・作者
1962年、東京都生まれ。埼玉県在住。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。現在はフリーランスの立場で小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。日本SF作家クラブおよび宇宙作家クラブ会員。(作者ホームページより)
SFファンには「クリスタルサイレンスの人」で通じるだろう。経歴から推測される通りハードな科学設定を扱い、社会的な視野も持ち合わせている。ノンフィクションも著しており、最近映画化された『日本沈没』に合わせて、早川書房から『日本列島は沈没するか?』が出版された。
・あらすじ
沈没する沖縄を超能力者と科学者が協力して救う話。災害で海洋で超能力で民俗学で近未来で社会派で少し宇宙も入ったSF巨編。原稿用紙2000枚以上の力作である。
ある刺激に対し本来の器官以外でも反応が起こる「共感覚」(音を味わったり、見たり出来る)を持った青年、伊波岳志は与那国島の巫女である後間柚と出会い、沖縄の沈没を止めようとする。
また政府が設立した沖縄沈没対策委員会「先島周辺海域調査推進会議」、通称「先調」が領海の既得権確保のみを目的とし、島民の救出を無視していることに反発した一部の科学者達は「オペレーション・ヒヌカン」を発動させ、独自に沖縄と島民を救おうとする。
様々人物が出会ったりすれ違ったりしながら、この二つの動きと絡み合い、東シナ海に勢力を伸ばそうとする中国なんかと対立しながらなんとか沖縄を沈没から守ることが出来ます。大筋は割りとベタですが、細かい書き込みが面白いです。
・沖縄沈没
明らかに『日本沈没』を意識してて、上巻の帯にはそのまんま「『日本沈没』を凌ぐ傑作、遂に誕生」と書いてます。本文中でも主人公が科学者達から沖縄の話を聞かされ、「それ、なんて日本沈没?」と突っ込みを入れてます。似てるかと言われれば、大枠は似てるんですが、別に「国家とは」みたいな社会的な話にはならないし、人情味も薄いので、別物と考えた方がいい気がします。また、「二番煎じで沖縄って、規模が落ちてるじゃん。インフレしろよ!」という意見もあるでしょうが、大丈夫です。南西諸島海溝の火山が噴火すれば、地球表面が灰に覆われ気温低下、作物が採れなくなるので大規模な飢饉が起こります。下手したら人類絶滅という所までエスカレートします。まさにSF巨編。
・ISEIC理論
正式名称は「圏間基層情報雲理論」。科学者達の「オペレーション・ヒヌカン」の基底となっている理論で、本編の中心となるガジェットです。情報は生物だけでなく、岩石でもなんでも有りとあらゆるものに記録されており、それらは網どころか雲のような膨大なネットワークを形成している。そこに働きかければ、海底の火山活動すら操れる、というものです。その働きかけが出来る者が巫女と呼ばれる存在であり、お祈りをして雨を降らせたり、石に穴を開けたりするのもISEIC理論で説明されます。イメージとしては情報統合思念体と長門さんだと思ってもらえばいいです。「オペレーション・ヒヌカン」は巫女とその触媒となる青年を潜水艇で海底の遺跡まで運び、祈りを捧げることで火山活動を止めるというものです。
まぁこれが胡散臭いんですよ。巫女や古代遺跡なんかを科学的に説明するって典型的なニューエイジの方法論です。これを(信じるかどうかは別として)楽しめるかどうかがこの小説の評価の分かれ目になるでしょう。地震のメカニズムや潜水艇の構造などは驚くほど緻密に描かれている分、少し残念でした。個人的には電気を食べてマントルに生息してるとかいう細菌が好きです。あと、やたらと強気な中国船がリアルでした。まとめると、プロット△、キャラクター△、ガジェット?、科学描写◎ってとこでしょうか。良くも悪くもSFですね。
・蛇足(ネタバレ)
巫女やら神様が出てくるだけでなく、物語全体も神話的構造を持っています。具体的に言うと主人公である青年と巫女さんは恋に落ちるんですが、実は種違いの姉弟なんですね。
巫女さんにはさらに兄がいて、彼は妹である巫女を押し倒そうとするものの失敗し、自殺して悪霊になります。個人的にこの兄が一番いいキャラしてました。妹を押し倒す時に吐く「あいつとやったんなら、俺とやったっていいはずだろう!」はそれだけでもなかなかの名台詞なんですが、この時点ではまだ読者は主人公と巫女が姉弟であることがわからず、あとになって読み直すと兄が主人公と巫女の関係を知っていたことが分かり、伏線にだったことが分かります。
ラストで二人は現世では結ばれないことを悟り、半ば自殺のような形で死んでいきます。そして、伝説上の楽園である「ハイドゥナン」(ハイは南、ドゥナンは与那国)で暮らす、というシーンでエンド。やっぱり創世記と近親相姦は切り離せないようです。
(参考)
作者ホームページ「i-藤崎慎吾」
http://www.hi-ho.ne.jp/shinichi-endo/i-Fujisaki/