2009/11/28
靴の中の砂 (10) きみがいる時間

それまで住んでいた関内のマンションは売りに出し、ここに少ない荷物で引っ越して来ると、ふた月は、すぐに過ぎた。そして海辺の六月 --- 夏が、早々と腰を据えようとしていた。
同じ時間帯に生活する数人の顔見知りも出来た。
入居して間もなく、最初に挨拶をしたのは103号室の谷田部という老人で、このアパートメントについての知識のほとんどは、その老人からと言ってよかった。なんでも、かつて、大学で音響学を教えていたとのことで、何年か前に奥さんを亡くしてから、鎌倉の自宅を売って、ここで一人住まいを始めたと話した。
なお、その元教授によれば、僕の部屋の前の住人は、四十絡みの男で、どうやら、やばいクスリに関わっていたらしく、ある日、警察に連れて行かれたまま、二度と戻って来ることはなかったという。











