ハヤカワFTの短編集。『サマー/タイム/トラベラー』でやたらと褒められてたんで読んでみようかと。借り物だけど。
短編が10本入ってて、大半がタイムリープものです。しかも未来に進むものがなく、全部過去に戻る話なんですよね。フィニィといえば懐古趣味らしいです。特に「もう一人の大統領候補」「愛の手紙」が面白かったです。この二つは読んで損しませんね。立ち読みでいいから読んでみるべきです。
以下、ネタバレ。
・「もう一人の大統領候補」
天才詐欺師の幼き日のエピソードで、サーカスから逃げだした虎を催眠術で眠らせ捕獲に成功し、一躍有名人になるが、実は睡眠薬で眠らせただけだったという話。子供の頃から詐欺の才能があった、みたいな。
物語は詐欺師の友人が子供の頃を振り返るという形で語られていて、タイムトラベルではないけれど、回想というのも過去を主題にしたかなり懐古的なものです。他の過去へのタイムリープものより、こういった単純な回想の方がセンチメンタルな雰囲気は出てました。
詐欺師なんだけど、友人によって好意的に描かれてるのもいいです。詐欺師には詐欺師なりの美意識や影の努力があるようです。ラストは友人が彼は大統領にだってなりかねないとまで言い、そしたら自分は副大統領だ、なんてちょっと誇大妄想気味なことを抜かして終了です。
まぁ単純に子供VS虎の緊張感と実は睡眠薬だったんだよの驚きで評価できるんですけどね。これは名短編だと思います。
・「愛の手紙」
主人公の男が古道具屋で机を買ったところ、隠し引出しがついており、中に80年も前に書かれた女性からの手紙が入っていた。それはその女性が架空の恋人に向けて書いたもののようで、男は遊び心から返事を書き、古くからある郵便局のポストに投函した。一週間後、ふとしたことから2つ目の隠し引出しに気付き、中をのぞいてみると、なんと例の女性から返信が届いていた。男は隠し引出しがもう一つあることに気付き、女性から返事を受け取れる機会はあと1度だと考える。男は自分の正体を明かし、愛していると伝え、最後にもう1度連絡が欲しいと手紙に書き、投函する。果たして1週間後、3つ目の隠し引出しを見てみると彼女からの返信があった。そこには彼女の写真と「永遠の思い出のために」というメッセージだけが添えられていた。数年後、男は最後の連絡手段が残されていたことに気付き、彼女の住んでいた町の近くの墓地を訪ねる。そこには彼女の「永遠の思い出のために」と書かれた彼女の墓があった。
長々と書いちゃったけど、古机を使って過去と現在で手紙のやり取りをするという変則タイムリープもの。なかなか切なくていい話です。架空の恋人に手紙を出す→関係ない奴が返事を書くって昔の少女漫画みたいです。心なしか70年代の香りが。
男が手紙を出す時に、昔のインク・切手・郵便局などを使うと過去に届くみたいな理屈をこねて、実際にその通りになるんだけど、他の短編でも似たようなことが起こります。「クルーエット夫妻の家」では金満夫婦が古造りの家に住んだところ、人格まで家に合わせた古風なものになってしまうし、「コイン・コレクション」では昔の硬貨を使うとスタンドで昔の新聞が買えて、そのまま平行世界へ移動してしまいます。過去にワープする際に昔の物を媒介することでなんとなく納得させられます。これってなんでなんでしょう。物語におけるキーアイテムの役割って誰か解説してませんかね。人間は道具を使う生き物だ、とか?もしくは玩具屋の陰謀?ちと保留にします。