■去る11月28日、東京・赤坂グラフィティにて行われた若林マリ子さんのライブレポートをお送りします。
『唄の木に咲く花々。#03』と題されるだけあって、この日の共演者、Ms. Charleston&Her Robinhood Boysさん、片平大樹さん、月の203号室さん、いずれも皆さんすばらしい方々ばかり。
そんな中、マリ子さんは3番目に登場しました。
いつもお馴染みのサポートメンバー、パーカッションの熊谷太輔さんと田中啓介さん、そしてマリ子さんの3人でステージに上がると黙々とセッティングをし、準備が出来たところでまずはマリ子さん一人で演奏の『こんな気持ちのいきどころ』。
ギターのストロークから始まったミドルテンポのこの曲は、マリ子さんのソロアルバム『endo of a rainbow』に収められていた一曲ですが、活動再開後にライブで演奏するのは初めて。
「悲しい 悲しい 悲しい 悲しい と思って……」と、どこにもやり場のない悲しい想いを切々と唄うこの曲は、アルバムではマイナー調のアレンジでしたが、この日の演奏ではその殆どをメジャーコードに変えての演奏となっていました。あとでその理由を訊いてみると、「マイナーのままで唄うとあまりにも悲し過ぎてしまうので、少し軽い感じにしてみたの」とマリ子さん。この歌を作った頃とは心境もずいぶん違い、行き場のない想いをただ吐き出してしまうのではなく、そんな想いに苦しむ自分を少し客観的に、そしていとおしく見守ってさえいられるような女性に、彼女を年月が変えていったのだと感じました。
マリ子さんの話によると、アルバム制作当初、この曲を聴いたレーベルの宣伝スタッフの方に「どうして4回も“悲しい”と言うんですか?」と聴かれてうまく答えられずに居たところ、当時のプロデューサーの方がズバリ一言「それだけ言わないと気がすまないくらい悲しいっていうことなんだよ」と彼女の気持ちを代弁してくれたのだとか。そういうプロデューサーの方がいらしたおかげで、この歌を世に出すことができたのだと、当時を振り返りながらマリ子さんはしみじみと語っていました。
ライブの一曲目ということもあり、いつになく緊張していたというマリ子さんですが、彼女にとってこの歌は特別なものなのでしょうか。唄いだしから始終、一点のにごりもない、ものすごい集中力が感じられました。
前日に急遽やることにしたそうですが、この曲を一曲目に持ってきた彼女の気持ちが、この日のライブの流れを決めたような気がします。
続いても弾き語りで演奏されたのがNEWシングルの表題曲ともなった『あふれる想い』。
シングルを聴いてくださった方ならば、この曲の美しさについては改めてご説明するまでもないかとは思いますが、それにしてもこの日の演奏はとりわけ歌声が清んでいて美しかった。
「……どんな時代にいたとしたって、どこかしらそばにいたい……愛という名の空気あふれて破裂しそうなこの部屋のドアを開けたら私は大丈夫……だけど抱きしめにきて」
抑えても抑えても泉のように湧き出してしまう愛しい想い。そんな想いがこの日はとりわけ切なく募って感じられました。
ここでマリ子さん、少し気持ちを落ち着かせようと軽くMC。
「今年の2月ぐらいから、こちら(赤坂グラフィティ)にだいたい月1で出させていただいているんですが、今ここにいるのが、あらためて考えてみると夢のようで嬉しいです」と、とても素直にライブのできる嬉しさを語っていました。そして、こんなことも。
「時々緊張して上がってると思う時は、PAさんの方を見て気持ちを落ち着かせているんです。いるね!って(笑)。なんか、みんなで作ってるんだなっていう感じがして」
そうなのです。マリ子さんはここ赤坂グラフィティのスタッフの皆さんのことが本当に大好きで、いつもライブが終わるたびに「みんな演奏中、とってもあったかいの」と言っては感激しているのです。もちろんお客様も温かく彼女の歌を聞いてくださっているのですが、とりわけスタッフの皆さんの温かさが演奏中に伝わってくるということで、彼女は何度もそれに助けられていると言っていました。そうやって皆さんのお力添えがあるからこそ、何とか最後まで唄い切ることができるのだと、彼女はいつも感謝しているわけなのです。
さて、そんなMCのあとはいよいよ3曲目。サポートメンバーを含めた3人での演奏となる『キッシュロレーヌ』です。
このところのライブではすっかりお馴染みの曲ですが、この日のライブは今までになく3人のコンビネーションもバッチリでグルーヴも良く、とても聞き応えのある演奏になっていました。表情豊かな熊谷太輔さんのパーカッションと田中啓介さんの冴えのあるベースがうまくマッチし、アップテンポの唄いだしから突然ベース音が舐めるように滑り込むブレイクへの転換は、思わずゾッと鳥肌が立つほどの切れのよさ。
最後「目を開けるのは嫌だな 淋しい朝が来るから。目を開けるのは嫌だな。切ない明日が来るから」とリフレインされるエンディングでは、「起きたくないけど、でももう起きなきゃ!」という女の子のちょっとしたいらいら感がうまく表現されていたと思います。
そして4曲目。
「この曲はメガネ好きの女性にぜひ聴いていただきたい曲です」というMCで始まった『ほんとはヴァレンチノ』。
この曲も最近のライブではお馴染みの曲。ただし、今回はいきなりマリ子さんの歌声から入るなど、アレンジもずいぶん変えてあります。これは以前のライブの時に、なんだか突然やってみたくなったということでチャレンジし、今回、あらためて新たなバージョンとして取り入れたもの。これが実にハッとさせられるような歌声で、この第一声から思わずぐっと歌の世界に引き込まれてしまいます。
「ほんとはヴァレンチノよ。あなたモテるの。メガネの奥の瞳がキラキラ。私の宝物よ」なんて、女の子から言われたら、メガネ男子としてはクラクラせずにはいられませんよね。
最後、エンディングもバッチリ決まって爽やかな一曲となりました。
「自分の作っている曲を振り返ると、結構素直じゃないなと反省してしまうのですが。あ、素直じゃないなというのは女としてね、女性として。私の歌は、そういう気持ちが歌詞にちりばめられていることが多いです」
そんなMCから始まった5曲目は『Tea leaf』。
ゆったりとしたテンポで訴えるように唄い始めるこの曲は、ひそやかだけれど実に情感豊かで心の奥深くにまでじわじわと染み込んでいくような、不思議な力を持った曲。
「どうしても言えない。あやまれない。嫌い。なんてあんな言葉は、あのテーブルに置いてきて……」
思わず言ってしまった言葉。本当の気持ちとは裏腹に相手を傷つけてしまって、でもどうしてもあやまれない。だけど、本当は悲しいくらい愛しているのと、胸のうちを切々と訴えるその思いがマリ子さんの声を通してこちらの胸にも伝わってくるのでしょうか。歌の主人公に心がぴったり重なって、たゆたうように移ろい流れるメロディに酔いしれながら、いつしか自分のことのように悲しくなってしまいます。
「出会う前の私になる。望んでみたけど、悲しくなる。電話するから、会いに来て」
どうかその願いが叶うようにと祈らずにはいられません。、
紅茶の葉っぱが時間をかけてゆっくりと色を出し、味わい深くなっていくように、この曲も聴いたあとで、時間が経てば経つほどに、じわじわと印象が強くなる。彼女自身「ものすごく感情が入る」と言っていましたが、決して派手ではないけれども、マリ子さんの歌力をじっくりと味わえる曲だと思います。
そしてここから世界は一転し、最近のライブではすっかりお馴染みの曲『on the grass』。
熊谷さんの雄たけびから始まるアレンジは、さしずめサバンナバージョンとでもいったところでしょうか。アフリカの太鼓ジャンベの激しいリズムと独特のボイスパーカッションを聴いているうちに、サバンナの平原に立っているような気分になります。シマウマやヌーの大群が砂ぼこりを上げ、ライオンがそのあとを追い、一陣の風が吹く。その乾いた赤土に吹く風が北へ北へと流れていって、いつしか大陸を越えて海をわたり、ヨーロッパの草原へと辿りつき、湿った草をふわりと揺らす。
極力感情表現を押さえ、草に寝転がって空を見上げている少女の目に映る景色の描写に終始しているこの曲の歌詞が、返ってその心の中の情景を聞く人の脳裏に鮮やかに映し出して見せてくれます。
この日のマリ子さんはとりわけ声の張りもあり、歌が生き生きと感じられました。
「空を見上げて、焼けるような沈む夕日眺めて立ち上がる。そして影絵のような木の枝を見てると、それは血管のようで、動物みたいで不思議」
なぜでしょう。こんなシンプルな言葉の連なりがメロディとリズムにのって聴こえるだけで、胸が詰まって魂が震えます。ゆっくりと歩くように爪弾かれるギターのリズムは、まるで寝転がった大地から響く地球の息遣いのようにさえ感じます。
歌の最後、静かにギターの音が消えた後、まるでもう一度風が南へ向かうように静かに熊谷さんのジャンベの音が響きます。その高鳴りがクライマックスに達したとき、まるでサバンナの平原に立つ少年が「北風が来た!」とでも叫んだかのような熊谷さんの雄たけびで歌は幕を閉じました。
すばらしい、崇高な瞬間。
「幸せだね」
思わずマリ子さんからもそんな言葉が漏れました。
いよいよ最後の曲となったのはシングルにも収録されている『月と私の秘密』。
すっかりライブではお馴染みの曲ですが、この日の演奏はとても明るく、キュートでした。
これはアルバム『ICE AGE』に収められている曲。実はその頃のライブテープを聞かせていただいたことがあるのですが、それはもう全く別の歌のようでした。時代の違いもあるのでしょうが、どこか現実離れした、異次元の世界を表現しているような歌になっていました。
今、マリ子さんが唄っているのはもう少し等身大の女の子。そしてその女の子がより身近であるだけに、月の光も一層近く、そして温かく感じてしまう。こうやって歌は日々変化していくのだなぁと、あらためて感じました。
アーティストの変化によって歌もどんどん変っていきます。その歌の主人公とアーティストの実年齢が例え離れていったとしても、誰の心の中にも自分だけの少年や少女がいて、その気持ちはいつも変らずにある。この『月と私の秘密』も、そんなことを改めて思わせてくれる曲に育っているのだと思います。
最後、空に届くようなマリ子さんの美しい声の響きで歌は終わり、名残惜しくもライブは幕を閉じました。
セットリストは以下の通りです。
1.『こんな気持ちのいきどころ』
2.『あふれる想い』
3.『キッシュロレーヌ』
4.『ほんとはヴァレンチノ』
5.『Tea leaf』
6.『on the grass』
7.『月と私の秘密』
ライブのすばらしさを全て伝えることはできませんが、シングルには今回演奏された『あふれる想い』を始め『月と私の秘密』なども収録されていますので、ご興味をお持ちの方は、ぜひお聴きになってみてください。
次回ライブは06年1月5日東京、赤坂グラフィティにて。
ぜひいらしてくださいね!
(reported & photo by rainbow)

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