2008/6/18
彼女を助けたいんだ、と唐突に滝沢が言った。
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「助ける?」意外な言葉だった。「彼女を?ドラッグから?」
「ドラッグさえなかったらあのコだって俺らと同じ高校生だろ?何が辛くてそんなモノに手を出したのか判らないけど」
「辛いことなんてなかったかもよ?」
滝沢の言葉を封じるように言った。
「興味本位、周りから勧められて、ダイエット、試験前の覚醒……ドラッグは現実逃避の材料じゃない。むしろ現実をより楽しくする為に手を出す人間が多い。自分でその面白さを得る理由でドラッグに手を出したなら、僕たちに助ける手段も理由もない」
きつい言い方かもしれないけど君たちにはもう彼女に関わって欲しくない。人でない人なんて見たことがない君たちは、完全な『こちら側』の住人の君たちには、『あちら側』の汚い部分や醜い部分を見て欲しくない。
「――だけど、お前は助けるんだろう?」
「僕だって助けないさ」
「いいや、助ける」朝日奈は断言した。「お前は彼女を救おうとする」
「どうして……?」
「ドラッグを経験した人間を見てるから。合法ドラッグだっけ?街中で平気で売られてるドラッグすら知らなかった俺たちと違って、自分は少なくともドラッグを知ってる。中毒になった人間を見ている。だから自分には何かの因縁めいたものがあって彼女と出会った。だから自分だけはどうにかしなくちゃいけない。――きっと西島はそう考えるだろうな」
本人である僕が『助けない』と言っているのに、朝日奈は目の前で決めつけた。僕自身が関わりあいたくないと思っているのに?あんなクスリに溺れた人間など目を背けてしまいたいのに?
「それにね、西島くん」橋場さんが言う。「あたしたちだってあのコに関わっちゃったんだよ?あたしたちと同じ高校生がドラッグを買ってるって知っちゃったんだよ?見てしまったものをなかったことにできるほど、簡単な事件じゃないでしょう?」
「ドラッグがどんなに恐ろしいものかは体験や経験者がいなくても私にだって想像できる。それでも私たちは、彼女を救ってあげたいと思うんだ。何も知らない人間がそう思うのは……無知な人間のエゴか?傲慢か?
同じラインに立つ人間を、同じように生きていて欲しいと思ってはいけないか?」
思わず椅子からずり落ちそうになった。
何なんだろう……この揺ぎ無い力は。
だって他人だよ?昨日ほんの数時間、一緒にいただけの他人なんだよ?彼女がこれからドラッグを続けようが警察に逮捕されようが、名前も知らない他人なんだから全く関係ないじゃないか。君たちは今まで通り、完全なる『こちら側』の生活を送ればいいだけのことだ。それなのに、どうしてわざわざ人生に傷をつくるような真似をする?人生だけじゃない、心にもダメージを受けるかもしれないハイリスクな行為に及ぼうとするんだ?彼女に関わるというのはドラッグに関わることであって、それは法に触れることになる。真っ白な君たちが染めていい色じゃない。
反論できない僕に女史が続ける。
「これがどれだけ大きな事件なのかは承知している。それでも西島が飛び込んでしまいそうな気がするから見なかったことには出来ない。西島が一人で背負うことでもない。私たち全員が彼女と関わった。だから全員で助ける。どんな部分を見せられても」
「――犯罪、だぜ?」
「判ってる」
「飲み込まれてアウト、なんてことになるかも?」
「誰が飲まれるか」
「はっきり言ってドロドロだよ?汚くて醜くて情けないよ?」
「ドラッグのない彼女は違うかもしれない」
参った。
降参だよ。
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