恐縮しつつ、少し身内の話しをさせていただきたい。
僕には弟が一人いる。
姓の違う「実弟」だ。
彼は小さなマンションに妻と3人の子供を持ち、市内の工場で正社員として働いている。
またそれと同時に彼は優れたベーシストでもある。
一時は「拾得」というライヴハウスなどに定期的に出演していた。
派手なプレイこそ信条でないが、ベーシストならではのツボを押さえたプレイとボトムの効いたサウンドは、僕が言うのもなんだがなかなかのもんである。
音楽好きという意味では僕よりも彼のほうがその道に精通しているかもしれない。
「お前のせいで弟までが!」と高校生のころはよく親に小言を言われた記憶がある。
仲は比較的良いが男兄弟であるせいか、近くに住んではいても普段はあまり顔を合わすことはない。正月かどちらかの家にお祝い事がある時に久しぶりに会う程度だ。
先日我が家にちょっとした祝事があったので、弟一家が5人で来てくれた。
久しぶりにゆっくり話す機会が持てたので僕は何気なく「バンドがんばってんのか?」と聞いてみた。
すると彼の口からは予想だにしなかった答え。
もう4年ほど前からやっていない・・・という。
理由を聞くと、バンド内で子供を持っているメンバーは自分だけだったらしく、幼い子供のいる家庭の環境をどう説明しても理解してもらえなかったために、メンバーの一人と衝突が絶えず、バンドの今後も考えて自身から辞めたという。
「音楽続けていきたい言うてる人間に、なんで子供なんかおんねん!」と最後は言われたという。
僕はとても悲しい気分になった。
なんと言ってやっていいかわからないくらい悲しい気分だった。
僕も3人の子持ちで仕事も持っている。立場的には弟と同じだ。
子供を持つと生活の上で様々な制約が発生する。特に子供が小さいうちはなおさらだ。
子守りは「寝かしつけたらおしまい」ではない。
夜泣きだってするし、小さいうちは夜中に授乳だってある。そうしているあいだに他の兄弟が「おしっこ・・・」と起きてくる時だってあるのだ。
昨日まで元気だったのに突然高熱を出したり、夜中に急に吐いたりすることもある。
子供の世話は24時間体制だ。
24時間子供たちの世話をしている母親はホントに重労働だし、父親になったからにはできるだけそれを手助けし、そんな母親の心身のケアにも心を配ってやるべきだと僕は思う。
もちろんそこには父親としてわが子に接する時間をもっと増やしたいという自身の希望もある。
ましてや最も手のかかる時期の子供を持つ母親にとって、平日であれ休日であれ、手助けできる者が仕事以外でも不在がちという状況はかなり辛い事であり、バンドをやっているということだけでも、言葉は悪いが家庭はそれなりのリスクを負っているわけである。
中には家庭そっちのけで、ただひたすらに仕事と趣味に没頭しているかたもおられるが、僕はそれだけはしたくない。仕事と家庭とバンドはできるだけきれいな三角形を維持していきたい。
弟はそのメンバーに、「仕事以外は自分の時間のはずやろ!?」とも言われたらしいが、そのような事を口にする人間にいくら説明しても解ってもらえる可能性は皆無であると思う。
僕は子供を持たない人の全てがそのような考えでないと信じている。
実際JRBでもスタジオ入り当日に子供が高熱を出し、リハーサルドタキャンという事態が過去に一度や二度ではなかった。考えればとてつもない迷惑をメンバーにかけてしまっている。
内心穏やかではなかったろうが、それでも次に会った時に「子供さん大丈夫やったか?」と心配そうに聞いてもらえるとホントに助かった気分になるし、心底ありがたかった。もちろん「すみませんでした・・・」と謝ることを僕は忘れてはいけない。
そういう意味ではホントに内海さんやオーミチくんには心の底から感謝している。僕が今バンドをこうやって続けていられるのは彼らのおかげと言ってよい。
だから我々のような立場の者がバンドなどをやろうとする時には、家族の理解とメンバーの理解とを、バランスをうまくとりながらやるしかないのだ。
僕はこれからも子連れバンドマンとしてがんばっていきたい!!
おわかりいただいているとは思うが、子供がいないからどうだとか、いるから仕方ないだとか、僕はそんなことを言っているつもりは一切ない。
ましてや子供を持たないかたを批判などしているつもりもまったくもって無い。
弟に先述のように言い放った彼も、「音楽をしている以上子供は持ちたくない」というご自分の信念にそって生きていかれれば、それはそれで良いと思う。
弟の話しを聞いて、改めてJRBのメンバーへの感謝の気持ちを実感するとともに、心なしか覇気が無くなった弟が、なんだか僕よりも老けてしまったように見えたのが、とても悲しかった。

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