【戦天使紅蝶戦姫 山本和子】
細胞の一部、と云えば【下界人】(アンダーダチュラ)には理解しやすいだろうか。正確には、私を構成する曼荼羅の深層に浮遊する10京の【天華綿毛状天使】(カールヘアー)の一部を【分離】(パージ)し、下界用に最適化した結果、紅い蝶へと具現化した。
「さあお行き、愛すべき私の一部よ…私の為の求道者…」
指先に止まる蝶に囁くと、虹色の燐粉(…という表現をしているが、正確にはカールヘアーが浮遊するために消費された天使力の残骸である事を明記しておく)を散らしながら、群れるアンダーダチュラの頭上を飛ぶ。
偽りの笑みを浮かべ、同じような毎日の中、小さな幸せとやらを餓鬼の如く手を伸ばし、時にその幸せさえ掴まず、労働と云う名の無間地獄を優先するアンダーダチュラに対して、私は慈悲の笑みを浮かべると共に愚かだと嘲笑ってしまうのだ。
私達が創り、守護してきたアンダーダチュラだが、彼らの選択した歴史について口出しするつもりはない。
精神感応波(エンジェルトーキング)の糸を経由し、放った蝶から報告があった。
【対象発見、接触完了】
頭蓋に響く紅蝶の【天使発声】(エンジェルヴォイス)。私は、精神感応波の糸を手繰りながら、対象…【悪鬼極式 ブラックベリーオンザショートケーキ】の元へと、アンダーダチュラの群れに飛び込んだ。
ブラックベリーオンザショートケーキ(以下、ブラックベリーと称す)…永遠のライバルであり、倒すべき【敵】…私、【戦天使紅蝶戦姫 ストロベリーオンザショートケーキ】の脅威を恐れたルシュフェルとマーラーがまぐわい、娼婦の汚れた子宮を触媒とし産み落とされた【戦闘特化型悪魔】だ。
【第弐次魔天聖戦】で私とブラックベリーは死闘を繰り広げた。後に、【最終軍神衝突】(ラストワールドインパクト)と語り継がれる事となるあの決闘は思い出すだけで潰れた右目がじんと痛むのだ。
ブラックベリーが放った渾身の【魔刃衝撃】(デモンズスマイルソニック)を【闇を吸う絶対的白】(パーフェクトホワイトセンス)を宿す右眼球を犠牲に、奴の核、つまり【黒玉の真髄】(ダークデッドオアアライブ)に【天使翼十字剣】(フェザーブレイザー)を突き立てたあの感触。忘れることはできない。
本能で私が天の者だと理解しているのだろう。あんなに、隙間もなく歩いていたアンダーダチュラ達はすっと身を引き、私の前に道を作る。
馬鹿な…我が子の如きお前らを誰が傷つけると云うのか…
虹色の燐粉がちらつく。
近い…
もうすぐ…
ブラックベリーの背中が…
見えた…!
「戦闘モード準備、解放用意」
ただ、全てを【解放】(リミッターオフ)するわけにはいかない。一帯が蒸発してしまうからだ。奴の一太刀を受ける程度でいい、そうだ、0.00000000001%で構わない。まあ、悪鬼のくせに騎士道精神を重んじるブラックベリーがそんな外道な所業をするわけがないが…戦士はあらゆる状況を考慮せねばならないのだ。
「見つけたぞ、ブラックベリーオンザショートケーキ…」
私はそう云うと同時に奴の腕を刹那の所作で掴んだ。
ブラックベリーは、ゆっくりと振り返り私を見た。
「山本和子…さん」
ブラックベリーは悪戯の微笑を浮かべ、世を偲ぶ仮の名(ダチュラネーム)で、私を呼んだのであった… つづく

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