外出から戻ると,デスクの上に”作品”が置いてあった.
先生のしわざだ.どうやら事務所に飾ってもらいたいということらしい.
休日に仕事をしているとすかさずうちの子が入ってくる.そして普段はスタッフが座っている席に陣取って”仕事”をはじめる.本人は僕の仕事を手伝っている気らしく,コピーの裏紙をあげると一心不乱に色鉛筆でスケッチを始める.その筆致には迷いがない.大胆かつ抽象的なその構図はすでに巨匠の風格すら漂わせている.
興に乗ってくると,そのうち「みずいろっ」とか「むらさきっ」という具合に欲しい色を容赦なく要求してくる.色遣いは鮮やかだが,人使いは荒い.その度に僕は仕事を中断して自分のところから適当な色を出してあげるのだけれど,これが面倒下さい.全然手伝ってない.というか早く出ていって欲しいんですけど.
描き終えると「ウン」とうなずき,それを事務所の壁に展示することを要求する.しかも貼る位置にもこだわりがあるようで,いちいち「もうちょっと上.ちがう.そうそこ」とか指示を飛ばす.この時点で既に立場は逆転している.不遜である.出ていった頃を見計らってすべてはがしたら,後で見つかって大目玉を食らってしまった.
そんな事務所ごっこにも飽きたのか,しばらく忘れかけていた頃にその”巨匠スケッチ”は置かれていた.先生には逆らうことはできない.仕方なく,あまり来客の目に触れないところに常設展示をすることにした.先生はたまに抜き打ちでやって来ては,展示品を眺めて満足そうに出て行く.
ちなみに作品タイトルは「たべると透明人間になるスパゲティ」だそうだ.


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