陸中中野駅(八戸線)
陸中中野駅のホームに立つと、線路の向こうの藪の下の方から、磯辺にぶつかる荒波の音が、ずしんずしんと響いてきた。
次の列車まで1時間以上間があるので、その間、ホーム上の待合室で昼寝でもするか、と思ってこの駅に降りたのだが、岩に打ち付ける波の白さに惹かれて、磯辺を散策することにした。
ホームの先に見える踏切を渡って暫く下っていくと、海に沿って磯の上に伸びる細い道に出た。ひょろひょろとした松が片側から覆いかぶさる薄暗い道。その上をあてもなくぶらぶらと先の方に歩いていくと、道端の草むらの中に白い変な動物が紐で繋がれているのが目に入った。
はて、犬にしては大きいし、牛にしては小さいし、と遠目で窺いながら近づくと、それはヤギであった。ヤギを見たのは生まれて初めてだったので、びっくりする。そばに近づいてよく見ると、随分長いあご髭が口元から垂れ下がっていた。
ヤギは、「めぇ」とこちらを見て一声鳴いた。どうも、腹が減っているらしい。親指ほどのしっぽを左右に小刻みにふって、しきりに愛想をふりまいている。
ふと、ヤギは紙を食べるということを子供の頃絵本か何かで読んだのを思い出し、かばんからルーズリーフを一枚ちぎって、恐る恐る口元に近づけてみた。
ヤギは暫く匂いをかいでいたが、口にしようとはしない。そうか、やはりあの話は嘘だったのか、と思いかける。
が、ふと、他の紙ではどうだろうと思い、ポケットを探るとコーヒーガムが一枚出てきた。銀紙とガムを取り除いて残った包装紙を目の前に近づけると、ヤギは歯並びの良い白い歯を見せながら、パクッと音を立てて喜んで食べた。

(陸中中野駅ホーム)

(陸中中野駅舎)

(磯の上の草むらに繋がれていたヤギ)

(付近の海岸)
(2006年9月17日)
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