ワシの最も尊敬する映画監督、ジャン=ピエール・メルヴィルの最初の長篇作品が本邦初公開されるってんで、いそいそと見に行きますた(笑)。
第2次大戦戦時下の「抵抗文学」の名作として名高い、ヴェルコールの同題の小説を映画化した1947年作品「海の沈黙 Le Silence de la mer」。原作は岩波文庫から出ているので、事前に一読しておいた。この映画の上映情報も教えていただいたメルヴィルのファンサイト
「LE CERCLE ROUGE」にはこの映画にまつわるエピソードも満載されているが、それによると原作者ヴェルコールその人がこの小説の映画化に反発し、彼の選んだレジスタンス活動家による審査委員会のメンバーが1人でも上映に反対したら映画のネガまで処分せよという難題まで押し付けられたという。しかし、メルヴィルはそれを乗り越え、委員全員の賛同を得られたそうだ。しかも、コクトーがこの映画に感銘を受け、代表作「恐るべき子供たち Les Enfants terribles」の映画化を依頼するきっかけになったという。
実際、初めて銀幕でメルヴィル映画を見られたという感激もあってか、実に見事な映画であったと思う。メルヴィルファンのひいきの引き倒しになるのかもしれないが(^烹^;、ことによると原作以上ではないかしらん。ワシが原作と映画を比べてこういう判断を下すのも滅多にないことだが、原作がごく短い作品であるためもあろう。それだけ精緻に原作を映像化しており、こまやかな映像ならではの描写は原作では得られようもない効果である。「映像」とは言っても、メルヴィル以外の監督ではそれも期待できなかったであろう。大画面で見られたおかげというのもあるのかもしれないが、このあたりに後年のメルヴィルの作風がすでに現れている。
また、映画の末尾に主人公の老人が「犯罪的な命令に従わぬ勇気は素晴らしい」と書かれたアナトール・フランスの本を広げてドイツ将校を暗に賞賛するシーンがあるが、これは原作にはない。男同士の心の絆を見事に描きあげる後年のメルヴィルの作風を連想させる一場面だが、ワシにとってアナトール・フランスは特に愛好する作家の1人だけに、出典がとても気になる。「エピクロスの園 Le Jardin D'Épicure」(1895)あたりかなぁ
?…などと思いつつ「エピクロスの園」を拾い読みしていたら、「男の嫉妬と女の嫉妬は性質が違う。男の嫉妬は相手の独占欲だが、女の嫉妬は恋敵への競争心だ」というようなくだりを見つけますた(^烹^;。至言。