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出典が明記してある箇所を除き、著作権は、筋書き担当のサングラス。

2017/8/22

同じ潮騒が聞こえているかもしれない  車窓に開く頁

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 古い東京タワーが見える都会のど真ん中。

 ホテルのバーの酒瓶が並ぶ棚の端にバニラのリキュール『ガリアーノ』の首の長い瓶を見つけたのだろう、真っ黒に日焼けした妙齢の女性が『ハーヴェイ・ウォールバンガー』を注文している。

 突然、ぼくの耳にノース・ショアの激しく砕け落ちる波の音が聞こえてきた ----- もしかしたら、あの人の耳にも同じ潮騒が聞こえているかもしれない。




Irma Thomas / Time Is On My Side


 

2017/8/19

午後三時半をまわった頃  きみがいる時間

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 午後三時半をまわった頃か...。

 蝉の声 ----- ヒグラシが鳴きはじめたら洗濯物を取り入れておいてとイチ子が出がけに言ってたっけ。

 西日がまだ暑そう...。




Paul McCartney and The Wings / Another Day


 

2017/8/15


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 水練の無きが如しや盆休み




The Supremes / Stoned Love


 

2017/8/14

ドライ・フルーツが自転車のカゴにいっぱい  『夏の手帳』あるいは、稿本『北回帰線の南』から

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 夏の昼下がり。
 明るい陽射しの中を驟雨が来る。

                             

 腰越の叔母から電話で、先月庭で収穫した無花果が干しあがったから取りにいらっしゃいと連絡があった。

 うちではそのまま食べるだけじゃなく、ジャムに作ったりもする。

                             

 プラスチック・バッグのドライ・フルーツが自転車のカゴにいっぱい。

 シャワーの中を走って帰った。




Percy Faith and His Orchestra / Come Saturday Morning


 

2017/8/13

三十一番目の夏  きみがいる時間

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「セブンアップを飲み過ぎたみたい。ちっともお腹が空かないの...」
 きみはそうでも、ぼくが朝から飲んでいたのは海水ばかり。

 午後は日陰でハメットを読もうか、それとも、うたた寝をして過ごそうか...。

                           

 昼過ぎ ----- 風が落ちて手に合う波が来たのか、きみが小さな影を連れて海へ向かう。




The Hollyridge Strings / No Reply


 

2017/8/11

パーフェクトで妻帯者  幕間の出来事

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 ちょっといいなと心ときめく男は、パーフェクトで妻帯者。
 最早、手遅れを認めざるを得ない、M子38歳 ----- 男運は絶望的。

「おっと、オレはダメだよ。独身だけど、オリンピック五大会分も年上だから...」




Scott Walker / I Think I'm Getting Over You


 

2017/8/2

水口イチ子のカレーライス  きみがいる時間

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「昔、クールヴォアジェの産地へ行った時、街のビストロに入ってね、隣にいた、もう酔っぱらって鼻の赤いおじ様に、この辺で一番人気のあるコニャックの飲み方って何ですかって聞いたの。そうしたら、若い奴等はコカコーラで割って飲んでるよ、だって。びっくりしちゃった」

 それには、ふたりとも大いに笑った。

「まあ、好きなように飲めばいいってことだよ。ぼくが、夏でもラムの水割りに氷を入れずに飲むのも、実はなんら不思議なことじゃないってことさ」
                  
                            ***

「お昼はカレーライスよ」
 お盆休みにどこにも行かない代わりに、今日の日曜日は、もう昼からパーティー気分。

                             

 カレーライス ----- なぜだか急に遠藤賢司を思い浮かべた。初めて聴いたのはいつだったっけ...。1968年12月の渋谷公会堂だったような気がする。
 そんなことをイチ子に言ったって仕方がない。きっと知らないだろう。

 初めて木田高介を見たのも、あの夜のコンサートのことだった。




遠藤賢司 /カレーライス


 

2017/7/31

カムーン (ありがとう)  装う想い

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 夏至の日、ハノイから車で二時間ほどの村でエンジンを止めた。ちょうど、駄菓子や飲み物を売る屋台をロードサイドに見つけたからだ。

「シンチャオ (こんにちは)」と店番の髪の短い少女が陽気に声をかけてくる。

 言葉はわからないが、買い物は指差すだけで事が足りて気安い。
 日本の煎餅よりも薄くて大きい米菓子とパパイアジュースを買って、「キムラン」と目差す村の名を言うと、少女は察して、今来た道のその先を指差す。どうやら道に迷ってはいないようだ。

 遙々やって来たベトナム、なぜか観光バスには乗る気にもならず、レンタカーでこんな田舎まで来てしまった ----- この先に、十三世紀頃の古い陶磁器の窯跡が発掘されたと聞いた。

「カムーン (ありがとう)」と少女と互いに声を掛け合って別れるまでのわずかな時間が、もしかして、この旅の最も印象深い出来事になるかもしれないと、ぼくは思いはじめていた。




Jay And The Americans / This Magic Moment


 

2017/7/30


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 早朝。南に向いた硝子窓を大きく開くと夏の風がすかさず吹き込んでくる。
 ディンギー日和。
 秒速4メートルほどの海からの風。

 ランチにと今、庭の菜園から捥いできたばかりのトマトを洗う。地下水をモオタアで汲み上げて引いた水の冷たさに背筋の緊張感が爽快。

 この辺りでも深く掘ってあるほうの井戸というけれど、水から塩気が抜けることなんかない。しばらく流水で冷やして、そのままかぶりつくと、果物も野菜も天然塩の旨味。

                             

 夏は、まだ始まったばかり。




John Renbourn / South Wind


 

2017/7/23

サラダは、いつもパイナップル入り。  きみがいる時間

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 水口イチ子が日曜のブランチに用意するサラダは、いつもパイナップル入り。それと、この頃じゃめずらしくなくなったけれど、モヤシの妹のような豆野菜アルファルファも...。かつては、どこででも手に入らなかったらしく、出かけたついでに、例えば麻布辺りのマーケットで買ってきていたようだ。
 ドレッシングは、決まってサワークリーム。それがダイエットのためなのか健康のためなのかは、まだ尋ねたことがない。

 サワークリームは日本人の味覚からすれば味気ないけれど、ぼくはイチ子の前でそれを美味しくなさそうに食べたことはないと思っている ----- もちろん、美味しそうに食べたこともないだろうけれど...。

 以前、なにが切っ掛けだったか「アメリカにはサワークリーム好きが沢山いるわよ」とイチ子がキッパリ言ったことがあった。普段から好きとか嫌いとかハッキリさせておきたい性分ではあるようだ。今も時折、
「あたしのこと好き?」と真顔で聞かれることがある。
 そんなときは、ぼくは、答えるより先に、イチ子の腰に手を回したりすることにしている。




The Anita Kerr Singers / You Are The Sunshine Of My Life


 

2017/7/17

海鳴りと浜風とスバル360  きみがいる時間

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 横須賀長井漁港のそばに古くからの船具屋があって、ぼくは、そこにスウェーデン製のヨット用羅針盤を注文していた。
「注文が何台か溜まったら発注するから気長に待ってもらえますかねぇ」というのは店主の冗談かと思っていたら、本当に半年以上待たされた。

 今朝七時に由比ヶ浜のフリートに着くと、すでに強風注意報が出ていて、ぼくと仲間達は早々と出艇を取り止めた。塩っ気の多い連中ばかりなので、さすがにそそくさと帰ることはなく、みんな今日いち日をどうやって海のそばで過ごすかという相談を早速始めている。
 そんな時、構わず出艇しようとしたビギナーの大学生がいて、危ないからと寄ってたかって諦めさせたのが、今朝のちょっとした出来事だった。

 さて、七時半を回って、水口イチ子が、この夏買ったという、とんでもなく古い軽自動車でやってきた。ツーサイクル発動機の音は、海鳴りや浜風の吹く中でもすぐに聞きわけられた。

 仲間達は、長谷駅の近くの酒屋から生葡萄酒を買ってきて、海を見ながら宴会をしようと決めたようだ。

 ぼくは、やたら煙を吐くイチ子の車で長井港へ行ってくるとみんなに宣言した。

                             

 『長井船具』でコンパスと引き換えに支払った67,800円を見て、彼女は大いに驚いた。それ単体ではたいして役にも立たないものに、よくそんな大金を払うもんだということなのだろう。

                            ***

 帰りにイチ子が、衣笠駅の近くに最近気に入っている湯葉とお豆腐を食べさせる店があるから行こうと誘う。
「昼には、まだ大分早いよ。店が開くまで、衣笠山か菖蒲園にでも行こうよ」交差点で信号を待ちながらぼくは答えた。
「うん、いいよ。そうしよう。それとね、秋になって涼しくなったら、ディンギーの練習のない日に大楠山にハイキングに行ってみない?」
 イチ子がそうせがんだとき、丁度シグナルが変わり、彼女は、大事なスバル360のアクセルを注意深く踏み込んだのだった。




The Association / Windy


 

2017/7/14

願わないことは決して実現することはないのだから...  きみがいる時間

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 自作のスカートを見ながら、
「そろそろこれも季節外れね」と水口イチ子が言う。

 それはこの夏、きみに一番似合っていた。

「家の中ならまだ平気だよ」とぼく。
「それとも、こんなのを一年中着ていられるような暖かい国で暮らすとか...」
 それはなかなかいいアイデアだと思った。少なくとも、願わないことは決して実現することはないのだから...。

 朝からの曇り空が次第に明るくなる気配。

 ぼくはイチ子を誘って、腰越か稲村ヶ崎までサイクリングに行こうかと思いはじめているのだった。




Taylor Swift / The Best Day


 

2017/7/12

広い谷戸を満開の花が...  きみがいる時間

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 九月の初め、車で安曇野へ抜ける山間の道すがらのことだ。

 水口イチ子が白い花の群生を見つけて、
「見て! 雪よ、蓮華よ」と高ぶった声を上げたのは、
広い谷戸を満開の花が埋め尽くした蕎麦畑でのことであった。




Tracey Ullman / Breakaway


 

2017/7/8

鎌倉の春  きみがいる時間

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「鎌倉の駅から歩いてほんの数分のところに、こんな静かな花のお寺があるのを、どうしてみんな知らないのかしらね」と言うと、水口イチ子は山門をくぐり、ひとり先に行ってしまった。
「ここはね、桜が終わると、すぐに海棠、そしてアヤメ、花菖蒲...」
 ぼくが言うのもろくに聞きもせず...。

 ここ妙本寺に咲く海棠は、四月半ばが見頃。
 その花の柔らかな色は、毎年、中世の、日本の春の情景をぼくに思い描かせる。

                        

「ねぇー、ランチは材木座へ行きましょ!」
 離れた本堂の一段上がった外縁から、イチ子の声は、妙に暖かく境内に響いた。




Phil Collins / (Love Is Like a) Heatwave

2017/7/3

フィッシャーマンズ・ワーフの夕暮れ  きみがいる時間

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 初秋、フィッシャーマンズ・ワーフの夕暮れは、思いのほか遅い時間にやって来る。

 沈みかねている夕日をながめながら、一軒のシーフード・レストランの、海に突き出た少し肌寒い硝子張りのテラスに腰掛け、熱く真っ赤に茹で上がるはずのロブスターとナパ渓谷産のシャルドネを注文する。

 ところで、せっかくのロブスターの、そのセクシーなまでにはち切れそうな豊満な肉の塊を、どうしてアングロ‐サクソンは単調な溶かしバターのみで食べるのか。ぼくは、ウイスキーの空のパイント瓶に入れて持ち込んだ醤油と、その溶かしバターとを合わせ、これから熱く真っ赤になって登場してくる『彼女』を謹んで頂くことにしよう ----- 今夜、ホテルの部屋から水口イチ子へ送るメールの、気の利いた書き出しの一行でも考えながら...。




Arthur Alexander / Anna (Go to Him)


 



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