米国の上院と下院は13日、両院で一本化した景気対策法案を、賛成多数でそれぞれ可決した。これにより米国では日本円で約72兆円の経済対策がおこなわれることになるが、それを聞いた麻生首相は「うらやましい」と発言したそうだ。まるで他人事。
記事は次のとおり。
迅速成立「うらやましい」=米景気対策で麻生首相
2月14日15時5分配信【時事通信】
麻生太郎首相は14日午後、米上下両院が72兆円超の景気対策法案を可決したことについて「きちんと早く効果が上がるというのは、ものすごく大きな関心事だった」と述べた。また、日本の2008年度第2次補正予算の関連法案の審議がはかどっていないことにも触れ、「スピーディーに(法案を)上げてきているのは国民の求めているものに議員、国会が素早く対応しているもので、あのスピード感はうらやましい」と語った。都内で記者団の質問に答えた。
(記事ここまで)
日本の政治にスピードが足りないのはその通りだが、その政治の責任者である総理大臣が「うらやましい」などと言ってはいけないのではないか。麻生首相は「日本の政治がスピーディーに進まないのは野党のせい」とか思っていそうな気がするが、2008年9月24日に就任してから今までの政治の責任者は、他ならぬ麻生太郎氏本人だ。
しかも、政治がスピーディーに進まない原因の多くは、麻生太郎氏本人にあるように私には見える。去年の9月に総理に就任して、世の中の多くの人は速やかに解散総選挙をするものだと思っていた。米国経済が急激に崩れたために「政局より政策」「選挙より景気対策」という方向に舵を切ったが、その後の迷走の原因の多くは、麻生氏自身にあるのではないか。
麻生政権が発足してすぐの頃、景気対策には「定額減税」だと公明党が強く主張し、それが形を変えて「定額給付金」になった。2008年10月下旬のことだから、もう3カ月以上も昔のことだ。そこから速やかに給付まで持ち込んでいたら、景気浮揚効果もそれなりに期待できたのではないかと思う。しかしここまでズルズル引き延ばしたのでは、国民の気分も盛り上がらず、景気はあまり刺激されないだろう。一人20万円とかいうなら話は変わってくるが。
ここまで、速やかに政治を進められるタイミングはたくさんあったように思う。民主党も政局ばかりを考えて、スピーディーな政治を目指しているようには見えなかった。しかし、民主党など野党が取り上げたくなる燃料の大半を注ぎ続けてきたのは、麻生太郎氏本人だろう。政治を円滑に進める手法も能力も人望も、少なくともここまでは発揮されていない。「これからの麻生氏」に期待するようなお人好しは、今の世界情勢とその中の日本の状況がわかっていない人だけだろう。
前にも書いたことだが、金融危機の影響をあまり受けないはずだった日本経済が、後手後手に回って最終的には甚大な被害を受けることになってしまうのではないかと心配だ。民主主義といいながら国民の切迫感が全く届かないような政治をだらだら続けるぐらいなら、バランス感覚に優れた有能な独裁者による政治の方が、まだましではないかと思う。
昨年の自民党総裁選の時に、このブログでは
5人の候補者の印象をまとめた。そこで麻生氏については、次のように書いていた。
麻生 太郎氏は、総理大臣になって口で失敗しないか心配だ。若干わかりにくい皮肉をいったりする時も表情が変わらない(というか、いつでも皮肉顔)ので、笑顔の時も100%信用できない感じがする。それと、勢いで物事を進めようとする印象があり、それに反感を持った人が前回福田氏を担ぎ上げたわけだし、総裁になっても挙党一致は難しいかもしれない。
麻生氏は首相になってから多数「口で失敗」しているが、本人は失敗していると思っていなさそうだし、「自分の発言は一貫している」と発言している。去年の9月には「郵政民営化の時の責任者は私」と言っておきながら、最近では「郵政民営化の担当大臣は私じゃなかった」とか言ってるし、発言の「内容」は少なくとも一貫してはいない。
おそらく「その時その時の自分の感覚に従って発言している」という意味のみにおいては、一貫しているのだろう。しかし政治に対する姿勢に軸がないし、場当たり的な発言が多いし、責任感が感じられないとか、感情の乗った発言が多いとか、おおよそ首相の風格が感じられない。日本の首相としては、かなり残念な人選だったと思う。有能な政治家は他にもいるんだから、政界大再編とか、一気にやってくれないかな。
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ところで、米国はこんなに大盤振る舞いの景気対策をして、大丈夫なんだろうか。紙くずになる確率が限りなく高くても、不良債権を公的資金で買い支えるのが、金融証券業界が機能を取り戻すには必要だろう。今回は、昨年の
金融安定化法案を一旦否決した時に懲りたのか、オバマ大統領の「日本の失われた10年にしてはいけない」発言が効いたのか、景気対策法案は速やかに可決した。
景気対策だといってお金をばらまく政策は、今の米国の状況でやらないわけにはいかないが、これぐらいの規模になってくると後に回ってくる「ツケ」が非常に心配だ。細かいことはここでは省くが、それらは米国債の発行によってまかなわれる。格付け機関は米国債の格付けを引き下げることは絶対にしないだろうが、あまりに国債が乱発されると信用低下を招き、買ってもらえなくなる。
何とか日本や中国をなだめすかして米国債を買わせることができたとしても、それに利息を付けた価値で返済することが米国にできるだろうか。証券金融バブルで膨らませた借金は、べらぼうに大きい金額である。現時点ですでに、日本が背負っている借金よりも大きいかもしれない。これから経済がさらにしぼみ、ゼネラルモーターズも「潰すしかないか」といわれている米国で、米国債をきちんと返せるだけ税金を集めたら、米国全体が干からびてしまうだろう。
米国は、どうすれば干からびなくてすむだろうか。
一番まともな再建策は、全米国民が目を覚ましてこれまでの生活を反省し、真面目に身の丈にあった生活をすることだ。しかしそうなるだけでも大変革が必要なのに、実際には働いても働いても借金返済にほとんどが持って行かれるので、しばらくすれば米国民の不満は政治へ向かうだろう。それでも頑張ってコツコツと借金を返し続けるほど勤勉な人たちだったらいいが、これまでの経過から見て望み薄。
そうなると、これまで積み上げてきた借金を、どこかでチャラにするような政策を取らざるを得ないのではないか。国民が借金を背負った状態で借金を棒引きするのは「徳政令」といってもいいと思うが、一度限りにしておかないと、国民の経済モラルが崩壊する。身の丈に合わない買い物をして支払えなくなっても、結局は何とかしてもらえると思ってしまうからだ。そうなると、企業が借金を引き受けるか、国が借金を引き受けるか、世界中が引き受けるかしかなくなる。
チャラにする方法はいくつかある。一つはドルを大量に刷って市場にばらまき、借金を埋め合わせてチャラにする方法。それをやれば、もちろんドルの価値は暴落する。もう一つは「これまで発行した米国債は買い取りません」と宣言する方法。これも米国への信頼を失墜させるだろう。他にもいくつか方法はあるが、どれをやってもドルと米国そのものの信認が大きく低下することは避けられない。それ以外の方法を編み出せたらすごいと思うが、打ち出の小槌か超魔術でも見つけ出さない限り無理だ。
真面目に働くのと借金帳消しの中間の方策として、ちょっとずつドルを増発していって米国内でのインフレを誘導し、相対的にドルの価値を下げていくことで既発国債の価値を下げていくという方法はある。ただしこの場合は、絶妙なコントロールと根回しをしなければ、「乱高下は金儲けのチャンス」と考える人が入り込んでべらぼうなインフレになる懸念がある。
日本の国債はほぼ全量が日本国内で買われているが、米国債は日本や中国をはじめ、多くの国が買わされている。米国は「米国債が無価値になれば、あなた方の国も莫大な損害を被りますよ」と言って買わせ続けているが、これもいつまで続けられるか。日本はなるべく買いたくないという姿勢を明確にしつつあるし、日本に代わってどんどん買い増してきた中国も、買い続ける体力が怪しくなってきている。買ってもらえなくなれば、米国の再建策は絵に描いた餅になり、価値がどんどん下がっていくドルを乱発して補うしかなくなるだろう。
今回の景気対策法案では、公共事業には米国産の材料を使うという「バイ・アメリカン」条項が含まれている。米国は自由経済を何より大切にする国だと思われているが、現実には米国ほど保護主義がまかり通る国もないということは、歴史が証明している。米国は「これは保護主義ではなくて愛国心ですよ」という自分勝手な理屈をつけるのは、ものすごく上手だ。バイ・アメリカン条項なんてかわいいもので、今後あからさまな保護主義を提示してくる可能性は少なくないと見ている。
米国が相手だと蛇に睨まれたカエルのようになってしまうのが日本の外交であるが、米国のいうとおりにしていたら日本の財産は大きく奪われてしまうし、保護主義に守られて米国の実力も回復してこない。つまり、力のない米国に貢ぎ物をし続ける構造になってしまう。これまでにも、そのような構造が多く仕掛けられて、日本人が頑張った成果をかなり奪われてきたのではないかと思う。
日本が米国と対等に外交ができる日は、いつか来るのだろうか。「日本は日本で頑張るけど、米国も反省しながら頑張る姿勢を見せてくれ。それでないと日本はつき合えない」と、きちんと米国に言える外交をやってほしい。そんな日は、来るのかな。