2007/7/27
浅生が自供しました、と中林から連絡があったのは、密室を暴いた後に連れて行かれた美容院で前髪を切られ、半ひきこもり状態が続いていた頃だった。
天海地からの連絡でなかったのが疑問に思ったが、尋ねてみたら「幾ら電話しても繋がらないんです」という答え。――またお祖母さんに捕まっているのかもしれない。
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浅生が自供しました、と中林から連絡があったのは、密室を暴いた後に連れて行かれた美容院で前髪を切られ、半ひきこもり状態が続いていた頃だった。
天海地からの連絡でなかったのが疑問に思ったが、尋ねてみたら「幾ら電話しても繋がらないんです」という答え。――またお祖母さんに捕まっているのかもしれない。
「浅生の自供した場所からロープも発見されました。二人の指紋つきで」
「よかったですね」
実際に人が一人、死んでいる訳だし、犯人が捕まったとしても被害者が生き返ることもない。よかった、などというのは不謹慎だったか?
しかし、中林はそんなことは気にも止めずに続ける。
「浅生はやはり、ペットとして飼っていた蛇たちの飼育費用や家賃の滞納に追われ、どうにかして金を工面しなくてはいけなかったようです。何度も本を盗んでは大田の古本屋で売り、何とか生計はたてていたようでしたが」
「大家から家賃の返済を催促されて犯行に至ったんですね?」
「そうです」溜息が漏れた。「親しくなった大田から、金を銀行に預けず手元で保管していることを聞き、それを手にいれようとしたそうです」
「結局、恋人と称していた蛇は?」
「全滅です。自宅の押入れで標本みたいになってました」
浅生は全てを手に入れる為に殺人を犯し、全てを失ったのか……。
「そうそう」声が大きくなった。「由楽さんのあれ、ヒットしましたよ」
「本当ですか?」
「ええ。あれが浅生にとって最後通牒になったようです」
あれ、というのは床下から庭へ出る途中で私の衣服にくっついてきたものだ。
どこでどうしてくっついてきたのか判らない。土を払い落としていた時に、肩口からひらりと舞い落ちたそれを見つけたのは天海地だった。
――おい、何か落ちたぞ。
――埃じゃないのか?
――違う。
薄く紙切れのようなそれを丁寧に拾い、天海地が中林へ渡した。調べてみてください、と。
帰り道で天海地に尋ねてみたら、「シンデレラの落としたガラスの靴かもしれないな」と意味不明なことを言っていたのだが、まさか本当に犯人を決定づけるものになるとは。
「由楽さん?」と中林。「聞こえてますか?」
「あぁすみません。ちょっと考え事を」
「それにしても、まさか浅生も自分の服に脱皮した蛇の皮がついていたとは思ってなかったんでしょうねぇ」
鑑識へ回されたそれは蛇の皮だと判明したのだ。浅生の飼っていた蛇を一匹ずつ調べてみたところ、その皮は死んだ一匹のものと一致した。
そのことを浅生告げたところ、憑物が落ちたように話し始めたと言う。
また中林の溜息が聞こえた。
「浅生は、大田の金が手に入れば全て上手くいくと思ったんでしょうね。……結局、全てを失ってしまったけれど」
私と同じことを呟き、また天海地さんに連絡してみます、と言って電話を切った。
短すぎる前髪を気にしながら、今回の事件を考えてみる。
蛇を愛し、蛇の為に老人の命を奪った男。
男性とはいえ力のない老人の首を生き絶えるまで絞め続けた男。
暗い床下へ潜り、人の通らぬ道を抜けて出て行った男。
まさに蛇のような男だ。

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