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2018/7/20

ピンチョンではそこまで騒げない  貝殻これくしょん

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 トマス・ピンチョンが久し振りに小説『メイソン・アンド・ディクソン(1997)』を上梓したとき、ニューズウィークだったかが、「これ程までの天才文学者がいるアメリカを祝福しよう」のような絶賛記事を書いて大騒ぎしていたのを憶えている。日本のピンチョン研究家の第一人者S氏だって、そこまで大騒ぎはしなかったように思う。まあ、同時代に稲垣足穂や澁澤龍彦を読んでいた日本の読書人としては、ピンチョンではそこまで騒げないというのが正直なところだ。
 旧作の再読に興味が向いて久しいが、今日、ふと、日本のそんなふたりの作家のことが記憶の端に浮かんだ。



【Juliana Pulido / どんなときも】

 

2018/7/15


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八月 ティーン・エイジの休暇中の記憶
瞼に古い音楽堂の風景が映る

なつかしさの欠片は
今も 日比谷の夏の公園の
木立の陰から見つかるかも知れない

『昨日読んだ 古い本も 青いカビの生えた本』
BBの歌った あの曲名だけが
なぜか なぜか思い出せない



【石田長生 × 忌野清志郎 × 三宅伸治 × 藤井裕 / The Weight】

 

2018/7/13

正午に湯島聖堂で  幕間の出来事

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 いつもどおりの潮騒が聞こえて、海に永遠の夏が覆い被さっているような午后のことだ。

「お互い、覚えていたら、来週の今日、東京でまた会いませんか」
 防波堤の焼けたコンクリートの陰で、知り合って間もないきみが言う。
「うん」と答えはしたものの、すぐに大変な賭けをしたことに気付く。
「来週の正午に湯島聖堂ではどうですか。本堂の中は涼しくて、待ち合わせにはいいかも」と彼女は小さく笑うのだが...。



【ONCEMORES / I Need To Be In Love】

 

2018/7/6

午睡の夢 ----- カリブの風  きみがいる時間

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 午睡の夢。
 大汗をかいて目覚める。
 傍らの時計を見れば、費やした時間は小一時間ほど。短いながら、不思議な次元を生きたようだ。

 夢の中できみに会った。
 ただ、きみの肌の色はぼくと違って、スペインとインディオのハーフ・ブラッドらしいカフェ・オ・レ色。

 きみは、その豊満な褐色の太ももを作業台代わりにして巻いた ----- まだ、きみの体温の残る ----- 巻き立てのハバナ葉の葉巻をぼくに手渡しながら、
「お昼、なににしますか」なんて日本語で聞いてくれたりする。

 開け放った窓から、レースのカーテンを大きく揺らして、熱く湿った南風が吹き込んでいた。
 あれはきっとカリブの風だったのだろう。

 遠く、街の喧噪も聞こえていた。



【Starbuck / Moonlight Feels Right】

 

2018/7/4


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 赤く焼けた肌がパラソルの色と良くマッチした観光客向けの写真はがきをきみが送ってくれたのは、タイのカオラックのビーチからだったろうか、それともジャマイカのネグリルの海辺の街からだったろうか。

「次のフライトの交代が来るまでの合間に遊ぶから、知らない人が思うほどリラックスできないのよ」なんて言い訳のような走り書きがしてあったっけ。



【MonaLisa Twins / You’re Going to Lose That Girl】

 

2018/7/1


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 春もまだ浅い頃、イチ子さんと旧甲州街道最大の難所、笹子峠を歩いて越えた時のことだ。
 眼下に広がる三角州の痕を左右に見ながら、国中へと下る道すがら、イチ子さんが、
「あっ、山桜かしら?」と言って指差したのが、ちょうど色も大きさもよく似た、野生のすももの花盛りだった。

 そして夏 ----- すももが旬を迎えている。

 夕方、西日を浴びながら冷やした実をかじると、早春の、あの甲斐路の山旅を思い出すのです。




Edison Lighthouse / Love Grows (Where My Rosemary Goes)


 

2018/6/30


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 手縫いのサックドレス ----- これ、この夏のお気に入り。生地は薄い黄檗色(きはだいろ) ----- 都内方々の生地屋さんを探し回ってやっと見つけた。
 足もとは、藍白(あいじろ)のミュール ----- これは、この間、アメリカのプレイボーイ・マガジンに英文の原稿が採用されたという、大好きなアイツからの誕生日プレゼント。




The Buffalo Springfield / On The Way Home


 

2018/6/27

夏のスタジアム  きみがいる時間

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 遅刻した。
「あれほど今日は府中球場だって言ったのに、一本杉へ行こうとしてたでしょ? 知ってるんだから...」
 確かにイチ子さんは怒っていた。
「府中は次の試合だと思い込んでた。ひとつ前の予定と勘違いしてた」
 謝る他はない。
 スコア・ボールドを見ると、我がチームは毎回加点していて、とりあえずひと安心。

「こないだ言ってた、いいピッチャーって、今投げてるあの子?」とイチ子さんがマウンドを指差す。
「そうそう。一年坊のピッチャー。リトルで国際大会へ行ったことがあるらしいよ」
「へぇー、それがなんでウチみたいな、いい選手を集めてるわけでもない高校に入ってきたのよ?」
「その辺の事情は良く知らないけど、中学や高校野球だとピッチャーが決め手だから、いいピッチャーが一人いれば、結構強いチームになるよ」

 インターバルのたびにグランドに水が撒かれる。

 風が吹くと、土の臭いがする。

「ところで話は違うけど、塾の夏季講習行くの?」とぼく。
「うん。一応。数学と英語だけだけど、申し込んどいた。アナタは?」とイチ子さん。
「うん。行くつもりではいるけど...。家でゴロゴロしてるわけにもいかないし...」
「塾をまだ決めてないんだったら、アタシと同じところにしなさいよ。サボらないようにしっかり監視してあげるから」と言ってイチ子さんはニヤッと笑った ----- おお、そりゃあ有難い。

 いよいよ明後日から夏休み。でもこのチームが勝ち続ける限り、高校最後の夏休みは塾の椅子ではなく、球場の観客席に彼女と並んで座わらされる日が続きそうだ。

 南中も過ぎて、歓声も一際高い。

 一年生ピッチャーのスライダーは、イン・ハイの打ち頃のストライクからアウト・コースへ沈みながら逃げていくようで、相手チームのバッターは、空振りやセカンド・ゴロの量産を続けていた。
 この調子だと、今年もベスト・エイトまでは行くなと、ぼくはイチ子さんの日に焼けた腕を見ながら思った。




Cliff Richard / Constantly


 

2018/6/25

なぜならば...  幕間の出来事

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 デイヴ・クラーク・ファイヴのアメリカ進出は、わずかな差ではあるが、ビートルズよりも早く、当初はビートルズの人気をしのいだ。確かに、映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』以前の、地方港湾都市リバプール出身のビートルズの田舎っぽさと比べれば、大都会ロンドン出身のデイヴ・クラーク・ファイヴの垢抜けたカッコ良さは理解できよう。

 この曲『ビコーズ』の歌詞は極めて他愛ない。しかし、秀麗なメロディーのおかげで、今ではザ・デイヴ・クラーク・ファイヴの代表曲となっている。




The Dave Clark Five / Because


 

2018/6/23

きみの青と同じ色の空  きみがいる時間

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 夏が来て きみの青と同じ色の空




The T-Bones / Sippin' 'n' Chippin'


 

2018/6/17

忘れた頃、突然  貝殻これくしょん

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【Portrait of Mademoiselle Marie Fantin-Latour】部分



 いまだ細々と読み続けている『吉田健一著作集』の第二十七巻に『昔話』という昭和五十一年十二月に青土社から出版された単行本を底本とした作品が入っている。青土社というからには、もちろん『ユリイカ』に連載されたものである。

 その後記で著者本人が書いている。
『かういふ題を付ければ昔のことは幾らでもあるから材料に困ることはないと考えて初めのうちはその位の気持ちで書いて行ったのであるが校正刷りを見てゐて話を進めるに従って所どころでかなり深みに落ち込んだ感じがしないでもなかった』 ----- この句点のないのは原文のまま。こういう文体の作家なのである。国文学の大野晋先生は、吉田の文章を『文法的に間違いはないが、一級の悪文』と称している。

 当初は吉田も当時の売文家張りに雑文で小遣い稼ぎをしてやろうと考えたらしいが、結局、日本や英国、欧州の手近な古い文学についてのエッセーにしてしまったのが運の尽きで、後記にあるように段々と深みにはまり、不本意ながら、とうとう世界の文明批評にまで発展させてしまったという。

 『昔話』は彼の死の前年、64歳当時の執筆だから、長年の『文学趣味』で培った知識をひとまとめにしてミキサーにかけ、完全なペースト状にしたような書き物のため、今なら出版する本屋も読みたいという読者もなかろう。

 吉田は、同じような手口で『旅の時間』という旅ものも書いているが、それも『昔話』が昔話でないのと同様、決して旅に誘うような代物にはなっていない。河上徹太郎は『特に読まなくてもいいようなもの』と、悪意なく評している。

 さらに、吉田のエッセーには、そのまま素直に一人称で書けば済むものを、わざわざ三人称にして、小説風に仕立てたものも少なくなく、読者 ----- 今となっては、ごく一部のマニア(と言うべきだろう) ----- にとっては面倒臭く、無闇矢鱈と『手のかかる作家』なのである。

 彼・吉田健一は、忘れた頃、突然、読書欲の扉を叩く。




Nikka Costa / First Love


 

2018/6/11

エフカイ・ビーチは、西の風が7マイル  きみがいる時間

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 ノースショアのエフカイ・ビーチパークの外れにある一軒のビーチハウス。
 客のほとんどが地元のサーファーなので、ラジオが伝える波情報に客数は左右される。

                                

 モータープールに停めたオンボロのコンバーチブルのカーラジオから聞こえるビーチFM。
「さーてみんな、今のエフカイ・ビーチは、西の風が7マイルだ。8〜9フィートの波が入ってきてるよ...」とD.J。

「午前中よりいい波が来ているみたいね。午後も乗るの?」とイチ子さん。
「午前中あれだけ乗ったし、午後はのんびりしようよ」とぼく。

 昼が過ぎて、サーファー達がチラホラ集まり始めている。

「暑いなぁ。95度は越えてるね」
 風の音にかき消され、聞こえているのかいないのか、イチ子さんは海からの乱反射光に目を細めたまま、黙って沖を見つめている。

                            ***

 ハワイでは、ここ二十年程で『照り焼きチキン』がすっかり名物になってしまった。
 このビーチハウスは、テリヤキ・ソースが名物らしい。パイナップル・ジュースが入っているとか。ロードサイドに "Jucie Chiken Teriyaki" の大きなサインボードが掲げられているからすぐにわかる。

 ふたりでテリヤキ・チキン8ピース。付け合わせのフライドポテトは山盛り。カロリーレスコーラをワン・クォート。ボールサラダのラージサイズは、洗面器のように大きかった。




The Beach boys / Catch a Wave


 

2018/6/10

その先の200メートル  きみがいる時間

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 夏の岬は、西南の風が吹く。

 簡易舗装こそされてはいるものの、その先の緩い上り坂の道幅は狭く、父のサマーハウスの前庭へは小さな車しか乗り入れられなかった。止むなく、200メートル手前・坂下の大清水さんの蜜柑畑の片隅を父が駐車場として借り、ぼくの古いトライアンフもまたそこに止め置かれることとなった。

 その夏、あるきっかけから頻繁に遊びに来るようになった近所に住む女子高生・水口イチ子とその小さな弟 ----- ぼく達三人が遊びに出かけるとき、当初は駐車場までの200メートルの距離を揃って黙々と歩いていたが、ある日を境にイチ子は、その下りの片道を昔使っていたという古いスケートボードに乗るようになった。
「じゃあ、あとでね。早く来てね」と言って弟とぼくを残し、イチ子のボードが坂道を下って行くノイジーな音を聞くたびに、その『あとで』が、わずか三分後のことなのを、いつもおかしく思ったものだ。

 イチ子達が帰るとき、スケートボードは、駐車場の隅にある蜜柑畑への給水栓に立てかけられてあったりした。




The La's / There She Goes


 

2018/6/9

かつて こんな午後  幕間の出来事

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 雨の土曜日

 かつて こんな午後
 ぼく達は どんなふうに過ごしていただろう

 もう 思い出せない




Deniece Wiliams / Diamond Eyes


 

2018/6/6

1977年8月16日  貝殻これくしょん

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 ラスベガスで不本意な散財をした果ての帰り道、15号線をロスへ向け、レンタカーをぶっ飛ばしていた夕方、カーラジオからニュースが聞こえていた。

 エルヴィスが亡くなったという。

 だからそれは1977年8月16日、バーストウの街を過ぎてヴィクターヴィルまでの間、モハビ・フリーウェイを南下していたときのことであった。




Elvis Presley / Shoppin' Around


 



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