遠い、春の闇を裂くようにして白い鳥が翔けて行く。
青函トンネルを抜け、長万部を経由し、札幌へと向う白い流線型。
5年前に開通した北海道新幹線「はくちょう」である。
高架橋の上を滑るようにして走っていく車両はやがて山をくり抜いて
つくられたトンネルへと吸い込まれていく。
私はそれを見送ると、背中に背負った重荷を持ち直し、
この老いぼれた体に鞭打つと、再び丘を登り始めた。
北国の春は遅い。
もう4月に入ったというのに、鈴ヶ丘公園の桜並木は、
まだその芽を硬く閉じたままだ。
冷たい夜風に吹かれて、サワサワと苦しそうな音と立てる。
鈴ヶ丘の頂上に辿りつくと、
私は桜並木のうちの一本を選んで、その根元を掘り返していく。
冷たく硬い地面に剣先スコップを突き立て、足で踏んで深く刺し、
そして掘り返す。
何度も何度も同じことを繰り返し、やがて荷が収まるほどの穴を
掘ると、そこに背負って持ってきた装置を据え置く。
金色のフィルムに包まれたそれは、一見すると小型の人工衛星の
ようにも見える。
私はそれが正常に作動していることを確かめると、
その上に静かに土をかぶせていった。
「よし……」
全ての作業を終えるころには、服の中に汗が滲んでいた。
闇夜に吐く息も白い。
そして私は丘の上から地上を見渡す。
新幹線の開通によって急成長を遂げた「鈴蘭市」
その街灯りが辺り一面を埋め尽くしている。
以前は地図にすら載らないほどの小さな集落だったそうだが、
今では綺麗な格子状に区画整理された新しい街並みの中、
8万人の人々が暮らしている。
中心部の商業区では色とりどりのネオンサインが煌き、
格子状の道路を電気自動車のテールライトが満たしている。
きっと今日も、着飾った恋人達や仕事上がりのサラリーマン、
騒ぎ盛りの若者達でにぎわっているのだろう。
まるで夢だ。
私はそう思う。
誰もかもが夢の中で生きている。
そして、そのことに気づかされた人間から順番に、
夢から覚めて、そしてどこかへと連れ去られてしまうのだ。
――取り戻してみせる。
私は強くそう思う。
――元通りにしてみせる。
冷たい丘の上から夢のような夜景を見下ろしながら、
私は心に強く誓う。
私は取り戻してみせる。
例えこの街全てを灰に変えてでも。
そして私は夜空を見上げる。
地上の光を映したような瞬きが、どこまでも遠くへと広がって、
私達の宇宙を埋め尽くしていた。

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