朝日新聞に連載されていた、ビオラ奏者を描いた小説が今日終わった。
篠田節子の「讃歌」という題の小説で、10台のときにバイオリンでコンクールで入賞して、アメリカに渡ったが、そこの先生が基礎練習ばかりやらせたのでいやになり、また失恋もあって、投身自殺を図ったものの、一命をとりとめる。
彼女は帰国後20年ほど身体がよくならず、家から出ない生活が続くが、あるときからよくなり、バイオリンからビオラに転向して小さな教会のコンサートなどで弾き始める。
そのシューベルトのアルペジオーネ・ソナタを聴いた放送局の人が感激して、放送番組に載せたところ、大きな反響があり、一躍有名になって、コンサートなどでは引っ張りだこになる。
一方、彼女に対する批判的な勢力が後を絶たず、アメリカ留学時代の教授にコンタクトをとった番組が作られ、彼女はほんとうに留学時代は基礎ができていなかったことを語られる。
ビブラートとポルタメントをだらだらに使った、センチメンタルな演奏。そうすれば感動させられることくらい分っているけれど、プロの演奏家なら恥ずかしくて、そんなでたらめな演奏はできないという批評もある。
2回目の番組を作ったそのあと、園子は睡眠薬を飲み、今度は本当に死んでしまう。
園子は自分の音楽が水準に達していないこと、それは練習してもなかなか上達しないことを自覚していた。周囲からの高まる期待に応えられないもどかしさ、それが自殺した原因だったようだ。
しかし、語り手だった社員が、その売り出しになったアルペジオーネ・ソナタを聴くと実に感動的である。彼女はそのヒーリング・ミュージック的なところに生きる道を見出せばよかったのではないか、それが出来なかったという結末である。
この小説を読んで、私もそのヒーリング・ミュージックに十分感動したのではないかと思った。専門家から見たら水準に達していない演奏でも、一般の人に訴える力があるのだろう。ただ、私たちが演奏する場合、それとはレベルが全く違うが、それで満足しないで、より高いものを目指さなければいけない、という理想は持つべきかなと思った。

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