
ブラインド・フェイス空中分解後、一旦ソロに転じたエリック・クラプトンが、その恩に背くかのようにアルバムのプロデューサーであったデラニー・ブラムレットのグループ、デラニー&ボニーのバック・バンドの主要メンバー3人を引き抜いて結成したのが、このデレク&ザ・ドミノズです。
このアルバムは、親友ジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドへのクラプトンの横恋慕が極限まで高まった結果として生まれたものであり、その歌詞のほとんどには、叶わぬ思いに悶々とする彼の心情が綴られています。クラプトンが多大な音楽的影響を受けたブルースは、女性に振られたり、妻や恋人に逃げられたりという内容がほとんどですから、幸か不幸か、心からブルースを演奏できる状況には置かれていたわけです。しかしながら、心情を吐露する歌詞はいくらでも出来上がっても、それを支えるサウンド面ではアイデアもまとまらず行き詰っていました。そこに、コンサート・ツアーで、クラプトンがレコーディングしているマイアミの地を訪れていたオールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・オールマンを招いた時点からレコーディングは軌道に乗り始めたのです。
アルバムは、横綱の露払いでもするかのようにデュアン・オールマン抜きで録音された3曲から始まります。せつないバラードの「I Looked Away」、「Bell Bottom Blues」では、クラプトン特有のハーフトーン設定で、ピッキング・ハーモニクスを多用し、ストラトキャスターの個性を最大限生かした丸みがあり、乾いた音色で、ゆったり弾むようにギターを奏でています。
デラニー&ボニーを意識したようなノリのいい3曲目「Keep on Growing」では、より歪んだトーンで演奏しており、冷静でどっしり落ち着いたリズム感覚のクラプトンには珍しくデュアンに鼓舞されたかのような走り気味の熱いソロを弾いています。
ここまで、聴いてクラプトンのギター・フレーズの特徴、リズム感覚、そしてストラトキャスター特有の音色を頭に叩き込んでおけば、その後登場するデュアンとの聞き分けはしやすくなるでしょう。特により腰があり厚みのある音がでるレス・ポールを使用していると思われるデュアンとの音色の違いは大きいです。
一般にデュアン・オールマンはスライド・ギターの名手として知られており、スライド=デュアンという先入観でこのアルバムを聴いてしまうと、かなりの誤解が生じてしまいます。このアルバムではクラプトンもかなりスライドを弾いており、デュアンも通常奏法でのソロを多く弾いているのですから。
ライ・クーダー、ロウェル・ジョージ、サニー・ランドレス等、他のスライド・ギタリストとして著名な人たちと異なり、デュアンはスライドの名手であるとともに通常奏法においても卓越した技量を持っていることを忘れてはなりません。クラプトンがデュアンに注目したのもウィルソン・ピケットの「ヘイ・ジュード」での通常奏法によるプレイだったのですから。オールマン・ブラザーズ・バンドの名盤「フィルモア・イースト・ライヴ」でも全7曲中、デュアンのスライドでの演奏はたったの2曲のみということからも単なるスライド・ギタリストではないことは明らかです。
いよいよ4曲目のスロー・ブルース「Nobody Knows You When You’re Down and Out」でデュアンがスライド・ギターで登場します。目立ったソロはとらず、クラプトンのヴォーカルの弱さを補うべく、歌の合い間に控えめに、寄り添うように合いの手的フレーズを入れ、曲を盛り上げています。それに煽られたようにクラプトンは腰の入った力強いソロを弾いていおり、これぞストラトキャスターというトーンも素晴らしい。
5曲目「I Am Yours」では、スティール・ギターを模したようなフレーズでのスライドを聞かせてくれます。オールマン・ブラザーズの同僚でカントリー好きのディッキー・ベッツとは対照的にカントリー音楽的アプローチをあまりしないデュアンには極めて珍しいことで、この曲以外で、このような演奏は聞けません。
次の「Anyday」では、いきなり、ぐゎーんとスライド・ギターの和音で始まりますが、ここで、スライドだからデュアンが弾いていると思うのは早計で、このイントロ部分はクラプトンが弾いています。和音の響きは、クラプトンが使い、デュアンは使わないオープンAチューニングのものであることから判ります。引き続きこの右チャンネルから聞こえてくるギターを聞いていると、クラプトン独特の間を持ったリズム・カッティングに変わり、このギターがクラプトンであることに疑念の余地はなくなります。その後、左チャンネルからスライドが聞こえ始めると同時に右チャンネルのギターもスライドを引き始めます。
デュアンのスライドは、この部分ぐらいで、その他は通常奏法で弾いており、間奏部分は、デュアンが弾いています。終盤には、デュアンの得意な音程の低いほうに向かう三連フレーズも聞かれます。クラプトンの場合は高いほうに向かうフレーズを多様します。この曲では、スライドのデュアン、通常奏法のクラプトンという立場は全く逆転しているのです。面白いですね。
ジャム・セッションの途中から録音されたために、フェイド・インで始まっているというミディアム・テンポのシャッフル・ビートの「Key to the Highway」は、やっとデュアンのスライドがふんだんに聞ける曲となります。シャッフル・ビートは、スライドが最も弾きやすいリズムですので、デュアンのスライドの解き放たれたような躍動感が違います。歌のメロディに沿ったゆったりしたフレーズでソロを始めるものの、エルモア・ジェームズ風の三連フレーズをきっかけに、一気に盛り上がります。クラプトンも同じような三連フレーズで呼応し、息の合ったところを見せます。
ただし、この曲でのデュアンのスライドは、オールマン・ブラザーズでの演奏で聴かれる重厚かつシャープなトーンとは少し異なっていて、ドブロのような共鳴盤つきのギターから生ずるようなビブラートがかかったようなより泥臭いトーンになっています。ストラトキャスターを使った場合、スライド・バーを弦の上を滑らすのではなく、指板に押し付けるように弾くと、こういうニュアンスは出ますが、このアルバムのレコーディングでデュアンはレスポールしか弾いていないそうなので何故かと思います。ただ、このアルバムのレコーディングでは、アパートの部屋での練習用に使うような小さなアンプが、主に使われたということなので、通常、使用しているハイ・パワーのマーシャル・アンプから生まれるトーンと異なったのかもしれません。
「Tell the Truth」では、デュアンのスライドが全面的に使われていますが、クラプトンもバッキングのコードでスライドを使っていると同時に、間奏でスライドを弾いています。通常奏法の場合とあまり変わらないフレーズを使っているのが印象的です。エンディングでは、デュアンお得意のブルース・ハープ的リフを繰り返すパターンで盛り上げていきます。
さて、通常奏法でのデュアン・オールマンの実力が遺憾なく発揮されたのが、次の「Why Does Love Got to Be So Sad」です。冒頭から鋭く切り込んできて、クラプトンの歌に、どんどん絡んでいきます。もちネタを次々繰り出しながら、そのままの勢いでソロに突入し、息切れすることなくさらにヒートアップし、ハイポジションでの順列組み合わせフレーズで頂点に達します。そのあたりからクラプトンが遠慮がちに絡んできますが、最高潮のデュアンの前ではちょっと旗色が悪いです。そして、盛り上がるだけ盛り上がって収拾がつかなくなったりもせず、見事にクールダウンさせながら曲を終わらせてしまう構成力も素晴らしいです。
デュアンに押されっぱなしではクラプトンの名がすたるということで、次の「Have You Ever Loved a Woman」では、これ以上ないというぐらいの素晴らしいブルース・ギターをクラプトンはプレイしてみせてくれます。デュアンもスライドを弾いていますが、クラプトンの気迫には及びません。早いフレーズを弾きながらも、音数に流されず、間の取り方が絶妙でメリハリが利いた歯切れよい演奏です。
デュアン・オールマンも大きく影響を受けているジミ・ヘンドリックスの名曲「Little Wing」でもクラプトンは歌に専念し、「Why Does Love Got to Be So Sad」同様、デュアンがバッキングから間奏までリード・ギターを弾いています。ゆったりと大空を風に乗って舞うように壮大なスケールでソロは展開され、激しく翼を動かすかのようなフレーズの後、さらに、高みへと上りつめていきます。
ちょっと息抜きのような小品「It’s Too Late」を間に挟んで、いよいよ名曲「Layla」が始まります。デュアンがアルバート・キングのスロー・ブルース曲で使われたフレーズをテンポを上げて弾いたものが、あの有名なリフのフレーズとなったということです。実際、あのフレーズをゆっくり弾いてみると、確かに、いかにもマイナー・ブルースという感じになります。そういう何気ないブルースのフレーズのスピードを変え、それを幾重にも重ねることで、それまでに聞いたことがないような印象的なイントロが生まれました。もの悲しげに「レイラ」と叫ぶクラプトンを後押しするかのように、そのフレーズも繰り返され、聴く人の心を捉えます。歌の終盤では、すすり泣くようなスライド・ギターが何本も重ねられ曲をしめくくります。この部分では、デュアン、クラプトンともにスライドを弾いていると思われます。そして、一区切りついた後、ピアノによる落ち着いたメロディが始まり、さきほどの悲しげな雰囲気とは異なり、より楽しげなスライドがピアノのメロディに絡みます。2本聞こえるスライドは、左チャンネルがデュアン、右チャンネルがクラプトンと思われます。右チャンネルのスライドが、エンディングに近い部分で複数の弦を鳴らした時の響きがオープンAチューニングのものと思えるので、こちらはクラプトンが弾いていると思って間違いないでしょう。デュアンは、レギュラーかオープンE・チューニングでしかスライドを弾きませんし。
アルバムの最後には、ボビー・ホイットロックが歌い、アコースティック・ギターで奏でられる「Thorn Tree in the Garden」が配置され、静かに幕を閉じます。
全体をじっくり聴きなおしてみると、このように、意外とクラプトンがスライドを弾いていることが判ります。スライドの名手デュアン・オールマンを迎えながらも、それまで、あまりスライドを弾くことがなかったクラプトンが、スライドを弾きまくっていることは興味深いです。クラプトンが負けず嫌いなのか、デュアンにおだてられたのか、本当のところは判りませんが、スライド・ギターの演奏においてもクラプトンが非凡であることは感じられます。スライド・バーの操作技術では、劣っていてもフレーズを構成するセンスでは、見劣りしません。
ふたりの超一流ギタリストが、持ちうる能力を惜しみなく出し合い、互いの足を引っ張り合うこともなく、協調し、競い合った名盤です。

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