香具山は 畝傍雄々しと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし(万葉集 巻1 13番 中大兄皇子)
という訳で、花のたよりにはちょっと早い、飛鳥路を訪ねてみました。一応仕事です。下見です。遊びじゃないのよ。当然のように甘樫丘に登ります。豊浦展望台が、多分一番眺めがいいはずで、特に北側全面に、藤原京が造営された大和三山に囲まれた平野部がこんな風に。写真真ん中あたりに耳成山。かわいいですね。その左手の平べったいのが天香具山。どうしてこれがとびきり神聖な山なのか、みれどもみれども不可解です。中大兄皇子の歌の解釈は色々分かれるところですが、一説には、この二つの山が、「雄々しい」畝傍山を奪い合ったとか。はい、雄々しい君の登場です。

雄々しいですね。さんざんの中で最もガタイがよく、無骨な感じがします。この麓で神武天皇は即位するんでしたっけ?その稜線の左肩にうっすらと(我らが!)二上山。奈良のどこにいても、この山を目印に帰ることが出来る、河内の国への出口。職場もこの山の麓です。

この日は遠く吉野の大峰山あたりを振り仰げば冠雪しているほどの寒の戻り。それ故か、春霞もそこそこに遠くまでくっきりと眺め渡せる。古代の天皇が、その強大な神霊(天皇霊)を、この丘の上から眺めることで、国々あまねく寄り付かせる儀礼を思う。みれば届きそうな四方スコーンと抜けきったパノラマ。それが東は金剛葛城から信貴山生駒……北に移って斑鳩の矢田丘陵がゆったりと、それと閉じ合うように、西の三輪山系が閉じ合うように出てくる。当然その南側には、多武峰の峻険な頂。南を見れば既に吉野の山々が手の届きそうなところに。という風に、パノラマが抜けているんだけど、その視線は適度なところでホリゾントのような山々で遮られて分節されている。つまり、ここにたてば、我が支配の及ぶ世界を、自分の身体感覚のうちに、掌のうちに感じることが出来る。世界の中心にたったような気分。

いや、とにかくまだまだ寒くて、花も満開までは相当かかりそうです。すてきな冬枯れの甘樫丘。クヌギとコナラの繊細な枝張りに手を振られて丘を後にしました。バイバイ、次は新緑の頃に来ます。