氷帝夢小説4話目。
今回のお相手は跡部が主な感じ・・・落とし前編ですから(笑)
宜しければ続きからどうぞ。
・・・・落とし前、とはこういう事でいいのだろうか?
shady,shady,sunshine.[4]
日曜日。
ちとせは跡部に指定された場所に赴いた。
忍足君たちが何故かひどく気にかけていたが、やはり私は何らかの形で跡部君に償わなければならないと思った。
そこに、やって来たのは、一台の黒いリムジン。
後部座席のドアが開いて、跡部君が乗れ、と促し、ちとせは言われるがまま乗り込んだ。
私は、これから
殴られるのだろうか
なじられるのだろうか
それとももっと酷い目に合わされるのだろうか。
それでもいい。
それでいい。
そんな事を考えていると、跡部が口を開いた。
「・・・ところでお前なんで制服なんだよ?」
「え・・・。」
黒いジャケットを着込んで身なりの良い格好をした跡部に対し、ちとせの服装はいつもの学校の制服。
特に何を着て行こうとは考えてはいなかった、というよりも跡部の前ではいつも制服かジャージなのでこれが当たり前だと思っていた。
「・・・まぁ、いいか。その方が都合がいいかも知れねぇしな。それから・・・最初に言っておくが・・・今日一日は、お前は俺様の言う事は何でも聞く・・・それで、いいな。」
ちとせは、こくりと頷き、
跡部は、にやりと笑んだ。
+++++++++++++++
どこへ、連れて行かれるのかと思ったら。
「こちらのマーメイドドレスなど如何でしょう?お嬢様は細身でいらっしゃるから、よくお似合いになられると思いますが・・・。」
「ふん・・・?・・・何かえらいフリルが派手すぎねぇか?色も形もイマイチ品がねぇな。」
「・・・そうですか・・・それでは・・・。」
跡部に連れてこられたのは、跡部の行きつけだという高級ブティック。
なるほど、如何にも高そうな服が並んでいる。
ちとせは何故こんな所に連れてこられたのか疑問なのと、何よりも何ともいえない居心地の悪さに所在無さ気に、跡部と店員とのやり取りを隅の方でただ眺めていた。
・・・女性物のドレスを選んでいるようだが・・・誰かへの贈り物であろうか?
「こちらは、如何でしょう?淡いパステルカラーの膝丈のドレス。裾はAラインを強調しておりますし、色も形もお若い方向けで可愛らしいと思われますが・・・。」
「・・・・。そうか・・・おい、ちとせ。」
「・・・え?・・・。」
「え、じゃねぇ。お前以外にちとせがいるかよ。アーン?いいからちょっとこっち来い。」
「あ・・・うん・・・。」
一瞬、自分が呼ばれているのだと気付かなかった。
自分を、名前で呼ぶのはごくごく少数の限られた人物だけだから。
「これ、どう思うよ。」
差し出されたのは、一着のドレス。
・・・こういうのには詳しくないが、可愛いと思う。
「・・・可愛いくて・・・いい、んじゃないかなぁ・・・?」
「そうか。よし。じゃあお前ちょっとこれ試着してみろ。」
「は・・・!?」
「何だ?やっぱ気に入らねぇのかよ?」
「いや、そうじゃなくって・・・・え、何で、私?」
「何で、って・・・お前が着るからに決まってんだろうが。」
「・・・え・・・と・・・あ〜・・・。」
ああ、そうか。
さすがに制服姿じゃまずかったのかな。
「・・・ぐずぐずすんな、さっさと着て来い。おい。」
「はい。さぁ、お嬢様。あちらのフィッテングルームへどうぞ。あちらにはプロの女性スタッフがおりますのでご安心を。」
「あの・・・跡部く・・・あ、え?あの・・・。」
有無を言わさずまさに流れ作業のようにドレスを着せられていく。
「あら。丈は丁度宜しいですけれど・・・お嬢様は細くていらっしゃるから、ウエストの所は少し詰めた方が宜しいですね。あと、何かお気に召さない事がありましたら何なりとお申し付け下さいませ。」
「はぁ・・・あの、いえ、そんな・・・というかお嬢様って・・・。」
「お客様・・・特に貴女は景吾坊ちゃまのお連れのお方ですし、こちらもプロです。大切なお客様に粗相があっては申し訳ありませんから。」
「・・・はぁ・・・。」
一体、何者なんだろう跡部君は・・・。
それにしても・・・こんな風に、扱われるのは、苦手。
この人たちも、跡部君も、自分の為、という部分があるから、まだ、いいけれど。
何にも見返りもなしに、純粋に、大事にされたり優しくされたりするのは、苦手。
自分は、そんな風にされていい人間じゃないから。
「・・・出来たか。」
「はい。どうでしょう。シルエットも素敵ですし、よくお似合いだと思いますけれど・・・。」
「・・・・。」
跡部君が、こちらを見詰める。
何だか、ますます居心地が悪い。
「・・・何かな・・・悪くはねぇんだが、イメージじゃあねぇな・・・コイツにはちょっと軽い感じがする・・・。」
「左様ですか・・・では逆に落ち着いたものを選んでみましょう。」
「ああ。」
そんな感じでまるで着せ替え人形のように、次々とドレスを着せ替えられていく。
・・・しかしどれも高そうで緊張する・・・。
というか、どれも丈がぴったりなのは何故だろか。
恐るべし、インサイト・・・・。
そうして最終候補に残ったのは、黒と白のモノトーンカラーの大人しい形だが、上品そうなドレス。
しかし跡部君は「何かもう少ししっくりこない。」と言ってかなり悩んでいた。
「・・・・あの・・・そんな真剣に悩まなくっても・・・。そりゃあ制服で来た私が悪いけど・・・別に適当でも・・・。」
「何言ってやがんだ?アーン。別にお前が何着てこようが俺はこうするつもりだったぜ?お前は今日は俺様の言う事は何でも聞くんだろう?ならぐだぐだ言うんじゃねぇよ。」
「・・・・はぁ・・・でも・・・。」
それって、落とし前と何の関係が有るのだろう?
「景吾様。それでしたら試しにこちらなど如何でしょう。・・・少し型は古いのですが、裾も控えめなAラインでお色も落ち着いておりますし、お嬢様の白い肌によく映えると思われますが・・・。」
「・・・ああ・・・いいな、それ。おい、ちとせ、これ、着てみろ。」
と、手渡されたのは少しレトロな感じのする、濃いのとは違う・・・どこか深い藍色のドレス。淡い色のフリルも派手にではないが細かく首元など要所要所に丁寧に施されている。
着てみると体にぴったりと馴染む感じがした。
「どう・・・かな・・・・。」
「・・・ああ、いいな。」
「ええ。本当に良くお似合いで・・・この型のこのお色のドレスを着こなすのは難しいので最後にお出ししたのですが・・・。」
「ああ・・・これにする。このまま着ていくから、包まなくていい。」
「かしこまりました。」
そうして、ドレスを着たままブティックを後にしたが、一体このドレス、いくらするのだろう・・・。
何だか申し訳ない・・・というか・・・。
「あの・・・跡部君・・・。このドレス・・・。」
「あ?ああ、よく似合ってるじゃねーの?アーン?」
「いや、跡部君・・・そうじゃなくって・・・。」
「名前。」
「・・・・?」
「苗字じゃなくて、名前で呼べ。俺様命令だ。」
「・・・え・・と・・・。」
「何だ?照れてやがんのか?アーン?」
「・・・・・・・・・・・・・・・跡部君の名前・・・って何ていったっけ・・・。」
空気が、凍った。
「・・・・・あと・・・・。」
「・・・っ・・・景吾、だ!!け・い・ご!!お前本っ気で俺様に喧嘩売ってんだろ!!ア゛ーン!?」
「・・・・;;;・・・ごめんなさい、今まで呼んだこと無かったから・・・えっと・・・景吾、君。」
「・・・ふん。・・・にしても・・・。」
跡部君が、すっ、とこちらに目を向け、髪に触れる。
思わずびくっ、と体が震えた。
「・・・似合ってる、な。・・・白い肌にもそうだが・・・。」
そうして少し髪を横に流し、
「何よりこの深い瞳の色に良く映える。」
「っつ・・・!!」
ちとせは、頭を振って跡部の手を振り払った。
跡部は黙ってちとせから手と目線を元に戻した。
+++++++++++++++
次に、連れてこられたのは・・・。
「セミロングですから、コサージュだけではなくて、少し整えてからアレンジも致しましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。」
何で・・・ヘアサロンにいるのだろう・・・。
ちとせは大きな鏡の前の椅子に座らされ、髪を整えられていた。
・・・・・・さっきもそうだけど・・・こういう場所・・・・・・・苦手だ・・・・。
自分の姿を見るのは、あまり好きじゃない。
・・・・・・・・・見られるのも。
「ああ、お客様。下を向かないで下さいませ。危ないですから。」
「・・・すいません・・・。」
「前髪は、どうされますか?長めなので・・・切った方が宜しいですか・・・?」
「あ・・・・・。」
「いや。切らないでいい。そのままアレンジしてくれ。」
「かしこまりました。それでは、コサージュですが・・・・。」
話と作業が進んでいく中、どこかほっとしている自分が居た。
「こんな感じで、如何でしょう?」
「ああ・・・悪くないな。」
ちとせの髪は後れ毛を残してゆるめに、だが丁寧に纏められており、髪にはドレスの色に合わせたシンプルだがシックで上品な飾りのものが宛がわれ、長い前髪は、横に分けて流され、ちとせの顔と、深い緑の瞳が露になり鏡の中からちとせを見ていた。
ちとせは、それから目を逸らした。
ヘアサロンを後にした車内。
本当は、聞きたいことが、山ほどあった。
これらがどう落とし前と関係あるのか、
あるとしたら何故なのか。
他にも。
だが、ちとせも跡部も口を開く気配は無かった。
暫く、静寂があった。
「・・・疲れたか。」
跡部がちとせに尋ねると、ちとせはややあって曖昧に首を振った。
本当は、とても疲れた。
慣れない事をしたせいもあるが、
本当は、何もかも・・・触られるのも見るのも見られるのも苦手だから。
だけど何が何だか分からない事だらけだけれど、
これが跡部君に対しての償いになるのなら、決してそうは言ってはいけない気がした。
「・・・安心しろ。次で、最後だ。」
跡部君がぽつりとそう呟いた。
++++++++++
最後、と言われて連れてこられたのは、高級ホテル。
そこのラウンジで食事をした後、上に連れて行かれた。
・・・・・・・スィートルームに。
さすがに豪華で、設備も整っている。
何より圧倒されたのは、街を一望出来るのではないかというほどの一面ガラス張りの窓。
・・・実際に街を一望できたのだが。
窓から景色を眺めていると、跡部君が後ろからやってきた。
「凄ぇだろ?この部屋からの景色は絶景なんだぜ?」
「うん・・・。・・・あのさ・・・跡部く・・・。」
「景吾。」
「・・・景吾君。・・・あの、落とし前、って・・・。」
さすがのちとせでも、この状況が分からないわけではない。
それなら、これまでの行動にも納得がいく。
「・・・ちとせ。こっち向け。」
「・・・うん・・・。」
でも、それでもいい、と思った。
大事にされたり優しくされたり。
そんなのよりも。
本当は、跡部君を怪我させてしまった事に対する償い、ではなくて。
私が、そうしなければ罪悪感に潰されてしまいそうだった、から。
ただの、私の自己満足。
本当の償いは、それに付き合ってくれた跡部君に対するもの。
「・・・・・・綺麗だな・・・・・。」
「・・・本当だね・・・街の明かりがこんなに綺麗なんて・・・・。」
「いや、お前が。」
「え・・・。」
跡部は両手でちとせの頬を包み、自分の方に向かせる。
ちとせの緑の瞳が、背後の街の明かりを受けて光る。
深い、深い水の底の様な。
ちとせにもまた、跡部の瞳が見えた。
アイスブルーの瞳が光を受ける。
純粋な、氷のようで、でも彼の瞳はどこかあたたかい。
「・・・・・他の奴に見せるのは勿体ねぇ・・・。前髪、切らなくて正解、だな。」
・・・本当に、
「・・・家まで、送る・・・今日はお前と、ここで、この景色を、見たかっただけ、だからな・・・。」
「え・・・でも・・・それじゃあ・・・・。」
「俺が、俺のしたいようにしたんだ。それの何が不服だ?お前は、殴られなけりゃ気が済まねぇのか?アーン?・・・俺は、お前にそんなことはしたくねぇし、そんな事しろと指図される覚えはねぇ。第一よ・・・。」
跡部は自らの腕時計をちとせの眼の前に突きつけ、
「もう、0時過ぎてんだよ。・・・お前は、もう自由だ。これ以上グダグダ今回の件引き摺る様なら今度こそマジで切れるぞ。分かったか?アーン?」
「・・・分かった・・・。」
本当に、綺麗なのは彼だと思った。
強くて優しい、綺麗な人。
+++++++++++++++
「・・・ここで、いい。」
ちとせは、赤信号で止まった車内でそう言った。
「アーン?何だ?家まで送るって言っただろ。」
「ううん・・・ここで・・・。」
「ダメだ。危ねぇだろ。こんな時間に・・・。」
「大丈夫・・・家、この近くだから・・・それに跡部君・・・。」
ちとせは、髪のコサージュを取って、髪を解き、前髪もいつものように戻すと、
「もう、0時は過ぎた・・・んでしょ?」
コサージュを跡部に手渡しながら、車内から降りた。
「・・・ありがとう・・・跡部君。」
「・・・・もう、景吾、でいいぜ?ちとせ。・・・・気をつけて帰れよ。」
「・・・・・・・・うん・・・・・ありがとう、景吾、君。・・・・おやすみ。」
そう言うと、ちとせは闇の中に消えて行き、同時に信号が青に変わり車が動き出した。
1人車内に残された跡部は、
「・・・・まるでシンデレラ・・・だな。」
ちとせに手渡されたコサージュを手に1人呟いた。
****************
*はい。落とし前編・・・と言いつつ何このメルヘンな展開?一応プロット組んだんですけど・・・大筋はその通り書けたんです。プリティーウーマンごっこな感じで(死)ただキャラがちょっとだけ意外なほうに・・・そしてこんな感じに(汗)
*とりあえず二人に名前呼びさせたかったんです。それでまた話が続くかなぁ〜・・・と思って(死)
*続き・・・というかこの後の展開とかうっすら考えてますが、如何せん書けるかどうか・・・;;最初にも言いましたが書けるときがあったら書いていきたいと思います。
なるべく逆ハー路線で・・・!!(爆)
*それではここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
宜しければご意見、ご感想等お待ちしております☆