泊瀬評価 ★★★★★
北崎拓氏の「ますらお 秘本義経記」(1994年)の第5巻までを古本で読みました。少年誌でここまでの劇画が連載されたとは「花の慶次」以来の驚きです。私の耳に評判が過去、聞こえて来なかったのは、正統に評価されてないと言うことでしょうか?
「牛若丸(遮那王)」の逸話を新解釈で描いており、かつ、鞍馬寺を脱出した遮那王が九州の源氏の隠れ村に行くことや、平家の福原の遷都など、かなりの時代考証をもとにしています。
また、恋愛ものでデビューしたとは思えないほど、鮮烈な遮那王の描き方や、騎馬武者の姿など、筆力は驚くほど高い。「あずみ」の小山氏の描くところよりも、戦闘シーンは実戦に近いと思われます。
源平の戦いは、網野善彦氏などの研究で「東国と西国」あるいは「海民軍と騎馬軍」の、日本を本来は分断するような戦いであったとされますが、東国と九州の結びつきを描いているところは、作者のこの説の造詣の深さを感じます。また、奥州藤原氏が独立国であったという認識は共感に耐えません。
このような真の歴史観に迫る作品はめったにお目にかかることはありません。時代小説にも劣らない立派な作品です。
ただ、欲を言えば、漫画の所々に少女漫画の手法が少し出てくるのは興ざめでした。驚いたときや拍子抜けしたときなどの、少女漫画で培われたおきまりの表現はこの作品の芸術的価値をちょっと低めています。作者の経歴が多分少女漫画家のアシスタントから始まったのでは、と想像します。
また、遮那王を興福寺の阿修羅の様に描いており、人間嫌い、女嫌いとしていますが、描き方として「やおい」の背景を匂わせ、なかなか「むふふ」の箇所があります。
私は応援します。

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