あー日記こっちに戻してえー。これに慣れすぎて忍者使いづれえー。
あ、本編は続きを読むをくりっくしてどうぞ。まだまだ続きます。
「出てきていいよ」
さっきの冷えた声質とは違う、穏やかな声音。そんな声音一つで、佐久間の大切な誰かがそこにいるのかと、察する事ができた。その戸棚の陰から、そっと、怯えるように顔を覗かせたその姿は、まるで子猫のように。
「子猫ちゃん!」
思わず、そう叫んでいた。だって、なんて呼べばいいか、そんな事すら俺には解らなかったんだ。ただ、確かな事は、ずっと探していたあの子が、俺の目の前にいると言うこと。目に留めた瞬間、息が止まるような感覚を覚えた。
「……っぶ、」
途端に、佐久間が噴出した。今までの緊迫した空気も吹き飛ばして、自分ひとりで大いに大爆笑してくれている。訳がわからない。ここまで置いてけぼりの状況というものに、俺はあった事が無い。
「『子猫ちゃん』?! やっだー、遊佐、ハズカシー! 『子猫ちゃん』だってー! 耳がかゆーい! 鳥肌立つぅ!」
「うっ……うるせえよ! 何なんだお前は! これっ、そのっ……」
ああ、くそ。うまく言葉がまとまらない。何から聞いていいやら文句を言いたいやらどうすればいいやら、全部が全部頭の中で混線して振り分けようが無い。なんで、あの子がここに。しかも、佐久間なんかと。そう、佐久間と。
「おいっ」
急いで立ち上がって、今度は俺が佐久間の胸倉を掴む。まだ可笑しいのか、肩を震わせて涙目で俺を見上げている。むかつく。殴りたい。いやそれよりも、先に聞く事がある。
「なんで、あの子が……っ」
「あれ、『子猫ちゃん』じゃないの?」
「それはもういいからっ」
ああ、もう、本当にどうしたらいいか解らない。落ち着け落ち着けと言い聞かせてみても、どこか他人事にしか聞こえない。動揺が、地震みたいに、ぐらぐらと俺を揺らす。くそ、情けない。
「どうどうどう」
佐久間はにやにやしながら俺の手を掴んで引き離すと、背後のあの子に再度振り返った。おずおずとこっちを覗いているけれど、なんだかとても複雑な表情で、出てきてくれそうにない。それもそうだ。だって、きっと、俺だって同じを顔しているんだから。
「マナ、おいで。大丈夫だから」
佐久間が手招きすると、彼女は何度か助けを求めるように辺りに目を泳がせて、結局観念したようにそこから出てきた。居心地が悪そうな顔で、たった一人、佐久間に身を任せるように背後に隠れている。佐久間自身は嬉しそうだったけど、こっちとしてはなんとなくじれったいような、もどかしいような気分で、そこから引き剥がしたくなった。もちろん、そんな事をしたら彼女が怯えるのは解っている。これ以上逃げられない為にも、表面上の表情だけでも、努めて平常を保った。佐久間はよしよしと頭を撫でている。気安い奴。
「この子、俺の姪っ子。可愛いでしょ」
「……はあ?」
「なに、文句ある?」
「いやっ、可愛いけど! あっ……そうじゃなくて、」
咄嗟に否定の意味を込めて弁明したつもりが、これじゃあまるでオヤジの発言だ。口を覆ってみても遅い。佐久間はますます笑みを深めるし、彼女は佐久間の後ろで顔を紅くしている。ていうか、姪って。嘘だろ、それじゃあ。顔を上げると、俺の思考を読んだのか、口角を吊り上げたいやらしい笑みで佐久間が俺を見ていた。
「さっきのは報復。よくも俺の可愛い姪を泣かせたな」
「はっ? ……あ、いや、って、お前!」
知ってるならなんで、教えてくれなかったんだよ。一瞬その言葉が浮かびかけた、けど、なんだかそれを言うのは酷くお門違いの文句のように、思えた。佐久間が俺を殴ったことも、納得できる。というかボコボコにされてもいいんじゃないだろうか。いや、遠慮したいけど。喧嘩慣れしているのか、意外とかなり痛かった。って、今はそんな話じゃなくて。
「おい、佐久間……」
「ん? 話し相手は俺でいいの?」
したり顔で遮られる。くそ。なんだよ、もう、最初から最後までこいつの思うとおりか。ちらりと彼女を見ると、俯いて、佐久間の服の裾を握り締めていた。
――ああ。心細いんだ。今ここに居ることにさえ、相当の勇気を振り絞って立っているに違いない。それなのに、きっと、会いにきてくれた。俺に、会いにきてくれた。参ったな。場違いな感情だけど、嬉しい。また会えて、嬉しい。会いにきてくれて、嬉しい。思わず頬が緩みそうになった。その、前に、その視界を遮って、佐久間の憎たらしいその顔の手前でふらふらと手を振った。
「もしもーし。視姦しないでくれる?」
「してねえよ!馬鹿かお前は!死ね!」
ああ、もう、邪魔だコイツ。どっか行ってくれないかな。聞きたい事が山積みだったのに、なんだかそれもどうでもよくなってきた。今は彼女と話がしたい。ちゃんと、向き合いたい。二人きりで。

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