2009/4/2
ふーるぷりんせす ショート―短編
またまたなんだか書けちゃったので、もう過ぎちゃいましたが極彩色伝でエイプリルフールネタです。
こちらも本館の極彩色伝を(以下略)
大丈夫!読んでやるよ!という方は続きを読むをクリックプリーズです。
ふいに冴えるから困ったもんだ……腹減ったぜ。
理由は大したことでも無い。空は小気味のいい晴天で、身体を通り抜けるような軽やかな風があって、目に留めた先には小さな花が慎ましやかに、けれど賑やかに咲き誇っていた。
思いつきで言ってみただけ。ただそれだけ。
「嘘を……ついてもいい日?」
少し半信半疑な色を浮かべて、彼は微かに首を傾げた。よくよく考えてみればそんな風習、普通ないだろう。色でさえ由来はわからない。ただそういう日があった、それだけしか知らないし覚えてもいない。
「うん。あのねえ、エイプリルフールって言って、その日だけは嘘をついたりして人をからかってもいい日なんだって」
珍しく昼食を一緒にとるとラミストが言ったので、色も好奇心で話題に出してみた。机の下で、床に爪先が触れるか触れないかという高さから足をぶらぶら揺すりながら、ラミストの反応を見てみる。予想していたよりも反応は鈍く、むしろ色からしてみて異文化に身を置くラミストには、それこそ理解しがたい異文化のように感じているようだった。
嘘をついていい日。今までの色だったら調子に乗って色々な嘘をついたり、いろんな人をからかおうと画策してみたりしただろう。だけどラミストの曖昧な表情を見ると、そもそも『嘘をついていい日って、別につかなくてもいいんだよねえ』、などと思い始めてきた。というか、ラミストの表情が既にそう言っていた。
あんまり面白く無いみたい。色は考えた。
「ねえねえ、だからさあ、今日エイプリルフールにしてもいい?」
ダメもとで言ってみた。ダメと言われたところで痛くも痒くも無い。
それでも少しだけ期待をこめて俯きがちに顔色を伺うと、ラミストは特に難色を示す様子もなく、微かに微笑み返してくれた。しょうがないね、なんて言うように。
「まあ、誰かを困らせない嘘ならいいかな。ちゃんと断ってから言うようにね」
「うん!」
やったぁ。机の下でしっかりガッツポーズを作ると、色は飛び降りるように椅子から下りた。
「じゃあ嘘吐いてくるー!」
「……いってらっしゃい」
一目散に部屋から去っていった色の背中を、ラミストが苦笑して見送っていた。
***
今日は嘘をついてもいい日なんですよ。
今日は午後から、空からお菓子が降ってくるのでお洗濯物に注意しましょう。
それから明日から太陽が二つになることに決まったので、ちゃんと睡眠時間の確認は怠らないようにしましょう。
ご飯の時間は一日五回に増えて、おやつの時間も一日三回です。みんなもりもり残さず食べましょう。
こんななんとも言えない嘘らしい嘘を次から次へと色んな人につきまくって、色はその日一日擬似エイプリルフールを満喫した。色が嘘をつくと怪訝な顔をする人も多かったけれど、中には嘘を吐き返してくる人もいたし、色の嘘に付き合ってくれる人もいた。
アナトなんかは『わが国では嘘吐きは丸坊主の刑ですよ』と笑顔で軽やかなカウンターを返してきたので、色のほうがビビッて逃げてしまった。こういう時に限ってダルガは不在だったので、普段の意趣返しが出来なくて悔しかった。
そうして散々嘘をつきまくって満喫した頃にはもう夜も更け、擬似エイプリルフールも終了間際になっていた。それでもまだまだつきたい色。獲物はいないかなあと館内をうろうろしている間に、思わぬ人に出くわした。そこは食堂の奥にあるテラスで、人影が見えたので、くせ者ーと言って色は飛び出した。振り向いたのは、主様。
「あ、あわわ……ラミスト様」
「くせ、もの? とはなんだ?」
テラスの手すりに肘をかけて色を見下ろすラミストは、広間とは違いごくシンプルな軽装をしていた。もう寝る直前だったのかもしれない。
さすがの色もラミストをくせ者扱いは不味い、とわかった。
「な、なんでもないよ!」
「その様子だといい意味では無いな」
見透かしたように見下ろされたので、色はもう縮こまるしかない。昼間も微妙な反応だったし、さすがにラミストには嘘はつけないよなあ、と色も観念した。もう、寝る時間だ。おやすみを言って寝よう、と色が思いかけたそのとき、頭上から涼やかな笑い声が降りかかってきた。
「……なに?」
「いや。……聞いたぞ、イル。沢山嘘を吐いてまわったそうだな」
「……む」
なぜそれを。と一瞬思ったけれど、それも今更だ。散々あちこちで嘘をつきまくっていたのだから、ラミストの耳に入らぬわけも無い。それでもつーんと口を尖らせて、色はそ知らぬふりでそっぽを向いた。まだ一応エイプリルフール有効だもんね。
「嘘なんか吐いてないもーん」
「おや」
「今日も一日いい子にしてたもーん」
今日も。突っ込む相手がいなくて助かった色。ここにアナトでもいようものならまた更なるカウンターを食らっていたことだろう。ラミストはアナトの様にひねくれてもいないので、ただ可笑しそうに笑うだけだ。
「いい子だったのか」
「うん」
自信たっぷり。あながち嘘でもない。悪い子でもなかったし。
あくまで白を切ろうとする色を見下ろしたラミストはふいに、彼にしては珍しい、悪戯めいた笑みを浮かべた。
「『今日から主従逆転したので、そのつもりでいるように』」
「ぬっ」
なぜそれを。正確には、『今日から主従逆転したので、そのつもりでいるようにであろうぞよ』だ。偉そうな言葉が咄嗟に出てこなかったので、中途半端に文法がおかしかった。
聞いたものによっては毛も逆立つほど怒り狂うか恐れ戦くかしただろうが、そこは色、選んだ相手はアナトだった。まあ、カウンターを食らったのでむしろ惨敗だったけれど。
それよりもまさかラミストに知られるとは。アナトめ、抜け目無くちくったな。意地悪そうなあのひねた微笑を思い浮かべ、色は小さくした打ちした。
「おやおや、由緒正しいお家柄のお姫様が、そのような振る舞いをしては品性を問われてしまいますよ」
「……はぇ?」
今、なんと言ったか。極限まで目を見開いて頭上を凝視した色に構わず、ラミストは澱みない所作で彼女の膝元に跪いた。ご丁寧に、恭しく頭をたれている。
「お手をどうぞ、イル姫。僭越ながらこのわたくしめが、お部屋までお送りさせていただきます」
「え、え、え、え、え」
「さ、姫」
唖然呆然愕然だ。言葉も無い色にかまわず、ラミストはその所在無く垂れた右手を攫うように救い上げて誘導し始めた。壊れ物を扱うような、ひどく優しい仕草だった。今までも十分優しかったけれど、こんな事はされたことが無い。当たり前といえば、当たり前だけど。
色は目の前の現実に驚くばかりで、ただただラミストのエスコートに素直に従うだけ。ラミストの眼差しはほんの少しだけ可笑しさを伴って、色を見つめている。
「夜は冷えます。よろしければわたくしが添い寝して差し上げますが、いかがでしょうか、姫?」
「……そ?」
「添い寝、です。姫」
添い寝。妄想ばかりは瞬時に浮かび上がるから、困ったものだ。
真っ青通りこして蒼白だった顔色も、瞬時にして血の巡りがよくなった。いや、よくなりすぎた。
「いっ、いい! だ、め! なしっ終わりっ! えいぷりゃ、違うっ、エイプリルフールはお終い! おおおおお、おやすみなさいぃっ!」
混乱の極みに己が主の手を振り払って、脱兎の勢いですぐそこまで迫っていた自室に滑り込んで消えた。その後姿を見てラミストが忍び笑いをしていたことなど露とも知らず、色は閉じた扉の前で悶悶と自問自答を繰り返す羽目になってしまった。
もしも、もしもの、話で。
もしも、色が『うん』と言っていたら、ラミストはどうしたのだろう。
真相は次のエイプリルフールまで、お預けとなってしまったのだった。
.................fin.
1
こちらも本館の極彩色伝を(以下略)
大丈夫!読んでやるよ!という方は続きを読むをクリックプリーズです。
ふいに冴えるから困ったもんだ……腹減ったぜ。
理由は大したことでも無い。空は小気味のいい晴天で、身体を通り抜けるような軽やかな風があって、目に留めた先には小さな花が慎ましやかに、けれど賑やかに咲き誇っていた。
思いつきで言ってみただけ。ただそれだけ。
「嘘を……ついてもいい日?」
少し半信半疑な色を浮かべて、彼は微かに首を傾げた。よくよく考えてみればそんな風習、普通ないだろう。色でさえ由来はわからない。ただそういう日があった、それだけしか知らないし覚えてもいない。
「うん。あのねえ、エイプリルフールって言って、その日だけは嘘をついたりして人をからかってもいい日なんだって」
珍しく昼食を一緒にとるとラミストが言ったので、色も好奇心で話題に出してみた。机の下で、床に爪先が触れるか触れないかという高さから足をぶらぶら揺すりながら、ラミストの反応を見てみる。予想していたよりも反応は鈍く、むしろ色からしてみて異文化に身を置くラミストには、それこそ理解しがたい異文化のように感じているようだった。
嘘をついていい日。今までの色だったら調子に乗って色々な嘘をついたり、いろんな人をからかおうと画策してみたりしただろう。だけどラミストの曖昧な表情を見ると、そもそも『嘘をついていい日って、別につかなくてもいいんだよねえ』、などと思い始めてきた。というか、ラミストの表情が既にそう言っていた。
あんまり面白く無いみたい。色は考えた。
「ねえねえ、だからさあ、今日エイプリルフールにしてもいい?」
ダメもとで言ってみた。ダメと言われたところで痛くも痒くも無い。
それでも少しだけ期待をこめて俯きがちに顔色を伺うと、ラミストは特に難色を示す様子もなく、微かに微笑み返してくれた。しょうがないね、なんて言うように。
「まあ、誰かを困らせない嘘ならいいかな。ちゃんと断ってから言うようにね」
「うん!」
やったぁ。机の下でしっかりガッツポーズを作ると、色は飛び降りるように椅子から下りた。
「じゃあ嘘吐いてくるー!」
「……いってらっしゃい」
一目散に部屋から去っていった色の背中を、ラミストが苦笑して見送っていた。
***
今日は嘘をついてもいい日なんですよ。
今日は午後から、空からお菓子が降ってくるのでお洗濯物に注意しましょう。
それから明日から太陽が二つになることに決まったので、ちゃんと睡眠時間の確認は怠らないようにしましょう。
ご飯の時間は一日五回に増えて、おやつの時間も一日三回です。みんなもりもり残さず食べましょう。
こんななんとも言えない嘘らしい嘘を次から次へと色んな人につきまくって、色はその日一日擬似エイプリルフールを満喫した。色が嘘をつくと怪訝な顔をする人も多かったけれど、中には嘘を吐き返してくる人もいたし、色の嘘に付き合ってくれる人もいた。
アナトなんかは『わが国では嘘吐きは丸坊主の刑ですよ』と笑顔で軽やかなカウンターを返してきたので、色のほうがビビッて逃げてしまった。こういう時に限ってダルガは不在だったので、普段の意趣返しが出来なくて悔しかった。
そうして散々嘘をつきまくって満喫した頃にはもう夜も更け、擬似エイプリルフールも終了間際になっていた。それでもまだまだつきたい色。獲物はいないかなあと館内をうろうろしている間に、思わぬ人に出くわした。そこは食堂の奥にあるテラスで、人影が見えたので、くせ者ーと言って色は飛び出した。振り向いたのは、主様。
「あ、あわわ……ラミスト様」
「くせ、もの? とはなんだ?」
テラスの手すりに肘をかけて色を見下ろすラミストは、広間とは違いごくシンプルな軽装をしていた。もう寝る直前だったのかもしれない。
さすがの色もラミストをくせ者扱いは不味い、とわかった。
「な、なんでもないよ!」
「その様子だといい意味では無いな」
見透かしたように見下ろされたので、色はもう縮こまるしかない。昼間も微妙な反応だったし、さすがにラミストには嘘はつけないよなあ、と色も観念した。もう、寝る時間だ。おやすみを言って寝よう、と色が思いかけたそのとき、頭上から涼やかな笑い声が降りかかってきた。
「……なに?」
「いや。……聞いたぞ、イル。沢山嘘を吐いてまわったそうだな」
「……む」
なぜそれを。と一瞬思ったけれど、それも今更だ。散々あちこちで嘘をつきまくっていたのだから、ラミストの耳に入らぬわけも無い。それでもつーんと口を尖らせて、色はそ知らぬふりでそっぽを向いた。まだ一応エイプリルフール有効だもんね。
「嘘なんか吐いてないもーん」
「おや」
「今日も一日いい子にしてたもーん」
今日も。突っ込む相手がいなくて助かった色。ここにアナトでもいようものならまた更なるカウンターを食らっていたことだろう。ラミストはアナトの様にひねくれてもいないので、ただ可笑しそうに笑うだけだ。
「いい子だったのか」
「うん」
自信たっぷり。あながち嘘でもない。悪い子でもなかったし。
あくまで白を切ろうとする色を見下ろしたラミストはふいに、彼にしては珍しい、悪戯めいた笑みを浮かべた。
「『今日から主従逆転したので、そのつもりでいるように』」
「ぬっ」
なぜそれを。正確には、『今日から主従逆転したので、そのつもりでいるようにであろうぞよ』だ。偉そうな言葉が咄嗟に出てこなかったので、中途半端に文法がおかしかった。
聞いたものによっては毛も逆立つほど怒り狂うか恐れ戦くかしただろうが、そこは色、選んだ相手はアナトだった。まあ、カウンターを食らったのでむしろ惨敗だったけれど。
それよりもまさかラミストに知られるとは。アナトめ、抜け目無くちくったな。意地悪そうなあのひねた微笑を思い浮かべ、色は小さくした打ちした。
「おやおや、由緒正しいお家柄のお姫様が、そのような振る舞いをしては品性を問われてしまいますよ」
「……はぇ?」
今、なんと言ったか。極限まで目を見開いて頭上を凝視した色に構わず、ラミストは澱みない所作で彼女の膝元に跪いた。ご丁寧に、恭しく頭をたれている。
「お手をどうぞ、イル姫。僭越ながらこのわたくしめが、お部屋までお送りさせていただきます」
「え、え、え、え、え」
「さ、姫」
唖然呆然愕然だ。言葉も無い色にかまわず、ラミストはその所在無く垂れた右手を攫うように救い上げて誘導し始めた。壊れ物を扱うような、ひどく優しい仕草だった。今までも十分優しかったけれど、こんな事はされたことが無い。当たり前といえば、当たり前だけど。
色は目の前の現実に驚くばかりで、ただただラミストのエスコートに素直に従うだけ。ラミストの眼差しはほんの少しだけ可笑しさを伴って、色を見つめている。
「夜は冷えます。よろしければわたくしが添い寝して差し上げますが、いかがでしょうか、姫?」
「……そ?」
「添い寝、です。姫」
添い寝。妄想ばかりは瞬時に浮かび上がるから、困ったものだ。
真っ青通りこして蒼白だった顔色も、瞬時にして血の巡りがよくなった。いや、よくなりすぎた。
「いっ、いい! だ、め! なしっ終わりっ! えいぷりゃ、違うっ、エイプリルフールはお終い! おおおおお、おやすみなさいぃっ!」
混乱の極みに己が主の手を振り払って、脱兎の勢いですぐそこまで迫っていた自室に滑り込んで消えた。その後姿を見てラミストが忍び笑いをしていたことなど露とも知らず、色は閉じた扉の前で悶悶と自問自答を繰り返す羽目になってしまった。
もしも、もしもの、話で。
もしも、色が『うん』と言っていたら、ラミストはどうしたのだろう。
真相は次のエイプリルフールまで、お預けとなってしまったのだった。
.................fin.
1