iPS細胞から、血液細胞の一種である血小板を大量に作り出すことに、京都大学と東京大学のチームが成功した。
記事は次のとおり。
iPS:血小板大量作成に成功
http://mainichi.jp/select/science/news/20111211k0000m040087000c.html
2011年12月11日【毎日新聞】
さまざまな種類の細胞に分化できるヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、血液成分の血小板を大量に作成できる方法を、京都大と東京大の研究チームが開発した。血小板は手術時の止血などに不可欠だが、凍結保存ができず、不足しがちだ。実用化すれば安定供給につながる研究として注目される。米カリフォルニア州で開催中の米国血液学会で11日午後(日本時間12日午前)に発表する。
東大チームは09年、ヒトiPS細胞から血小板のもとになる細胞「巨核球」に分化させ、血小板を作ることに成功した。しかしiPS細胞1個からできる巨核球は約40個ほどで、血小板の大量作成が困難だった。
京都大iPS細胞研究所の江藤浩之教授(幹細胞生物学)らは、増殖に不可欠な遺伝子と、細胞の老化を防ぐ遺伝子を巨核球の前段階の細胞に組み込んだところ、無限に増殖できる巨核球ができた。この巨核球1個から数十個の血小板ができ、免疫不全マウスに輸血したところ、止血機能が確認できた。
血小板は通常、採取から5日目に廃棄する。治療で繰り返し輸血する場合、白血球の型(HLA)が同じ血小板を輸血しなければならず、事前の確保が課題だが、巨核球の状態なら凍結保存できるため、大量作成し、必要な時に解凍して血小板を作り出すことが容易になる。
また、細胞に遺伝子を組み込むと、がん化する危険性があるが、血小板には遺伝子がないため、その恐れがないという。
江藤教授は「さまざまなHLAの巨核球のバンクを準備すれば、血小板を安定供給できる。3〜4年後には臨床研究を始め、人でも機能するか確認したい」と話した。【須田桃子】
(記事ここまで)
血小板は、けがをした時などに血を止めるために働く、血液の中を流れている細胞。血液の中には、酸素を運ぶ赤血球、体を守る働きをするさまざまな白血球、それと血小板の、大きく分けて3種類の血液細胞が含まれる。それ以外の細胞が血液の中に見られることは、通常はない。
血液細胞は、ほぼすべてが骨髄(骨の中)で造られる。血小板以外の血液細胞のでき方は、すべての血液細胞の元になることができる「全能性造血幹細胞」から系統ごとの元になる細胞になり、それが細胞分裂して数を増やすとともにそれぞれの機能を成熟させていって、ちゃんと働ける細胞にまで成熟するとようやく骨髄から血管の中に出ていって、体のために働く。
血小板のでき方だけは違っていて、全能性造血幹細胞から血小板の元になる細胞=巨核球になるところまでは同じだけれど、それがそのまま血小板になるのではなくて、成熟した巨核球の端っこからぽろぽろとちぎれるようにして血小板が造られる。
赤血球はある程度の期間保存しておけるのに比べて、血小板は記事に
「採取から5日目に廃棄する」と書いてあるように、保存がきかない。もともと血小板は、体の中でも10日前後で寿命を迎える入れ替わりの早い細胞で、保存しているうちにもどんどん壊れてしまうので、輸血製剤にする時には献血から1日のうちにさまざまな検査をして、使えるのは4日目までで、5日目には廃棄する。
血小板輸血を必要とする人は、多くはない。主に必要になるのは、たとえば白血病などの血液の病気そのものや治療の影響、その他の病気でも強い化学療法(抗がん剤治療)や骨髄移植などで、血小板を自力で造れなくなった時だ。その他にも、血小板が減ってしまういくつかの病気でも、必要になる場合がある。
抗がん剤治療などで一時的に血小板が減った時には、出血を予防するために血小板輸血をする。このような場合には、血小板輸血は一時的な治療なのであまり問題は起こらない。しかし常に血小板が少ない状態が持続する人には、定期的に血小板を輸血する必要がある。繰り返し血小板を輸血していると、体の中の反応が起きて「輸血してもすぐ壊されてしまう」場合があり、血小板輸血の効果が大きく減少してしまう。
それを防ぐためには、記事の中にもある「HLAの型を合わせた血小板輸血」が有効で、日本赤十字社(日赤)でも提供している。ただ、通常の献血でHLAの型が合った血小板輸血製剤を作るのでは手間がかかりすぎるので、ほとんどは日赤に登録された人の中からHLAが合う人に連絡して献血してもらい、HLA適合血小板製剤を作る。
HLAを合わせるのは結構大変なようで、以前私が諏訪中央病院で定期的にHLA適合血小板輸血を依頼していた時も、名古屋とか富山とか東京とか、遠くから届けていただいていた。血小板輸血は有効期限が短いので、予定を立てて日赤に依頼し、日赤は登録者の中のHLAが合う人の中から予定が合う人を探し出して依頼し、献血していただいて製剤にして医療機関に運んで輸血をする。合わない場合もあるのかもしれない。
今回の発表はまだ実用段階ではないけれど、江藤教授の
以前の記事を見ると、実用化に向けての手順も見据えて研究と臨床試験の準備を進めており、さらに
「臨床研究は数年後には始められると思う。そこを本当に早くしないと、日本発の技術なのに、実用面の財産は全部アメリカなどに取られてしまう。日本全体のために頑張りたい。」と言っている。山中伸弥教授や江藤浩之教授が「成果を出せる研究」を続けられることは、日本の国益を守ることにもなる。
血小板が量産できるようになっても、現在の献血から作るものよりうんと高くなってしまっては、利用価値が少ない。それを避けるためには、より効率良く血小板を量産する技術を確立し、産学協同で体制作りをする必要がある。そのあたりも視野に入れて研究は進められているようだ。なるべく早い実用化を期待したい。
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ところで、今日の信濃毎日新聞の第2社会面でこの記事の内容を見て「おー、すごい」と声を上げたが、読んでいくうちに「江藤浩之教授」と書いてあったのでもう一度「おおぉぉぉーっ」と声を上げた。大学の同級生だ。しかも大学6年間、同じクラブだった。
学生の頃からすごいやつだと思っていたが、素晴らしい業績を積み上げている。記者会見のコメントなどを見ても、最先端の研究を突き詰めているのだろうに、幅広い視野で短期長期の見通しを立てているし、何よりも「臨床に役立つために」という姿勢が見えるのが素晴らしい。
自分のことではないのに、なんだかとても嬉しい。今はアメリカかな?(→
米国血液学会抄録のページ) これからも頑張って下さい。
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