今後の経過を冷静に見ていたいが、監査法人の責任論が出るのは当然である。政府も「企業統治の実効化」に乗り出しているが、結局は、経営者がどこまで腹をくくって取り組むかにかかっている。アメリカでは、金融の不正告発者に報奨金制度を創設したようであるが、日本の経営者がそこまで真剣に考えているとは思えない。今回も、コンプライアンスの向上のための形式的な制度改正で収束させるのではないだろうか。そして、同類の事件は、数年後にまた発覚するだろう。
しかし、目先で、監査法人による監査の厳格化の動きが出ると思われる。リッチメディアの上場の突然の中止も、その動きの一端かも知れない。取引相手先に対する反面調査は、書面によって行うので時間がかかる。東証の指摘が発端だったかどうかわからないが、調査の結果が出るのが上場日のぎりぎりになってしまったとも見える。結果が悪い方に出れば、弁解の余地などなく即中止になる事例だからである。もっとも、伝えられている情報が正しければであるが。
今後の上場審査が厳格になり、上場企業数に影響するかもしれない。
2015年08月7日10:12 焦点:東芝の不正会計、高まる新日本監査法人の責任論
[東京7日ロイター] 東芝(6502.T)による不正会計の実態が明らかになる中、企業統治や会計監査の専門家からは、同社の会計監査人である新日本監査法人の責任を精査すべきだとの声が高まっている。総額1500億円を超える利益操作に走った過去の社長3人と経営幹部は引責辞任したものの、それを未然に防ぐべき監査人がなぜ不正に気付かなかったのか、その究明がまだ不十分との議論だ。 不正会計問題の解明を進めてきた東芝第三者委員会(委員長・上田広一元東京高検検事長)は、7月下旬に公表した報告書の中で、同社に対する監査手続きや監査判断に問題があったか否かは調査目的ではないとし、新日本監査法人の対応が適正だったか否かには言及しなかった。その一方で、報告書は新日本による東芝への統制が「十分に機能していなかった」と数回にわたって指摘、監査の不徹底が不正会計の常態化を許した一因であることを示唆している。企業統治や会計監査の専門家の間にも、東芝の経営陣だけの責任と受け止める見方は少ない。コンプライアンス問題に詳しく、オリンパス (7733.T)問題で会計監査の実態を検証する監査検証委員会の委員をつとめた郷原信郎弁護士は、東芝の不正会計について監査法人の責任は「ある程度、あると思う」と話す。東芝問題の広がりを受け、新日本も自ら今回の東芝の監査体制が適正だったかについえて内部調査に着手した。さらに公認会計士協会も状況の把握を進めており、金融庁も調査を始める見通しだ。
<ウエスチングハウス工事費でせめぎあい> 東芝に対する監査のあり方について、焦点のひとつとなりそうなのが、米原子力事業子会社、ウエスチングハウス(WH)関連の工事費用のやりとりだ。第三者委報告によると、この工事費用の見積もりの計上について、東芝と新日本の間でせめぎ合いがあった。それによると、2014年1月28日、東芝の田中久雄社長(当時)はWH関連の工事で計上する見積もりが想定より増えて396億円になると「大変なことになる」と、WH担当役員に発言。13年度第3四半期の決算末が近づく中で、久保誠CFO(当時)が新日本とその取扱いについて協議を重ねていた。工事費を高く見積もるべきと主張する新日本に対し、東芝側は低めの想定に固執。両者が主張する数字には1.07億ドル(約100億円)の開きがあった。その溝を埋めるため、同年度末までに工事原価の増額を抑えるとの条件で、「特例として」100億円程度を「未修正の虚偽表示」として処理することを新日本は許容した、と久保氏は第三者委の調査に説明している。しかし、新日本は発言を「明確に否定」したという。「未修正の虚偽表示」は、会計監査人と会社との間で認識が一致しない数字が発生した際に、一定の範囲(重要性の基準値)内で決算書には織り込まずに処理する方法。一般には公表されないが、会計ルールで認められている。ただし、「重要性の基準値」として、どの程度の金額が妥当かは監査法人が判断する。東芝が処理した100億円の規模について「やや大きいのではないか」と、複数の会計の専門家らはみる。同期の東芝の税引き前利益は391億円で、未修正の虚偽表示は、その4分の1の規模にあたる。日比谷パーク法律事務所の久保利英明弁護士は、第三者委の報告書では詳細はわからないと前置きしたうえで、「会計監査人は会社に説得されてしまった可能性が強い」と述べ、監査人が果たすべき役割を全うしていたか、詳細に調べるべきとみている。
<隠ぺいとみられる行動> 第三者委の調査報告書は、東芝が新日本の指摘を受けないようにするために、事実と異なる話を組み立てた資料をみせて説明するなど、「組織的な隠ぺいを図っているとみられる行動をしていた」とも指摘。その一例として、パソコン事業の部品取引の会計監査における、東芝と新日本とのやりとりを挙げている。一方で、新日本がその期の決算に適正意見を出し了承したことで、監査法人としての責任を果たしているとの見方もある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの理事長でもある牛島信弁護士は、東芝と新日本の間でどのようなやりとりが行われたとしても、「未修正の虚偽表示」の存在などについて「新日本が事態を理解して決算報告を通した。私の立場からおかしいと直ちに言う根拠はない」と述べる。悪質な損失隠しなどの不正会計事件を起こしたオリンパス問題については、会計監査人の新日本監査法人と、その前任のあずさ監査法人(当時)に、適正な監査体制を行う体制を整えるため、金融庁が業務改善命令を発令した。しかし、東芝問題について、金融庁が最終的に監査法人にどのような処分を行うかは未知数だ。東芝の広報担当者は、今回の新日本とのやりとりについてロイターに対し、「個別の事案についてコメントは差し控える」と述べ、久保前CFOも東芝を通じ、辞任したためコメントを差し控えるとしている。 (江本恵美、ネイサン・レイン、編集:北松克朗)
2015年08月7日13:09 金融庁、企業統治の実効化へ新たな有識者会議
[東京7日ロイター] 金融庁は7日、企業統治の実効化などを議論する新たな有識者会議を立ち上げると発表した。同庁と東京証券取引所が共同事務局となり、9月にも初会合を開く。会議は、政府の成長戦略でスチュワードシップ・コード(機関投資家の活動指針)とコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の積極的な普及・定着を図る必要があるとされたことを受けて設置される。企業経営者、内外投資家、研究者などの外部有識者で構成する。会議では、両コードの普及状況を点検するとともに、上場企業のコーポレートガバナンスをめぐる論点を幅広く議論する。6月に導入したばかりのガバナンスコードの改訂は行わず、議論を踏まえて提言を出すことを視野に入れる。コーポレートガバナンス・コードの導入を受けて、上場企業は統治改革に取り組んでいるが、東芝(6502.T)の不正会計問題で、形だけ統治システムを整備しても不正を未然に防げないことが改めて明らかになった。今回の有識者会議は東芝問題をきっかけに設置されるものではないが、東芝の問題を念頭に置いた議論が出てくる可能性はある。会議を通じ、実質的にガバナンスを機能させるための方策が見出せるかが焦点の1つになる。 (和田崇彦)