横浜・伊勢佐木町の中核として親しまれてきた百貨店「横浜松坂屋」が26日、144年の歴史に幕を下ろした。近年では人気フォークデュオ「ゆず」発祥の地としても知られるデパート。最後の来店客は「さみしい」「思い出をありがとう」などと語った。【野口由紀、写真も】
◆惜別
26日。アールデコ調の美しい外観にカメラを向ける人が後を絶たず、店内でも時計形のエレベーターの階数表示などレトロな装飾を撮影する人も。多くの人でごった返した。
南区唐沢の無職、成澤光男さん(70)は「娘が幼いころ6階のレストランに連れてきた」と思い出を語り「伊勢佐木で唯一のデパートがなくなるのはさみしい」と惜しんだ。
横浜松坂屋の宣伝部で30年間ポスターを撮影していた磯子区岡村の写真家、真殿英男さん(75)は「お疲れ様でしたという気持ちと、楽しい思い出をありがとうという気持ちでいっぱい」と目が真っ赤。正面玄関のゆずのサイン入りパネルは行列ができるほどの人気で、平塚市徳延の歯科技工士、船木麗子さん(29)は「ゆかりの地がなくなるのはさみしい」と話した。
◆閉店
閉店時間の午後7時になると、見送りをする店員に駆け寄り握手する客や、ハンカチで涙をぬぐう店員も。そして、最後の客が去った午後7時35分――。店前のイセザキモールを埋め尽くす人々の前で、櫻井逸美社長がマイクを握る。
「144年間の長い間、皆様方に絶大なご支持とご愛顧を頂き、厚く厚く感謝を申し上げます」
拍手や「ありがとう」が店を包む。店のテーマ曲が流れると温かい手拍子まで起きた。
◆影響
閉店による地元経済への影響はあるのか。伊勢佐木町1・2丁目地区商店街振興組合の加藤昇一理事長(60)は「核になる店がなくなり、経済的にはマイナスにはなるだろう」と危機感を隠せない。
02年の伊勢佐木町の年間売り上げ333億円のうち、横浜松坂屋は130億円を占めた。浜銀総合研究所の新滝健一主任研究員は「松坂屋の休業日には周辺では1〜2割売り上げが減ると聞いた。閉店後、当面閉めたままということも予想され、大きな影響は避けられないだろう」と予想する。
◆白紙
松坂屋の共同持ち株会社のJ・フロントリテイリングは今後、住宅と商業施設の複合施設を建設する方針を6月に示した。横浜市は8月、本館の外観保存を申し入れ。同社は前向きに検討しているが「いまだ白紙の状態」という。

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