「ジョージ・R・R・マーティン『タフの方舟』1,2巻」
SF
・作者
G・R・R・マーティンは1948年、アメリカ合衆国ニュージャージー州ベイヨーン生まれのSF、ファンタジー作家。ノースウェスタン大学卒業。71年に「ヒーロー」でデビュー。「ライアへの賛歌」(74年)「サンドキングズ」(79年)でヒューゴー賞を受賞。現在、大河ファンタジー『氷と炎の歌』シリーズが好評。
・あらすじ
『SFが読みたい2006』の海外部門第2位。問答無用の面白さを持つ一方、読後には何も残らないという由緒正しきエンターテイメントSF。テーマ性の薄さでディアスポラに敗れたと思われるが、大抵の人はこっちの方が面白いでしょう。約20年も前の作品で、訳者の酒井昭伸氏の持込みによりSFマガジンで連載されたモノが人気が博し、出版の運びなったとか。連作長編で上下巻合わせて7話の短編からなり、発表と時間軸は本来バラバラだったが、単行本化に当たり、時間軸に沿う形で再構成された。
舞台は「一千世界(サウザント・ワールズ)」というマーティン作品に共通の未来世界。地球連邦が崩壊し多くの技術が失われた世界で、一千以上の惑星が混沌とした文明を築きあげている。物語は宇宙一あこぎな商人タフが地球連邦の遺産「胚珠船」を操り、様々な惑星の環境問題を解決していく、というのが基本パターン。本作の魅力は主人公タフのキャラクターと胚珠船の奇抜な設定にあり、二つが組み合わさり、秀逸なドラマを形作っている。
・ハヴィランド・タフ
本編の主人公。身長2メートル半で見事な太鼓腹、全身無毛で純白という蛸入道のような異形の人物。1巻の表紙を見て、まさかコイツが主人公だと思った人はいないでしょう。どう見ても変態趣味を持ったマフィアのラスボスです。黒猫を膝に乗せてるところがますます悪役っぽい。コイツが猫好きなんですね。タフによると猫を飼っているかどうかが、文明化されているかどうかの尺度となるらしいです。コイツが慇懃無礼で冷酷かと思いきや、菜食主義で猫とゲームを偏愛し、根は善良なところがあります。でも、やっぱりがめつくて、実に複雑な性格をしています。
このタフに様々な人物が依頼に来るわけですが、そのやりとりが面白い。自分の惑星の窮状を訴えつつも隙あらば胚珠船を乗っ取ろうとする依頼人達と、大げさに自己憐憫に浸って値を吊り上げようとするタフとの駆け引きは毎回見ものです。初期2作と後期の作品では多少タフの性格に異同があり、初期ではややタフが悪辣でピカレスク風の物語になっています。後期のタフの方がとぼけた感じで親しみやすいかもしれません。
・胚珠船
1話でタフが入手する地球連邦の超兵器。全長30キロメートル、船内に千以上の惑星から集められた無数の生物の胚が保存されており、それらをすぐさま培養し、狙った惑星に放つことが出来る。凶暴な巨大生物から細菌兵器、強い繁殖力を持った万能作物まで搭載されており、持ち主次第で惑星を滅ぼすことも繁栄に導くことも出来る。登場する生物(というか化け物)たちがどれも非常に魅力的で、SFはメカ系とバイオ系に別れると大学の某先輩が言っていたが、間違いなくバイオ系SFの傑作である。
この船を操るタフの元へ各惑星から来る依頼は、人口問題、謎の魔獣退治、闘技場で戦わせる生物の派遣、似非預言者退治と様々である。タフはそれらを胚珠の能力と自らの頭脳(と口先)を駆使して、(有料で)解決していく。その手腕は全くもって鮮やかで、笑うセールスマンか、Y氏の隣人ザビエールの如くである。
・蛇足
個人的に気に入ったのは1、3、5話。強くてデカくて変な能力を持った魔獣たちが大暴れななんとも派手な話。ぜひとも映画化して欲しい。
また各短編で登場するタフの飼っている猫は同じ家族のそれぞれ違う猫なので、血縁関係に注意して読めば自分で時系列を判断することが出来る。そんな読み方もオススメ。以上、小ネタでした。