田中克彦の「差別語からはいる言語学入門」明石書店 2001年刊 を読んだ。これは言語学入門の本ではなく、差別語について体験したことをまとめた本である。
「オンナ」「オトコ」は対をなしている。より古い段階では「ヲトメ」「ヲトコ」であり、「ヲト」という共通要素に「メ」と「コ」を加えて成り立っている。漢字に侵略される以前の日本語はこんなに透明で体系的だった。
純粋な日本語はいつも低い、俗な文脈で用いられ、高級な文脈には外来のものが用いられる。外来のものとは、歴史的に見ると、まず漢語であり、次には西洋語である。例えばコンビニに強盗で入った犯人のことを新聞は「30歳くらいの覆面をしたオトコ」という。男性とは言わない。
人間は生きていくうえで欠かせない作業である。植物とちがって、動物については、殺すという手続きがどうしても必要になる。このコロスということばは人間を含めた動物についてだけ使うので、植物についてはカラスという。音に立ち入ってみると、コとカ、すなわち母音o と a の違いである。
トサツということばの難しさはここから出てくる。人間が飼って育てた動物を憎しみなくして殺さなければならないという、深い苦悩を含んでいる。ここから屠殺ということばがいけない理由を説明しているのだが、長くなるので割愛する。
「井戸端会議」「片手落ち」「禿山の一夜」など、興味深い題材を論じているが、知りたい人は本書を読んでほしい。

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