別に戦わなくていいけどね。今日はお仕事です。週末なのに。久しぶりに高校の古典の授業を見る機会がありました。
詳細は省略。差し障りもありましょう。
しあわせな赤メガネ君と出会いました。
彼は、子どもに次のようにいわれたとき
「なんで古文やんなあかんの?」
こんなふうにいわれたとき、次のように答えるとのこと。
「入試にでるやんか!」
そういう職場に勤めているということです。ハッピイでよかったね。どうぞそのままがんばってください。
私とは違う仕事をしている人ですし、別の世界でものを考えている方のようですから、どうでもいいんですけれど、少し議論になりました。というか議論を吹っかけられたような気がしたので、ちゃんと答えなきゃと思ったのですが、時間が足りなかったので残念でした。
入試に出るから古文を教える。
現実です。
そのとおりです。
入試から出なくなったら、やめるんですよね?当然ですよね。
今日の古典の授業では、室町物語の浦島説話を、自分たちの彩りで、「再話」する試みだった。浦島太郎の物語が、これほどのヴァリエーションを持つ理由。それはもともと物語が伝承のプロセスで幾重にも読み拡げられ、逸脱され、癒着し、分離し、とにかく無数に変形をしていくということを「物語っている」。
つまり、古典学習はそのようなものである。自分の目の前まで生き残ってきたことばを、読んで、意味づけて、再創造する。再構築する営み。それが次の世代にその言葉によって綴られたある種の表現をつないでいく。どんどん姿を変えながら、浦島説話はどこまでも浦島太郎の異類婚姻譚のひとつのバージョンとして新たに作り出される。この無限連鎖の中にしか古典文学などあり得ない。
ナーンてことを、機会があるごとに私は言い続けているような気がする。ここでも何度かそういう指摘をした。
逐語訳をきちんとやったグループが「物足りない」なんていわれるなんて信じられない!あんなよけいなアレンジをするなんて、零点じゃないですか。
赤メガネの青年の主張。ちゃんと受験で点が取れる古典の授業しろよ!というご指摘。彼が言うのは、発表したひとつの班が、ある場面をほぼ逐語訳で作り上げた。しかし、それは他の生徒からいろいろな注文を受けた。浦島が亀が変化した美女に連れられて竜宮城の四つの門をくぐって見物するシーン。ところが、この場面の原文には、一言も浦島の台詞が無い。それは必要やろ、というのが見ていた生徒たちの意見。そして赤メガネ氏が眉をひそめたのは、その後に発表した、同じシーンをまったく違う手法で表現した班の発表。
この四つの門はそれぞれ春夏秋冬の素晴らしい光景がそれぞれ広がっているパラダイス。ところが、室町物語所収浦島物語は、この後にもうひとつの門が登場する。それは決して開けてはいけない禁忌の門。ゆかしいでしょ?決して開けてはいけないもんが出てきたら……どうします?物語読者として、浦島がその門を開けようとすることを期待するでしょ?それが物語ってもんじゃないですか。そのグループはその欲望を具体的な表現として展開した。禁忌の門を開けてしまった浦島の前には……竜宮城の本当の秘密が世にも恐ろしい運命とともに立ち現れるのであった。
そもそも、この浦島物語自体が、いろいろな先行物語の構成要素のパッチワーク。ここで入り込んだ、禁忌の門は、盲腸のように、着地点を持たない。ぶらぶらした余分な「伏線」である。この構造は、伝統的な「玉手箱」→「決して開けてはいけません」→「ぼわーん(落ち)」という展開で、繰り返される。パッチワークのほころびのひとつに食いついたこのグループは、それをひとつの重要な物語の展開構造として設定した。
それを「余計なこと」……とか、「明らかな誤り」であり、古文の学習としてまったく意味がないという立派な批評をした赤メガネ君の立脚点は、唯一、「入試でそんなことしたら×になるでしょ」だそうです。
せめて、伝統的な「正典主義」から批判してくれれば、それはそれで意味のある議論になったと思うと少し残念でした。古典文学このよきもの……それを勝手にアレンジするとは何事だ!古典愛に裏打ちされた論者となら、もっと気合いを入れて話が出来たように思います。
そんなことしてたらテスト零点ですよ!
この授業で見せた子どもたちの表現の意味を理解できなくても立派に教壇に立てる彼は、ある意味とてもハッピイな人です。たいていの人は、古典が好きで、子どもにもっと古典の面白さに気づいてほしいと願っている教師は必ずジレンマに引き裂かれる。その綱引きの中から生まれた実践がこの浦島再話活動。本当のところ古典がどうなっても、たとえなくなったってどうでもいい人には、まるで意味が分からない実践だったかもしれない。
そんなことして、入試でいい点取らせられるんですか??
わかったから赤メガネ君。
わしは、古典好きやねん。無くなってほしくないねん。がんばってみるから。もうちょっと見守ってくれよ。
津々浦々至る所の赤メガネ君との戦いが明日も明後日も続く。