谷田川駅(水郡線)
谷田川はホームの先に構内踏切のある長閑な無人駅であった。
ホームには鶏頭が三角形のフサフサの花をつけて並んでおり、待合室の後ろでは、つくつくほうしが、飽きもせず繰り返し鳴いていた。
かようにのんびりした気持ちのよい駅であったが、1時間もいるとさすがに堪能し、もう、この谷田川駅で降りることは2度とないだろうな、と朝方訪れた時には思っていた。
まる1日、水郡線上を行ったり来たりし、日が暮れて宿泊地の郡山に戻ろうとしたところで、どういうわけか急に黒い雲の塊が、むくむくと辺りの山なみを覆い始めたと思うや、バケツをひっくり返したような土砂降りとなった。
1両のワンマン列車に揺られながら、それでも、郡山まではなんとか戻れるだろう、とたかをくくっていた。
しかし、雷光が山際をぴかりぴかりとしきりに照らし出し、雨脚がさらに強まると、運転席の方から、ガー、ピーと無線の音が聞こえ始め、やがて駅のない山中の信号の手前で列車は停まってしまった。
運転士はマイクを通して
「この先、雨のため、運転中止となっております。運転再開の見通しは立っておりません」などという。
さて、困ったことになったなぁと思う。が、このまま無闇に突き進んで土砂崩れなどの憂き目に遭うよりは、停まってくれた方がまだましであるとも考える。
運転士はしきりに無線で指令と交信した後、しばらくして、自転車ほどのスピードで列車を動かし始めた。窓外は全くの闇で、雨の筋が流れるばかりである。
20分余りも遅れて、最寄りの駅の谷田川に着くと、列車は完全に進むのをやめてしまった。
運転士は指令と交信した後、席を立ち、乗客の行き先を尋ねて回った。車内にいる10人程の乗客のうち、大半は、郡山近郊が目的地であるが、中には、仙台に行くという人もいるらしい。運転士はそれらを手帳に書き留めた後、指令に報告した。
乗客たちは黙りこんだまま、自分の席に座っている。都会の電車のように、どうしたのか、などといきり立つ客はいない。
やがて、運転士は
「まもなく、東北本線の須賀川駅から当駅に代行タクシーが参ります。この代行タクシーにご乗車下さいますようお願いします」と放送した。
それを聞いた乗客の間に安堵の色が広がる。
代行バスは田沢湖線の新幹線工事のときに乗ったことがあるが、代行タクシーなるものに乗った経験がなかったので、興味を抱きながら窓外を眺めていると、暫くして闇の中からタクシーの灯りがいくつか近づいてきて駅前に連なった。
他の乗客とともに列になって、朝方通った構内踏切を再び渡り、駅前に出ると、小型タクシーが3台停まっていた。が、どうしたのか運転手同士がしきりにわいわい言い合っている。
やがて、客の後から運転士が来ると、運転士を交えて雨の降りしきる中、顔を突き合わせて暫く4人で話し合っていたが、いったん運転士が列車に戻り、再び駅前にやって来ると、ようやく話がついたらしく、タクシーが順に動き始めた。
暗い国道上を進むタクシーの車内で、先ほどは、何を話し合っていたのか、と運転手に尋ねると、やってきた3台のタクシーのうち、自分ともう1台の運転手には須賀川駅から谷田川駅まで回送して来る分の料金(約2,200円)もJRに請求できる、と須賀川駅の駅員からいわれたのに、残る1台の運転手にはその旨を告げられなかったので、その運転手がメーターを倒してこなかったと騒いでいたのだ、という。
結局、その運転手もJRから他のタクシーと同額の料金をもらえることがわかったので、皆仲良く出発したらしい。
それを聞いて、日頃と異なることがいったん起きると、それに伴ってトラブルが連鎖的に生じるものなのだな、と思った。

(列車交換が可能な谷田川駅ホーム)

(谷田川駅舎)

(谷田川駅前)

(運転中止した列車から眺めた夜の谷田川駅)
(2006年8月22日)
郡山711-729@谷田川830-834@磐城守山929-949@泉郷1018-1025@川東1207-1212@小塩江1221-1305@磐城棚倉1328-1340@里白石1440-1515@南石井1530・・(徒歩)・・1545@磐城石井1600-1608@磐城塙1708-1726@磐城浅川1758-1809@中豊1833-1932(23分遅れ1955着・雷雨のため運転中止)谷田川2030(頃)=(代行タクシー)=2050(頃)郡山