牧秀彦氏の「
剣豪全史」という書物を読んで、久しぶりに古武道の記憶をリフレッシュしました。
氏は歴史上名だたる剣豪の史跡・逸話をよく調べられており、現代人のサラリーマン的感覚で好くその人生を位置づけしています。
氏の文の中でも、よく巷でも言われている事に気になっているのは、真剣を振る時に「斬る時に手の内を絞める」と言われていることです。
これは私は誤解を生む表現と思っております。
真剣あるいは居合に使う刃挽きの大刀を振れば分かりますが、重い剣を振り下ろす時すでにしっかりと柄を握らねばなりません。
後は切っ先を意識して総身で振り下ろすだけです。
よく剣道で「あいつの打ちは重い」と言われるのは、打つ時にしっかり握っているからではなく、切っ先に体重が乗っているからです。
その握り方は「手の内」と言われ、我が「
五輪書」の解説に記述されています。
新陰流に「十文字勝ち」という技がありますが、相手が袈裟あるいは横切りに腹を狙って来る時に自分の体の縦の中心線に沿って振り下ろし、相手の拳を砕いて勝つ技です。これは人間が剣を振る時の特徴において、剣の切っ先よりも拳の方が一瞬早く前に降りてくる事実を捕らえたものです。
新陰流の達人は打つ時に切っ先が拳と殆ど同時に降りてきますが、それでも拳を先に打つ事が出来るのです。打つ時に握りを絞めるなどという理論は、まず論外であると言わざるを得ません。

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