする。そうする事でリアタイヤがブレイクし私に接触してしまうのだ。接触された私のクルマは、阿部選手のクルマがリアから角度を付けて接触する関係でアウト側へ弾き飛ばされるのだ。
ならば、「インを開けず閉めれば接触が起こらない」という意見もあるだろう。しかし、阿部選手のラインの特異性を考えると難しい。例えば、2車線の高速道路を頭に浮かべて欲しい。追い越し車線が「アウトインアウト」のレコードラインとすると、「インインアウト」の阿部選手のレコードラインは走行車線となる。そしてインを刺しに来るラインは路肩を使って進入してくる。あくまでもラインに規則は無いので決めつけは出来ないものの、普通はお互いに追い越し車線を走行し、パッシング時には走行車線側からインに進入して来る。そのインを阻止する為にこちらも走行車線にラインを変えてインを閉めるのが普通ではないかと思う。
それが、私が追い越し車線を走行している時に、阿部選手は路肩を走行しコーナーのインに進入して来るのだ。さすがにミラーの死角に入り見えない所から進入されクリップで並ばれてしまう。また、そんなインから進入しクリップ付近は小回りし、立上がりでアウトにはらんでくるという事だ。
通常ブロックラインである走行車線を走行して阻止しようとするも阿部選手は路肩を使ってインに入ってくる。そうなると私も路肩を走行しないとブロックラインにならないという訳だ。仮にそうした場合、私のクルマは立上がりで速度が伸びず、その先で抜かれてしまう。それは何故か? 阿部選手のクルマはコーナーからの加速を重視したギア比になっている。同じ「インインアウト」のラインを使っても不利になるという事だ。
不利になる事も一理あるが、それよりも「そんな走りを私はしたくない」
結論として、お互いのラインの違いにより接触は避けられない。
原因2 「セッティング」
以前、阿部選手のクルマのリアダンパーをたまたま見た事があった。ビルシュタインダンパーのシャフトには、パンプラバーが取付けてありシャフトがストロークする距離が極めて短かった。ようは、初期ロールが始まった途端バンプラバーにタッチしてしまい、ロールを止めてしまう。敢えてパンラバーにタッチさせバンプラバーの硬さでロールを制御する方法かもしれないが、ダンパー、バンプラバーの経年劣化しているところを見るとたまたまそういうダンパーを使っているのか? と思った。
情報によると、以前、クラブマン耐久でパートナーを務めた安橋選手の話しだと「乗りにくく、自分には合わない」とコメントしていたそうだ。それでも、パッと乗って阿部選手のタイムをいとも簡単に更新したと聞いている。また、使用しているスプリングレートが私が使用しているレートの半分のレートらしく、その数値からかなり柔らかい足だと想像できる。
整理してみると、コーナリング時レートの低いスプリングはロールの開始が速く、一気に荷重移動が起こる。ロールが始まって直ぐにパンプラバーにタッチする事でタイヤへ大きな力がかかる。コントロールタイヤであるヨコハマA021Rは20年前に設計されたタイヤだ。タイヤの構造が古く、各ブロックが小さくサイドウォールが柔らかい為直ぐにスライドを始める特性がある。この一連の流れからスピンしやすい状況、立上がり時パンプラバーにタッチしている状態でアクセルオンでトラクションがかかるとスライドしてしまう事になると思う。
ここ最近、エンジンパワーが出て来ただけに進入速度が上がった分、現状の足回りセッティングでは、更に接触のリスクが上がったように思う。
原因1、2を画像から見てみたい。
下の画像は、S字2つ目へ進入して行くカット。(定点撮影)
画像1 インの縁石の始まりを示すグリーンの部分とクルマの距離に注意

画像2 直ぐにはインに寄らずRを描きながら奥にクリップを取る。

画像3 ここから縁石に寄り始める。

画像4 この時点で最大蛇角に近いところまでステアを切り、この後クリップにつく。
続いて阿部選手のS字2つ目へ進入して行くカット(定点撮影)
画像1 縁石の始まりを示すグリーン部分とクルマとの距離が極めて近い(インインアウト)

画像2 左前後輪の深い沈み込み。左フロントタイヤの角度から若干カウンターが当たっている。

画像3 既にイン側縁石についている。ここから再度ステアリングを左に切り足す。

画像4 ここで最大舵角になっている。私の想定するクリップよりかなり手前。
原因3 タイヤの限界
ネオヒスクラスで最も練習量が多いのは、この私だ。練習するには人それぞれ様々な事情がある事だが、阿部選手は一年を通じてほとんど練習しない。それでもレースでは、ほぼ私と同じタイムを出して来る。パワーが必要な西コースに於いてはコースレコードも塗り替えられた。
何故、最も練習する人間と練習しない人間のタイムに差がないのか?
ひとつは、モータースポーツの世界はクルマ8割+ヒト2割。クルマ(エンジンパワーが最も重要)が良ければ勝つ。という世界だ。その中でエンジンパワーに差があるとタイムは接近する。ネオの場合、コントロールタイヤであるA021Rのグリップ性能が低く上限のタイムは、このタイヤによって決まっていると思う。だから、練習しなくてもそこそこドライビング出来ればエンジンパワーに助けられてタイヤグリップの上限であるタイムが出せるのだろう。
原因4 囚われる心
レースの図式からいうと、私と阿部選手は、お互いが優勝を狙うライバルという図式である。この図式がどうにも受け入れられない。受け入れられない理由は上記の原因と同等のドライビングスキルを擁していないという事。
そんな中、私に勝つ為ヘッドレーシングH氏は総力を上げて阿部選手のクルマを速くして来た。H氏と私は27年来の友人。レース一筋の彼が、本気になってクルマを仕上げると運転手の腕は上がらずともクルマが速くなる事を痛い程見せつけられた。私の中では、H氏との戦いに気持ちがシフトして行った。そこから、私なりに頑張ってはみたがクルマに大きな進化を見いだすには至らず焦る気持も多々あった。
だが、今年に入り、ヘッドレーシングが総力を上げて作ったクルマには敵わないとわかった。チームが総力を上げた時これほど違うものか。完敗は認めざるを得ない。
結論
様々な原因を並べ考えたうえでの私の中の結論は「今回をもって、阿部選手とレースをするのをやめる」
最後に、このアクシデントの全てが映し出された#21車載映像です。