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出典が明記してある箇所を除き、著作権は、筋書き担当のサングラス。

2018/5/21

イチ子さんのトースト・サンドウィッチ  きみがいる時間

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 食パンは、パン食文化圏の人々のセオリーどおり『八枚切り』をトーストするのが好きだけど、外国人の多い東京でさえ、外食で饗されるパンは、ほとんどが我が国の作法に則り六枚切り ----- 柔らかい食感を好むのは、炊きたてのご飯や突きたての餅の影響を受けているかららしい。焼いて硬くなった耳を嫌がる風潮もそんなところから来ているようだ(仏蘭西人とはまったく逆の解釈だね)。まあ、美味しくないパンの八枚切りなら、美味しい六枚切りの方がいいけれど...。

 ところで、日曜日のブランチをイチ子さんが担当すると、時折、こんなトースト・サンドウィッチを作ってくれる。
 軍隊や店売りのサンドウィッチとは違うから、具材の規格化は不要でネーミングも困難。二度同じものは出てこない。

                             

 ぼくが最初のひと口をかじったとき、イチ子さんが言った。
「今ね、とっても久し振りに『バーナード・リーチの日時計』を読み返してるんだ...」




大比良瑞希 / Sunday Monday


 

2018/5/17

337キロメートル  きみがいる時間

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 この夏の初め、久しぶりに帰省したというきみを、偶然、街で見かけた。

「しばらく会わないうちに太ったでしょ」ときみ。
「そうかなぁ」とぼく。
「二十代の頃は、お腹がペッタンコだったの、あなた、よく知ってるじゃない」きみが気になる辺りをさすりながら言う。

 この四半世紀、きみは、たった一度の結婚に失敗して、今も嫁いだ先の街に一人で暮らしていると聞いた。

 小柄なきみに見上げられながら、結婚しているのかと小声で聞かれ、縁が薄いようでまだだと明かす ----- この四半世紀、ぼくは、結婚に至らない恋愛を三回した。

 わずかな時間の立ち話 ----- 連絡先も聞かないまま彼女と別れて、またそれっきり。

 昔、きみが、煮え切らないぼくをあきらめて他の人と結婚したあとも、ぼくは時折、申し訳ない気持ちできみを思い出しては無性に会いたくなることがあった。現実は、337キロメートルという、急にはどうしようも出来ない距離が、ぼくときみを隔てているというのに...。




J.D.Souther / Go Ahead And Rain


 

2018/5/15

恋したら  幕間の出来事

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 好きな人に自分を重ね合わせようとするのは自然な行為らしい。心理学ではモデリングと呼ぶそうです。

 さて、恋したら、気になる人のために、自分の人生を多少変えてもいいと思うのも、実はそんなことなのかもしれません。




The Hollyridge Strings / No Reply


 

2018/5/12

ハレイワのビーチハウス  装う想い

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 南中の陽射しを避けて入った、ハレイワのビーチハウスでのことだ。

 壁に波乗り小僧達の古い写真がいくつも掲げてあって、
 見上げると、にわかにノースショアの風が動く。

 そこでは、百年の昔、
 ワイアルワ湾に面した古い街並みが、
 バニヤンの木立の中で静かに眠っているというのだ。




The Beach Boys / Wouldn't It Be Nice


 

2018/5/11

鳩サブレー  きみがいる時間

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 三月最終週の午前中、北鎌倉・円覚寺の境内を水口イチ子と巡った。
 その後、寺領の北のはずれを接する浄智寺脇の山道を登って葛原岡神社に至り、さらに銭洗い弁財天を経て鎌倉駅へと下った。途中、葛原岡神社に祀られている十四世紀の文人・日野俊基卿に、イチ子は、いたく感心していたようだった。

                             

 昼を大分過ぎた頃、ぼく達は、鎌倉駅前商店街のとある食堂に座っていた。
 イチ子は生シラスを食べるのを楽しみにしていたのだが、一月から三月までは禁漁期間だと店から聞かされ、少なからずガッカリしていた。でも、その代わりに注文した冷凍シラスの釜揚げが揚げたてだったことを大層喜んだ。
 シラスを味わいながら、ぼく達は麦酒を飲んだ。そして今日いち日のことを話し、そしてまた麦酒を飲んだ。

 帰途、鎌倉駅前の豊島屋で、ぼくは、イチ子の好きな鳩サブレーを買った。

 陽はまだ高かったが、駅前広場には、そろそろ帰り支度を始めた、遠来の観光客の雑踏が次第に膨れ始めていた。




David Soul / Don't Give Up On Us


 

2018/5/9

観音様と台湾ギャング  貝殻これくしょん

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 境内の骨董市でのことだ。
 還暦はとうに過ぎた男で、玉砂利の上に四畳半程のシートを広げ、古い香水瓶やインク壜など比較的小振りなものを集めて商っていた。先客との商談を聞いていると、話し言葉は、古い日活映画によく登場した台湾ギャング風である。その年齢なので最近来日したとは思えず、在日歴が長い割りに言葉は上達しなかった人なのだろう。
 ということで、立ち止まり、ながめていると、最後に四センチ程の観世音菩薩の頭部の根付けが目にとまった。なかなか美しいお顔で、しばらく見とれてしまった。

 ほかの露店を見て回った後も、やはり、さっきの観音様が気になった。戻って、今度は手に取ってみた。不思議な質感である。材質は木デアルカと尋ねてみた。
 木は違うアル。ヒマラヤ山は、昔、海の底で、高い所へ行くと古い珊瑚が採れるアル。そこで採れた珊瑚の化石で作ったアルと言う。材質はナンダラカンダラと説明されたが、尋ね直しても、ぼくにはさっぱり聞き取れなかった。

 躊躇せずに求めた。

 台湾ギャングは、普段は五千円アル、今日は四千円でいいと言う。ヒマラヤ云々が本当の話だとしても、落としどころは三千円が良いところだろう。でも、気に入って買うのだから、酉の市同様値切らず、祝儀を付けたつもりで四千円でもらうことにした。台湾ギャングの愛想が急に倍増したから、祝儀の甲斐はあったようだ。

 何に使うか聞かれたので、根付けかお守りみたいなものにしようと思うと言うと、それならサービスすると言って怪しげな紐を持ち出してきたので、それは、礼を言ってお断りした。
 最後に、陽に当てると色が落ちるかも知れないから気を付けろと言う。着色なんかしていないという体で売っているのだから、そのアドバイスは、怪しさ百倍のオマケを付けてくれたようなものだ。なんだか笑いが込み上げてきた。

 帰宅後、京都寺町通りの伊藤組紐店で買った緑色の組紐を付けてお守りとした。手に馴染む大きさと質感が心地よく、掌で転がしていると、もしかしたらボケ防止になるかもと変な期待もかけたくなった。

 度々お顔を拝して、どちらのお生まれですか伺ってみる。お顔立ちが、どうも、日本人の彫ったもののようには見えないのだが...。




The Cyrkle / Red Rubber Ball


 

2018/5/6

朝から夏の陽射し...  きみがいる時間

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 朝から夏の陽射し...




Alan Sorrenti / Beside You


 

2018/5/5

花盛りの妙本寺へ  車窓に開く頁

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 染井吉野が終わると次に控えているのが海棠。名所と言うと、この辺りでは鎌倉。梅、桃、桜、海棠と花盛りを迎える順に花弁のあしらいが華やかになってまいります。

 ところで、端午の節句を迎える頃に海棠が満開の妙本寺へ行こうと、きみとした約束は、あの些細な出来事を最後に迷うことなく反故にされたまま。

 とにかく、きみと一緒でなくては、重い腰のあがらない春この頃。




George Martin Orchestra / All my loving


 

2018/5/4


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 きみのために、丁寧に髭を剃った朝。




Strawberry Alarm Clock / Good Morning Starshine


 

2018/4/29

エッグ・カップ  貝殻これくしょん

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 小澤書店版『小沼丹作品集 全五巻(1980)』を書棚から久し振りに持ち出してきた。

 小沼丹の作家としてのデビューは三十代半ばで、昔のこととしても早い方ではない。英文学を大学で教えていたこともあり、今風には兼業作家と言うのだろう。本人がどちらを本業と思っていたかは、生憎、文献には見あたらない。
 さて、その小澤書店版作品集は執筆年代順に編集されていて、一巻ごとに彼の年代的な作風の推移を見ることができる。
 第一巻より、やはり最終巻、五十代以降に執筆された作品群の文体が際立って上手い。井伏鱒二を師と仰いだ程だから、中年以降の文体の醸し出す雰囲気は師匠に多少似かよってはいるが、そこに長い間生業としている英文学のテイストがあって、師の文体と比べると大分モダンな感じがする。その辺りが気持ち良く、気に入っている理由かもしれない。

 作品集第五巻に収められた短編『エッグ・カップ(昭和五十三年・講談社刊『木菟燈籠(みみずくとうろう)』所収)』を、今日、しみじみと二回読んだ。




Peter Paul & Mary / Early Morning Rain


 

2018/4/27

安息日の午後のことを...  きみがいる時間

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 去年の秋、ある思い出の記念に水口イチ子から小さなナイフをもらった。
 いつも持ち歩いていたかったのだが、ポケットに入れたままだと急に飛行機に乗ることになったときなど ----- 機長に預けて頂かないとお乗せできません ----- という例のハイジャック防止のための不愉快な問答をするのが嫌で、止むなくライティング・デスクの見えるところに置いておいたらいつの間にかなくなってしまった。

 それから半年以上経った今日、それは、冬の間スタジオで防寒に使っていたシュラーフの中から見つかった ----- 陽に干して、仕舞おうとしたときのことだ。

 なんでそんなところから...。

 そう言えば、あの冬の日 ----- イチ子とふたりで過ごした安息日の午後のことを、ぼくは今、懐かしく思い出すのだった。




Nicolette Larson / Lotta Love


 

2018/4/24

その、ある晴れた日の昼下がりのことだ  装う想い

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 さて、沈んだような冬の陽射しの印象が漸く薄らぎはじめた四月初旬 ----- その、ある晴れた日の昼下がりのことだ。




The Lovin' Spoonful / You Didn't Have To Be So Nice


 

2018/4/23

花を抱えた沢山の娘達がいて...  装う想い

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 グリンデルヴァルトに程近い、ベルナーオーバーラント鉄道のとある駅前広場に、花を抱えた沢山の娘達がいて...。

 尋ねてみれば、毎年、五月最初の水曜日は『アルプスの花祭り』の日なのだと言う。フランソワーズと名乗った、金髪を三つ編みにした小学四年生ほどのその娘は、おじいさんが作ったという花束を列車から降りてくる観光客に配るのだと、頬を紅潮させて話したのだった。




The Searchers / When You Walk in The Room


 

2018/4/21

髪飾りには向かない香り  きみがいる時間

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「これで髪飾りを作ると蓮華より見栄えがいいんだけど...」と言いながら、イチ子さんが庭で白い花を一本手折った。
「匂いを嗅いでみて。ううん、花じゃなくて、折ったところ...。ニンニクみたいでしょ? 髪飾りには向かない香りよね」
「ノビル?」
「そう。この辺の古い人達はノビローって呼ぶけど。もはや、昔の食べものね」
「子供の頃、食べたよ、味噌付けて」
「十年くらい前、一度、夕飯に出したの覚えてる?」
「うん、おぼえてる。ぼくに掘らせたじゃないか」
「あら、そうだったかしら...」




The Raspberries / I Wanna Be With You


 

2018/4/17

喧噪も容易には届かない  幕間の出来事

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 昼下がり、山門の階段を上ってくる水口イチ子。

 ここまでは、街路の喧噪も容易には届かない。




The Brothers Four / Try to Remember


 



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