この記事の中で刀の握り方についてあったので所見を述べさせて頂きます。
1) 甲野さんの発見、ということで述べられていた刀の握り方は、宮本武蔵の
「五輪書」の「水之巻 第四節 太刀の持ちやうの事」に書いてある持ち方と
通じるものがあると思います。
その方法は甲野さんのやりかたと全く同じではありませんが、「手の内」とい
う表現をしており、両手の下指(しもゆび)二本はしっかりと柄に添え、あと
の三本は刀を包むように持ちます。 柳生新陰流の教えにも「龍ノ口」と呼ばれ
る武蔵が書いたものと全く同じ持ち方があります。 Youtubeなどの演武
で達人の竹刀の持ち方を見ても、剣道の様な握りではなく殆ど力を入れずにふわ
と握っている感があります。高度な組太刀に なると自在に左右の手で太刀を振
りますが、常に柔らかく「居着く」ことがありません。
「龍ノ口」とは太刀を握った時の手を上から見ると、親指と人差し指の付け根
がくの字になり、龍の口の様に見えることからそう呼ばれるらしいです が、近
代スポーツの例を取りますと、ゴルフの握りがまさにそうするように教えられて
いると思います。ゴルフの握りは遠心力に耐えるように左手と右 手を接するよ
うに持ちますが、それを指二本の間を空けると太刀の持ちようになるのです。
ゴルフの例では横から打つのでどうだと仰られると思いますがが、身体の体幹
を使って「働かせる」場合は、横でも剣のように縦でも同じような気が してい
ます。古武道では太刀の背に手の甲が被るように持たないと、きわどい表現です
が、相手を両断する時に刃の上に体重を乗せることは出来ませ ん。ゴルフも
ボールをヒットする瞬間は、真正面への加重が最大にならなくては自分自身のベ
ストショットとは言えないでしょう。太刀を振る場合も、相手に当たる瞬間に
手の内を変えることはあり得ず、斬り合う前からその最終形を取るように教えら
れています。
2) また、私は江戸時代以前は人々はナンバで歩いていた、という定説?に違
和感を持っております。確かに、風俗絵には殆どナンバで動く人々が描 かれて
いるのですが、古武道を嗜んでいてもナンバで走れるかというと、無理です。そ
れは子供の頃からの風習だからだと言われると、そうかなとも思 いますが、稽
古に行く時に重い竹刀袋を背負うと、一番楽な歩き方は「肩で風を切って歩く」
ことです。つまり、「肩を動かさない」で体重を進む足に 預けることが私に
とっては楽なのです。ある番組で「昔はこう歩いたんだよ」と、侍も町民もナン
バで歩かせて見せたのですが、明らかに滑稽であり自 然ではないと思います。
私は知らないのですが、フロイスの記録や幕末に外国人が記録したものはあるの
でしょうか?それがあれば第1級資料なのですが。
私の感覚では、肩を揺らせて歩いていた、と思います。
つらつらと生意気な事を書いてしまい申し訳ありません。宮本武蔵の残した
「五輪書」は尾張藩に円明流として残っており、またお止め流であった柳 生新
陰流の剣客達も円明流についてよく知っていたと思われます。私は「五輪書」に
書かれていることは、当時の古武道では常識のことが多々あったの ではと考え
ています。手の内は勿論、足の運び、相対する時の「位」など、五輪書と新陰流
の教えには共通することが多いからです。
ご興味あれば、五輪書を現在、新陰流に残っている伝えから解説した下の記事
をご覧下さい。
宮本武蔵「五輪書」の技を解説する
http://ncode.syosetu.com/n6168h/

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