安国駅(石北本線)
北見から乗ってきた旭川行の「特別快速きたみ号」は、たった1両のワンマン気動車であった。
運転士に切符を見せ、安国駅の未舗装のホームに降りると、辺りをしっとりと覆う霧雨。その霧雨の中、列車は隣りの遠軽駅に向かってすぐに出て行った。
7月だというのに少し肌寒い。いかにも梅雨ざむだなと考えかけたが、北海道に梅雨はないということを思い出す。6月、7月と暦を重ねるとともに北上してきた梅雨前線は津軽海峡を越えられずそのまま勢力を弱め、いつしか雲散霧消してしまう。が、その名残の霧雨を降らせる雲がこの安国駅周辺にかかっているらしい。
ホームは土を盛っただけなので、丈の低い雑草がそこここに生えていた。草たちは、これから精一杯はびこってやろうとたくらんでいるのか、おしなべて葉を広げ、体全体で湿気を取り込めるだけ取り込もうとしている。
線路の向こうは鬱蒼と茂った雑木林。中からは、時おりカラスたちの羽ばたく音とともに全国共通のしゃがれ声が響いてくる。繁殖の時期なのか少し気が立っているらしい。今は良いとしても彼らはヒグマたちのように冬眠しないから、零下何十度にもなる冬場、どのようにして過ごすのだろうかと思う。
跨線橋を渡り、ログハウス風の駅舎のそばに来ると、ホーム側の駅舎の壁に「木のおもちゃ王国」と書かれた展示スペースがあった。ガラスの内側に、木で作られた20個ほどの玩具が展示されている。さすがに駅にあるだけあって、車輪のついたものが多い。プラスチック製などではなく、このような自然のぬくもりを感じ取ることの出来る木製のおもちゃを保育園や幼稚園などで用いたら、子供たちの情操教育に大いに資することだろう。
そんなとりとめのないことを考えながらしばらくそれを眺めていると、遠くホームの先の方から、ゆっくりゆっくりこちらに近づいてくる人がいるのに気づいた。黄色いヘルメットに作業服姿。左腕には何故か大きな紙袋を抱えている。どうやらJRの人らしい。
不思議に思いながら見ると、彼はゴム手袋をはめた右手を紙袋に突っ込むや、掴み取ったその中身をホームにしきりに撒いていた。まるで野鳥のために餌を撒いているようだな、先ほどのカラスたちもさぞ気になることだろう、と考えたが、もちろんそんなわけはなく、除草剤でも撒いているのであろう。
近くに来たので訊いてみたところ、果たしてそうなのであって、雪解けの春先と夏の今の時期に毎年撒いているのだそうだ。今日のように風がなく霧雨が降っているような日は、撒いた薬剤が吹き飛ばされることもなく地面にしみ込んでいくので都合が良いのかもしれぬ。
この辺の小駅は舗装されていない土のホームが多いから大変ですね、とこちらがいうと、
「なんも、これくらいは冬場の苦労に比べたらあれなんだけど・・・」といいながら駅舎の土台のきわまで長さ5mmほどの顆粒状の薬剤を万遍なく撒いていく。冬場はポイント凍結など列車の運行に支障をきたす出来事が多々あるらしい。
やはりポイントが凍ったら、カンテラなどで暖めて融かすのでは?と訊くと
「いやあ、それではとても間に合わないから、雪かき、雪かき」と感じの良い笑みを浮かべながらいう。北海道は何かにつけスケールが違う。
近くの無人駅では、冬場だけ地元のパートナーが除雪などのため駅に泊まっているのだが、降雪時それでも追いつかないときは、夜中でも遠軽から応援に駆け付けるのだそうだ。
「『ちょっと行ってくれ』、と(簡単に)いわれるんだけど、右も左も見えない猛吹雪の中、命懸け」といって、ともすれば暗くなりがちな苦労話を彼はワッハッハと豪快に笑い飛ばした。

(安国駅舎)

(安国駅と同様、函館本線塩谷駅のホームに撒かれた除草剤)
(2010年7月10日)
北見912-(特別快速きたみ)-1006@安国1100=(北海道北見バス)=1203@相内1226-1241@西留辺蘂1310-1330@東相内1351=(北海道北見バス)=1413北見1419-(特急オホーツク3号)-1454@女満別1553-1601@呼人1637-1659@美幌1744-(特急オホーツク8号)-1807北見1830-1834@柏陽1847-1852北見