なんだかネットニュースのフラッシュを見るようなタイトルですね。引越しの荷造り、おおむね終わりました。原稿………………うううう。引越し後の48時間が勝負とにらんでいます。時間との戦いが始まる。
さて、こんな状況で、今週は毎日出張、夜は荷造りこれを繰り返していました。今日は今日とて、月例桃源郷。
問題は、昨日の現場。ご存知我らが番長U山さんから突然ふられたよくわからない仕事。京都の某所(地名を聞いたけど、いったいそれがどこにあるのかまったくイメージができないぐらいの山奥)の小学生向けの夏休み講座の講師。全六日のプログラム。7月に三回、8月に三回。私はそのオープニング講師という訳。
とはいえ、こんな状況で私は青吐息。というか直前になっても、子どもの数も様子も、集合場所も肝心のその地名の場所もまるでわからないまま、前日遅くにやっとメールが届く。すごいよ。この企画、小学校一年から六年まで、いっしょこた。まぜまぜ。山間の小さな小学校に通う80名足らずのうちの30名弱。お互い顔も名前も知り合っている。京都府全体からすると学力的にしんどい傾向が見て取れる。最終的には、みんな苦手な読書感想文を、8月最後には書きましょうなんだけど、それまでの準備として、漢字カルタをしたり、ワークショップ的な取り組みで準備体操。
というニュアンスを聞いたのが、当日の最寄りのココス(それでも現場から来るまで二十分以上かかる)でランチを食べながら。初めまして、と名刺を交換しながら、これから30分後に開始されるワークショップについて打ち合わせ。
この企画には、U山さん配下の学生が二人。京都の某女子大の学生二人がボランティア参加。その人達とももちろん初対面。ご飯食べながら、初めまして〜〜。どこご出身ですの?とか話している。大丈夫かいな。
結果、大丈夫でした。私は手持ちのネタのうち、小一から小六までそれぞれのレベルで取り組める音読のワークショップ、谷川俊太郎の「わるくち」を選択。その前に、『声』を見てみようというセッションで声への関心を高めておきます。目をつむって、私が「こんにちわ」って言った声がどこへ飛んでいったかを指差そうって言うやつ。大学生ぐらいだとなかなか難しくってうまくいかないこれ、小学生は一発目からこっち〜〜〜って全員が指差す。いいぞいいぞ。
そんで「わるくち」はいふ。
ひとりに読んでもらう。なかなか悪くない。悪くないけど、もっとよく読むにはどうしたらいいか?誰も何とも言いようがない。じゃあね。ちょっと黒板に書いてみるわ、わしが。最初の二行を書く。
なんだい
なにがなんだい
これでいいか?ちゃんとかけてるか?書けてるって簡単に言うから食い下がって、ほんまか?これでええか?と言い続けたら、あ、その「ん」が書けてない。あ、ごめん字が汚いなあ。書き直したで、これでいいいか?
字以外はもうええか?
…………前の方の中学年の女子が、あっという顔をする。
たがいちがいにずれてない。
を、すごい、よう気がついた。
こうやな
なんだい
なにがなんだい
こうなってるな。あれ?これって何か意味あるん?
一年生がこの議論について来れているとはまるで思わない。が、それを考えたらなんもできん。
ひとりの子が手を挙げる。
「言うている人が違う」
ビンゴ!それに気がついてほしかった。これ、ひとりで読んだらあかん詩やねん。二人で向き合って、けんかやろ、口喧嘩。二人でペアになって練習しよう。
というながれで低学年中学年、高学年に分かれてグループ練習に入った。このとき、今日初めてあって、何の打ち合わせもないまま同行していた学生さん四名。パパット見事にはいってくれた。『こっち低学年私のところに集まって〜〜』『中学年こっちやで〜〜』『高学年〜〜』一瞬で役割分担して分かれた。そしてちゃんと低学年には二人ついてくれた。打ち合わせゼロで、行き当たりばったりで、見事な連携。阿吽の呼吸。
つまり、この最高の学生スタッフに助けられて、へっぽこファシリテーターはすげえ楽をさせてもらったのだ。三つに分かれたところをぐるぐる回って、さあ後で発表会やでえ。とか、こっちの列とこっちの列に分かれて向き合って声をぶつけ合おうかとか、大まかな指示だけで、後を学生さんに任せる。どんどんその現場でアイディアが出てきて、『……」と表記された沈黙を何秒にするかを自分らで議論し始める。低学年。1秒説と4秒説が対立して、どっちにするかを実験してみる。
中学年は、どうしても半分のこの声が出ない。かけあいにならない、喧嘩にならない。困り果てる学生。私も困惑。手を出してみようとか、もっと近づこうとかいろいろ揺さぶるけれど、半分のこの声が出ない。
けっきょく、ひとりづつの発表ではなく、グループの音読をすることにした。それを決めたらいきなり元気になった。発表がいやだったみたい。
高学年は、ここに入った男子学生が絶妙のコントロール。静かに、おとなしく構えていたけれど、ちゃんとペアでの練習を深めて、最後は全部で四組のペア演技ができた。しかも暗唱に成功。それもかなり完成度が高い。この学生のファシリテーターの力量のすごさ。彼自身が、ひとりの男子と組んで行った朗読が、本当に見事だった。その日であって、ほんの一時間のうちに、ここまで濃密な関係ができるのか!
驚くべきワークショップの力。
そして、子どもの力、学生の力。
最後に、元の遊戯室に戻って、低学年、中学年、高学年の発表。
ギャーギャー元気よく、低学年。
あんなに苦労したのに、全員で声を出せた中学年。
見事な暗唱ペア演技高学年。
それぞれの発達段階や個性がにじみ出た、いい音読発表会ができました。
おもろい現場だった。
連続して通うと、いろんなことが見えてくるいい現場になるだろうな。
でも……いかんせん遠い。
そしてやっぱり、一年から六年はつらい。それから、教員を介在せずに、ダイレクトに子どもに触れるのはやっぱり怖い。この事業、聞けば、社会教育の部門が担当している。学校教育外の教育活動。それはそれで面白いんだけど、学校と連携しなくていいのかしらと心配にもなる。会場の児童館、いい施設で、スタッフも協力的かつフレンドリー。子どもも居心地がよさそう。それだけに学校はどうなってるんだろう?って思ってしまう。夏休みの宿題対策に大阪からコンアおっさん引っ張ってくる前に、学校の授業改善の取り組みはどうなっているんだろうって……???疑問符いっぱいでありました。
現場仕事で、生身の子ども相手にやった、これが二回目ぐらいの現場かな。小学生は初めてだ。ことばが難しくなってしまうのを感じると、脂汗がにじんでくる。目の前で喧嘩になったりすると、さて、どうやって扱うのだろうと、自分の実践文法のひ弱さがひしひしと感じられる。殴った方も殴られた方も、小学生の体はひりひりするほど柔らかくしなやかだ。背中を抱きとめながら、小刻みに震える小さな体にシンクロする奇妙な感覚を楽しんでいた。ああ、教採の面接失格。
……そんなこんなの濃密な時間。原稿……ま、まってくれ、あと48時間ある……。