
2009年6月19日〜20日まで、大阪国際会議場(別名グランキューブ大阪=写真)で「第14回日本緩和医療学会学術大会」が開かれた。初日の参加者だけで5022人と、ついに5000人を超える学術大会になってきた。
今大会のテーマは「緩和医療 ―原点から実践へ― 」。日本緩和医療学会は1996年に第1回の学術大会が札幌で開かれたが、その時も初回ながら1000人を超える参加者があり驚いた。今回は初日で5000人超え。曜日の関係から2日目だけ参加する人も多いので、これまでの記録を大幅に更新することだろう。
今回の学会も、発表や講演の「個人的な写真やビデオの撮影は禁止」と何回もアナウンスされており、それでも写真を撮っている人は結構いたが、ルールなら仕方がないとほとんど写真は撮らなかった。そのため、メモが追いつかないところを写真で補完することができず、医療現場に持ち帰れる土産話も少なく、ここでお伝えできるエッセンスも少ないかもしれない。やる気も削がれちゃったし。
学会ホームページの会員限定ページ(多分)には9月上旬頃から、動画で見られるようにしてくれるらしい。でも「あ、この表は明日から患者さんの役に立つ!」というスライドがあっても写真を撮ってはいけないというのは、今診ている患者さんに対して非常に申し訳ない気がする。教育的な講演については、メモとしての写真は撮っていいことにしてほしいと思う(って2日目の総会で言ったら、考えてくれると返事をもらった。言ってみるもんだ)。
日本緩和医療学会は会員数が増えるとともに、会員の職種もバラエティに富んできており、医療系の学会には珍しく医師の会員は40%台である。また、緩和ケアへの関わり方もさまざまだ。緩和ケアを専門とする医療機関で高度な緩和ケアをしている人、大学病院などの緩和ケアチームで指導もしながら緩和ケアをしている人、がん診療連携拠点病院になったので緩和ケアチームに入れられたが実質的な活動はほとんどできていない人など、幅広い人材(?)を擁している。
そのため、学会で扱う内容も、教育的な講演あり、まとめが上手な人のパネルディスカッションあり、話題になっているテーマを扱った先駆的な内容あり、心理に焦点を当てたシンポジウムあり、それと一般演題(学会員が発表する場)もスライドを出してしゃべる「口演」とポスター発表の両形式あり。好奇心旺盛な方なので、同じ時間に聞きたいものがたくさん重なってしまって、どれを聞くかかなり悩んだ。
学会ホームページで動画を公開してくれるというが、9月になったら今の熱意が薄れてしまったり、どこに興味を持ったか忘れてしまいそうな気がする。大変良くまとまった発表も多かったので、忘れないようにしたい。(会員でない人は見られません。私が見たものを大雑把にまとめてみますが、興味のある方は入会をお勧めします。)
私が聞いた各演題の中で、印象に残ったものや役立ちそうなポイントだけを、まとめてみる。
<1日目>(6月19日)
<シンポジウム4>
「緩和医療の教育の現状と課題 〜何をいかに教え学ぶか〜 」
最初は聞けなかった。入場した時は、PEACEプロジェクト(これまで何回か書いている「緩和ケアセミナー」のこと)についての発表をしていた。PEACEプロジェクトは全国のがん診療連携拠点病院でおこなわれており、受講した人数もどんどん増えてきている。広がりを見せる中ではさまざまな苦情や要望も上がってきており、より良い研修になるように、検討が重ねられているらしい。
また、個人ではなく緩和ケアチームを対象とした研修会もおこなわれているようだ。これは必ずチームメンバーと一緒に参加するという形式だそうで、研修をする中で「日頃一緒に仕事をしていながら、どれだけコミュニケーションが取れていなかったか」を再確認するようなこともあるらしい。コミュニケーションが取れている「つもり」になるのは、いけませんね(自分の反省も)。
看護師に対する緩和ケア研修プログラムでは「ELNEC-J」指導者養成プログラムが紹介されていた。医師向けのPEACEプロジェクトでは、スライドの改変は原則認めない方針だが、ELNEC-Jでは「各施設の実状に合わせて、積極的に変えて使ってほしい」とのことだ。決まっているのと柔軟なのと、どちらがいいのでしょう。どちらもあまり極端では良くないでしょうね。
緩和ケア研修プログラムは、これからもバリエーションを増やしながら、さまざまな段階の緩和ケア従事者に役立つようなプログラムが考えられているようだ。近い将来、緩和ケアの基本的な考え方や手法は「どこの医療現場でも使えるのが当たり前」になってくるかもしれない(それぐらい緩和ケアの幅は広がってきている)。日頃緩和ケアとは関係ないと思う人も、自分に合うものが出てきたら受けてみて下さい。
<プレナリーセッション1>
「緩和医療の最先端」
Lukas Radbruchアーヘン大学緩和医療学教授・
ヨーロッパ緩和ケア協会会長
タイトルは「最先端」だったが、全体的には現状報告とまとめという感じ。緩和ケアでは多くの経験が蓄積されているが、エビデンスレベルは低いものが多く(今の医学の流れは、エビデンス=証拠があるものの方が価値が高いとされる傾向がある)、エビデンスが認められるように今後の研究を頑張る必要があると言われていた。
「緩和ケアは効果がある」ということを証明するためにさまざまな研究がおこなわれているが、有意差が出るものの多くは「ケアの満足度」。これが世の中を良くするために役立っているということを証明するのは難しく、つまり「ひとりよがりな評価でない」ということを人々に納得させるのも難しい。
<シンポジウム6>
「望ましいQOLを実現する心理的援助とは」
心理学や臨床心理士が緩和ケアの現場でどのような活躍をしているのかが知りたくて、このセッションに参加した。いくつかの発表を聞いて思ったのは、臨床心理士の仕事にも非常に幅があり、それぞれの臨床心理士が得意としている仕事の内容も違いそうだし、緩和ケアチームの中で担っている役割や期待されている役割も違いそうだということ。
幅広い対応ができることは大きな魅力である。しかし「心理療法士ならだれでも、基本的にこのようなことができる」というものが広く知れ渡らないと、医療現場で必須の人材になっていくのは時間がかかるんじゃないかと思う。それぞれの発表者が自分なりのことばで仕事を表現してくれていたが、全体をひとまとめにできることばは、受け取る私の問題かもしれないが、見つけられなかった。
私は心理療法士と一緒に仕事をしたことがないが、一緒に働いてみたいとは思っている。チームの中でどのように動いてもらえる人たちなのか、イメージをつかみたいと思って参加したが、「?」は「?」のまま残ってしまった。これからの私の課題(多分、心理療法士のこれからの課題の一つでもあるかと思う)。
<懇親会>

1日目の全日程が終了した後、午後7時からは懇親会です。今回の大会長は、大阪大学の恒藤暁先生。「おもてなしの心」の表現として、なんと大阪大学の緩和ケアチームメンバーによる「生バンド演奏」。大変素敵でした。最近あちこちで見る打楽器「カホン」(一つで色々な音が出せる。左から3人目の人が座っている箱)がここにも。ほしい!
<2日目> 6月20日(土)
<モーニングセミナー1〜6>(割愛)
<パネルディスカッション3>
「いかに身体症状に対応するか」
このセッションは、
(1)がん・感染症センター都立駒込病院緩和ケア科の田中桂子先生(以前静岡がんセンターにおられた)による「呼吸困難」のレクチャー。
(2)社会保険神戸中央病院 内科 緩和ケア病棟の新城拓也先生による「嘔気/嘔吐」のレクチャー。
(3)淀川キリスト教病院ホスピスの池永昌之先生による「緩和医療における鎮静(セデーション)」のレクチャー。
これがそれぞれ30分にまとまっていて、プレゼンターの選択も非常に良かったため、全部のプレゼンテーションが秀逸。最先端で働いている人には若干物足りないかもしれないが、多くの人に役立つであろうと思われる講演が揃っていた。スライドの作り方も明快で、インターネット上でも十分認識できるだろう。会員の方は、インターネット上に公開されたら一度見ておいてほしいと思う。
話が横道に逸れるが、スライドの作り方の基本を少し。
・基本、一番後ろに座っている人にも読めるように
・プロジェクターが暗い時には黒地に白い字が一番読みやすい。
・プロジェクターが明るい時は白地でいいが、字は濃い色で。
・一枚の文字数は、できるだけ100字以内。
・日本語は明朝体でなくゴシック体で。
・「シャドー」効果は使わない(字がぼやけて見づらい)。
これくらいは守ってほしいと思う。そのあたりも、それ以上の工夫も、今回の3名は大変優れていた。
<教育講演4〜6>
「エドモントン症状評価法」
Sharon Watanabe
Division of Palliative Care Medicine, Department of Oncology, University of Albarts, Canada
「緩和ケアにおける事前指示」
Young Seon Hong
Division of Medical Oncology, Department of Internal Medicine, Seoul St.Mary's Hospital,
Catholic University of Korea, Korea
「緩和ケアと死別支援サービス」
Margaret O'Conner
Inaugural Vivian Bullwinkel Chair in Palliative Care Nursing, School of Nursing & Midwifery, Monash University, Australia
それぞれ優れたまとめがなされており、世界でどのような動きが起きているか、どのような点が不足しているか、日本ではどのように考えていけばいいかのヒントになった。興味のある方は(会員でない方は入会して)インターネット上で9月以降にご覧下さい。
<総会>
事務的な集まりなのでしょうがないかもしれないが、学術大会に参加している人の人数に比べて、総会に参加する人の数はずいぶん少ない。今後の学会の動向などもよくわかるので、時間がある人は出てみたらいいんじゃないかと思う。委任状と出席者で総会は成立と言っていたが、ホントかな。
お知らせがいくつか。
・今年の秋に代議員選挙がおこなわれる。投票率を前回(非常に低かった)の倍にはしたいので、ご協力をお願いします。
・来年の「第15回日本緩和医療学会学術大会」は、2010年6月18日〜19日、東京国際フォーラムでおこなわれます。大会長は筑波メディカルセンターの志真泰夫先生で、メインテーマは「いつでもどこでも質の高い緩和ケアを」です。
・今年の秋(11月)、専門医試験がおこなわれます。応募は7月1日から7月31日(消印有効)ですが、症例をまとめるのに時間がかかると思うので、今から急いで準備をして下さい。
私は今年度暫定指導医になれなかったため(タイミングが悪かった)、愛和病院も認定研修施設になれず、今年の専門医試験は受けられない。受ける人は頑張って下さい。
総会の質問の時間に、(どこのどなたかは聞き逃したが)「所属医療機関は緩和ケアを本格的に始めて4年ほどで、暫定指導医にも認定研修施設にもなれなかった。そういう施設は今の制度では永久に認定研修施設になれないのではないか」という質問があった。これに対しては「ある程度ハードルを高くすることは必要だと思う」などの回答であった。
実は私も同じ質問を昨年の11月20日にメールで緩和医療学会にしているが、回答を得ていない。今の仕組みは、どんなに緩和ケアを頑張っていても、小規模な緩和ケア施設や歴史の浅い緩和ケア施設では、経験のある「暫定指導医」を連れてこない限り認定研修施設になれず、そこからは専門医も生まれないという仕組みになってしまっている。これでは有能な緩和ケア医の中で専門医になれない医師が出てくる。そういう人たちを切り捨てるのが学会の方針ならば仕方がないが、そういう学会にはなってほしくないと思う。
土曜日のうちに帰るために、その次のセッション(世界各地における緩和ケアの現状と課題)は聞かずに会場を後にした。
大会参加者は、2日目の午前中で5431名になったと報告があった。来年は東京なので、もっと多くなるかもしれない。緩和ケアを「広く」することと「深く」することの両方を目指すので、大会の運営もますます難しくなっていくかもしれない。
今回の学会に参加して感じたのは、それぞれの演題について抄録はあるものの、実際に聞きに行ってみないとどのような人をターゲットにした演題なのかがわからず、「これは聞きたい内容とは違った」と思ったのか途中で退出する人が多いように見えた。「初級者向け」「中級者向け」「エキスパート向け」「誰でも」「興味のある人向け」「研究者向け」「管理者向け」など、わかりやすくする工夫ができないかなあと思った。
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ここから後は、毎年書いている個人的な移動の記録。

朝6時9分長野発の「ワイドビューしなの」で名古屋まで。山間部を振り子列車でくねくね走るので、酔う人が多い電車です。私は割と大丈夫。

名古屋から新大阪までは、新幹線「N700系」に初めて乗りました(700系とは違うのよ。多くの人には常識でしょうが)

N700系の壁には、ノートパソコンや携帯に使える電源コンセントがあります。最近ノートパソコンの電池がへたってきているので、大変助かりました。

新大阪から御堂筋線で南下。御堂筋という字を見ると、研修医の頃にこれを「ごどうきん」と読んだ先輩を思い出します。どーでもいいですが。御堂筋線で淀屋橋まで行って、京阪中之島線大江橋駅まで外を歩きます。すでに暑い。

京阪中之島線の駅は、最近できた路線によくある、とってもモダンなインテリアです。どんなかっこいい電車が来るかなと駅で待っていたら、ご覧のようなレトロな感じ。

それもそのはず。昭和46年というから、38年前に造られた電車でした。

大阪の方では当たり前なのかもしれませんが、5つドアの車両で、ラッシュ時以外は両端と真ん中のドア以外は開かないようになっていて、そこにシートが通せんぼしている構造になっています。ラッシュ時にはこの背もたれとシートが上に上がって、ドアとして使うのでしょう。東京ではラッシュ時のために6つドアの車があって、混雑時にはシートが全部たたまれてしまったりしますが、違う発想の工夫で面白い。

ドアの外には(開くのを待ってて乗れない人がいないように)「ラッシュ用ドア」と大きく書かれています。
<帰り道>

新大阪駅で土産物屋を見ていたら、人気お笑い芸人の「チュートリアル」と「non style」が番組のロケをしていました。「徳井だ徳井!」「チュートリアルだ」と言っている人は何人もいましたが、「non styleだ」と言ってる人がいないのにちょっとびっくり。知名度がまだ違うのかな? たまたまかな。

名古屋までの新幹線は「300系」。N700系に比べると「新幹線ってこんなに揺れたっけな」と思うぐらい、ガタガタ揺れる気がしました。パソコン打つのもやめたくなるぐらい。電源もないし、実際やめてしまった。

名古屋から塩尻までは、また「ワイドビューしなの」。ワイドビューしなのという名前は通称で、今は「しなの」が正式名称らしい。ワイドビューしなのは両方の先頭で顔が全く違います
(反対側の顔は、移動の記録の冒頭=10枚上の写真)。

塩尻から茅野までは、中央東線の各駅停車で。岡谷から茅野までは単線区間なので、反対側から来る電車がちょっと遅れたりすると、それにつられて上り電車も遅れます。
帰ってきてみたら、だいぶ疲れてました。学会にそれなりに熱心に参加した疲れなのか、移動の疲れなのか、それとも昨日の懇親会でちょっと飲み過ぎたせいか。
日曜日一日休んで、月曜日から学会で学んだことやヒントを臨床の現場で活かせるように、頑張ってみたいと思います。