1929年発表。日本プロレタリア文学の古典。カムチャッカまで蟹を採りに出かける船に乗った労働者達が団結し、資本家に戦いを挑む話。蟹工船とは今でいうとマグロ漁船みたいなものでしょうか。もちろん当時の労働環境は今とは比べ物にならないくらいひどいのですが。
・あらすじ
資本家が一儲けしようと漁船を借り、高給をチラつかせて労働者を集めます。彼らの多くは専門の漁師ではなく、出稼ぎに来た貧農やまだ中学生くらいの子供、東京で斡旋業者に騙されて連れてこられた学生などです。船は中古のボロ船で当然、機械化もされておらず、ほとんどの労働を人力で行ないます。極寒のカムチャッカで嵐の中、危険な船外作業を長時間やらされるせいで労働者はどんどん消耗していきます。船は不衛生で食事も与えられません。何人かは波にさらわれたり、機材の下敷きになったり、あるいは反抗の見せしめされたりして、命を落とします。
その内、彼らは漂着した先のロシア人・中国人や東京から来た学生などに共産主義についての知識を得て、サボタージュを行ないますが、すぐの資本家側から弾圧を受けます。彼らは分断政策を取ったり、国家的偉業であるなどと宣伝したりして、うまく支配を続けます。
労働者側にも国家への忠誠心や、刷り込まれた共産主義への恐怖もあって運動は思うように進みません。ですが、改善されない苛酷な労働への不満が高まり、サボタージュの有効性が実証されるにつれ、労働運動は高まっていきます。
とうとう資本家側に要求を突きつけるべく、船のほとんどの乗員がストライキを起こします。多勢に無勢で資本家側は降参し、要求を受け入れます。しかし、国境付近での漁のため船を護衛していた軍艦が資本家側の応援に駆けつけ、ストはあっさりと鎮圧され、首謀者たちは連行されます。労働者達は軍も国も資本家の犬であることを知るのです。彼は再び立ち上がり、今度は勝利します。そして船を降りたあとも、次の職場で労働者達に団結し、資本家と戦うことを伝えていきます。
・感想
小さい船の中に国家・資本家・労働者・共産圏といったこの時代の縮図が詰め込まれており、非常によく出来た構成だと思います。愛国心だとか大東和共栄圏とか言っても結局財閥の利潤のためで、西洋と同じ帝国主義をやっていたんだということをこの時代、どのくらいの人が気付いていたんでしょうか。「世の中金だ」ぐらいの単純なことはけっこう皆気づいていた気がします。
しかし、単純なプロレタリア小説は面白いとは思うんですが、強く感動したりはしませんね。ラストも理想主義すぎるし、どうしてもプロパガンダ臭いです。それよりも冒頭で、出稼ぎの労働者達が蟹工船から帰ってきて、辛い思いをして得た賃金をあっという間に豪遊して使い果たしてしまったりする場面に居酒屋的などうしようもなさ、愚かさを感じました。この辺の楽観主義と破滅願望と怠け癖が混じった心理というのは割りと面白いです。
あと、この小説の特徴は主人公が不在であることです。いちおう主要な人物は何人かいるのですが、影が薄いです。特定の人物ではなく、集団を主人公とするというのはまぁ共産主義的な発想といえるかもしれません。でも、これがうまく働いているかといえば、よく分かりません。ドキュメント・タッチな感じがして、理解はしやすいですが、感情移入はしにくいです。社会派な作品には向いてるかもしれません。でも現代のキャラクター重視の小説とは真逆に行くものなので、理論としては面白いです。