2008/7/8
座っているだけで長袖の内側がじわじわと湿ってくる。
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同じように汗をかいているペットボトルをひねって半分ほど一気に飲み干す。佐藤さん(仮)は飲む気もないのか――脱水症状だけは勘弁してくれよ――水滴のついたボトルを見つめていた。
「……アイス、いる?」
「え?」
「アイスだよ。冷たいヤツ。知らない?」
それまでずっと下を向いていた彼女は僕の言葉にぱっと顔を上げた。ふるふると揺れていた瞳が一瞬だけ現実味を帯び、口元が僅かに綻ぶ。
「……なんだ、『仲間』なんじゃん。そうだよね、何か君、すっごいドラッグ詳しいしぃ」
「いるのかいらないのかはっきりしたら?」
「ちょうだい」気持ち悪い笑顔だった。「大丈夫、今度は失敗しないからさぁ」
ちょっと待ってね、と腰を上げて冷蔵庫へ。
今日のおやつにと買いだめしておいた『アイス』を二つ取り出し、一つを布団へ放り投げる。
「……何コレ?」
「アイスだろ?」
投げ出されたのはもなかのアイス。僕のマイブームだ。
「超絶に美味いんだよ?あずきもなかなんだけど、中身があずきアイスじゃなくて、バニラアイスの上にあずきがのってるんだ。しかも栗入り。これが105円なんだから世の中って幸せだよねぇ」
スーパーなら定価じゃなくて買えるだろうけど、試験勉強中に無性に食べたくなってコンビニでまとめ買いしたやつだ。滝沢にその話をしたら、『男は黙ってガリガリ君だろ!?』と何故か怒られたけど。
しばらく呆然とアイスを見つめていた佐藤さん(仮)は僕をにらみつけた。
「いらない」
「覚せい剤だと思ったんだろ?」
覚せい剤の隠語は『アイス』。もしくは『冷たいやつ』なんて呼ばれてもいる。昨日の話に出たバツとかタマなんてのもドラッグを売りやすく――買う人間に『麻薬』という抵抗感をなくすために造られた言葉だ。僕もそれを狙ってわざと聞いたんだけどね。
「悪いけど、君は正真正銘の中毒者(ジャンキー)だね。打つ手ないよ。後はもうサツに捕まるか人間やめるかのどっちかじゃない?」
至福のもなかアイスをぱくつきながら突き放す。ここまできたら甘やかしたって無駄だ。朝日奈たちのように何か辛いことがあったんだね、などと共感することもできない。人生の底を見た人間だろうとそれはドラッグに逃げていい免罪符にはならない。
「ドラッグをやめろ、とは言わない。それは僕には関係ない話だからね、友達じゃないから。君がどこでのたれ死のうと、ドラッグを買う金の為にどんな犯罪を犯そうともサツに密告する気もない。ただ二度と僕の目の前に現れないでくれ。何度も言うけど僕はドラッグもドラッグに自ら手を出す人間も大ッ嫌いだ。今までそこそこ楽しかった西島千尋の人生にドラッグは必要ない」
「……ちひろって言うんだ」
「はあ?」
「あたしはカナだよ」
「――話聞いてた?いきなりどっかイッちゃったの?」
「千尋」と、佐藤さん(仮)――もとい、カナはいきなり布団の上で土下座した。
「お願いします!あたしを助けてください!」
腹の底から搾り出すような、悲痛な叫び声だった。
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