内藤正人2003『江戸名所図屏風−大江戸劇場の幕が開く−』小学館
以前読んだ
奥平俊六2001『洛中洛外図 舟木本−町のにぎわいが聞こえる−』(小学館)と同じシリーズの1冊(2008/07/23の記事参照)。こちらは寛永年間(1624-44)の江戸を描いているとされている。
「舟木本」に比べると,人物の描き方などが定形化している観があり,生彩というか,躍動感にやや欠けるきらいはあるものの,やはり細かい風俗描写は見ていて,じつに楽しい。
例によって,陶磁器絡み,食器絡み,お茶絡みでもいくつかおもしろいシーンを見いだしたのが,今回はそれは置いておいて…
ひとつ気づいたのが,髭を生やした男性が多く描かれていること。口髭はかなりの男性に見られるし,顎髭もけっして珍しくない。そこで思い出したのが,
ロナルド・トビ2008『「鎖国」という外交』(小学館)で触れられていた髭をめぐる議論である(2008/09/25の記事参照)。
同書によれば,慶長・元和期から幕府は髭や頭髪に対する規制を始め,各藩領内でも同様の規制が進められた。そして
「十七世紀中葉までには,ひげや総髪は成人男性には禁じられ,素顔と月代が義務づけられていった。「月代・髷・ひげなし」の三点セットが,日本の「国風」を表わす身体的特徴となったのである」という(pp.212-3)(その結果「ひげ」は「異国人」を示すコードへと転化すると論じている)。
今,トビ氏の議論に従うならば,この屏風に描かれた人物群は,近世日本人の「髭を失う前の姿」を描いていることになろうか。