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2009/7/2

晩夏、その夏の果てへ  車窓に開く頁

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 去年の九月の初め、その夏の余りに中途半端な-----季節を楽しむでもなく、何かに打ち込んだわけでもない-----生活にうんざりしていたこともあって、夜、急に思い立ち、気の変わらぬうちにと車で旅に出た。日付が変わろうという深夜の出発だったから、N県の、とある湖畔にたどり着いたのは翌朝のことだった。

 そこには、顔見知りの主人が営む、夏の間だけ開く小さなリゾートホテルがあった。

 フロントというより、帳場と呼ぶ方がふさわしい玄関口の事務室に古い旅鞄を預け、テーブルが半ダース程の小さな食堂に私が入っていったのは、もうそろそろ朝食の時間が終わろうという頃であった。

 食堂の隅の窓辺に女性が一人座っていて、給仕役のホテルの若い嫁さんよると、今日の客は、その女性と私の二人だけだと言う。
「先週の日曜日を最後に、急にお客様が引いてしまって.....。ここは、もうすっかり秋なんですよ。何日か前から、夜は大分冷えるようになりました。寒いといけないので、お部屋にストーブを出しておきました」
 私のテーブルに茶器を並べながら、彼女は、そう説明した。

 例の窓辺の女性はというと、ちょうど私の斜め前の位置にいて、珈琲を飲むのにも読書をするのにも退屈したかのように頬杖をつきながら外を眺めていた。

 あのテーブルからなら、木立を透かして、きっと湖面が見えているに違いない。
 テーブルに置いた本は、どうやら仮綴じの仏蘭西装のようだ。

 その本のことが、彼女の存在と等しく気にかかった。
 ちょうどその時、ホテルの主人が太い薪を四、五本腕に抱えて食堂に入って来た。
「お客さんの数によっては、もう一週間営業を延ばそうかとも思ってたんだが、こんな調子では、予定どおり今週でクローズだな」薪を暖炉の脇に下ろしながら、傍らに座っている私に話しかける。
「今夜は暖炉に火を入れるから、夕食が済んだら、しばらくこの前で一杯やらないか。ハイランドの良いスコッチが一本手付かずである」
「もしかして、シングルトンか」と私。
 彼が笑ってうなずく。
 その時、窓辺の女性が立ち上がった。
 私達の側を通り過ぎる時、携えた本の表紙を盗み見た。作者までは探れなかったが、『ローマ時代、パリの女性、道程』など、書名の一端を読むことが出来た。仏蘭西語だった。
 ホテルの主人によると、その女性は翻訳の仕事をしていて、八月の中旬から既に二週間程宿泊しているとのことだった。

「夕食の後、あのお客さんもスコッチに誘ってみましょう。息子の嫁とは気が合ってるようだし.....。二人よりは四人の方が良いでしょう」と主人は言うと、後ろを向いて、暖炉に薪を組み上げ始めるのだった。



”MUSKRAT LOVE” Captain & Tennille


FINIS
 



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