今回のルポは6月に続いて私tanzがお届けいたします。例によって会場の雰囲気がうまく伝わるか不安ではありますが、少しでも当日の様子を感じ取っていただけたなら嬉しい限りです……。
さて、すっかり定番のグラフィティライブ。出演順2番目のマリ子さんはブルーのジャケットを身に纏っての登場です。
客電が落ち、マリ子さんにサスが当たったところでひとことご挨拶。7回目の赤坂はしっとり静かに始まるのかと思いきや、いきなり「忘れないうちに!」と唐突にパーカッションの熊谷太輔さんをご紹介。スタート早々炸裂するマリ子節に会場は盛り上がります。今日はのっけから調子が良さそうかな?
最初は『レイニーデー』。昨年までのステージでは比較的よく歌われていた一曲ですが、今年はおそらくはじめての演奏。今日の赤坂の空模様にはうってつけの選曲です。マリ子さんには雨にまつわる曲が多くありますが、この曲に出てくる女の子は雨の中を濡れながらひとりで歩き、そんな中でいろいろなことを想います。躊躇と願望、時にはちょっとドキっとするようなことまで...
冷静でカッチリとした演奏は昨年までのものよりかなり洗練された印象。特に間奏後の歌詞の無い部分は「雨の日の憂鬱」を効果的に演出していてさすがと唸らされます。
一曲目を終え、「最近曲をつくっていて思ったこと」と語り始めたマリ子さん。「一人称って女性の場合は“私”とか“あたし”ぐらいだけど、男の人は“ボク”“俺”“わたくし” ...あっ“わし”とか。色々ありますよね。」 場所やシチュエーションによって使い分けられる男性の一人称を考えていたら思いがけず楽しくなってきたと話しは広がります。なるほど女性って家でも会社でも「わたし」だけで結構通りますもんね。でもそんなところに気が付いてつい探究してしまうあたりがなんともマリ子さんっぽい。この話から「次は、ほんとにちっちゃい“ボク”が出てくる曲です。」と紹介し始まったのは『点と線』。馴染みやすいテーマの部分とは裏腹に、歌が進むにつれこれが驚くほど難しい曲だということに気がつかされます。まるで細い路地をどこまでもどこまでも入り込んで行くかのような中盤、いつのまにか再び覚えのあるメロディに戻ってみると、そこにひょっこり「近所の男の子」が飛び出して来て口笛を加えてくれます。本当に、不思議な魅力に溢れた一曲です。
ここでライブの告知を少々。熊谷さんのほうは今月10/17に高円寺の稲生座、マリ子さんからはすでに発表されている11/11日の烏山TUBOに加え11/28日に再びこの赤坂が決定したとの嬉しいお知らせがありました。とうとうひと月にライブ2本、素晴らしいです!
続いての曲は新曲『ウィリアム』。片想いの歌なのですが、出てくる女の子はどうやらお相手より一枚上手... いや、一枚上手だと思っているだけなのかもしれません。そう思って、そして自分でテレてしまう女の子。パパパパーッと誤魔化してしまう可愛さもあれば「ウィリアムテルの子供のような美しい心はまだないけど」なんてクールな一面もある。ありとあらゆる幸せと不安が曲に包み込まれて演奏がどんどん力強くなって行く様は鳥肌モノ。またひとつ、素敵な曲が生まれました。
曲が終わり、「いま、とても・・・」と言いかけて「あ、やめた」と一旦口をつぐんだマリ子さん。
そして、「・・・いまとても幸せな気分になって歌っていたんですけど、伝わりましたか?」と客席に語りかけます。“わかるわかる”と頷く前列のお客さん。この曲に感銘を受けたのが私だけではなかったことを確認出来た瞬間でした。
片想いの曲が続きます。ある意味今日は重要な一曲となる『あふれる想い』。もうマリ子さんのレパートリーを代表する一曲と言いきっても差し支えないでしょう。イントロのギターの音の粒が普段にも増して丁寧に揃っているように聴こえたのは気のせいでしょうか。控えめな熊谷さんのパーカッションが曲の清楚なイメージを引き立てます。
気持ちのたっぷり入った演奏を終え、ギターのカポを外しひと呼吸。
「もう、いつここへ座っても楽しいし、緊張...というか高揚するし、みんなに会えるのをたのしみに来ているんです」と、MCで言葉を重ねているうちに気持ちがいっぱいになって行く様子のマリ子さん。でもそんなところにヤラれちゃうファンも多いわけで、もうね... あ、いや、すみません、脱線しました。冷静にルポを進める事にしましょう。
「残り2曲」と、ライブがすでに終盤を迎えていることを告げるMC。紹介された曲は『オキガリヤルバイ』。昨年8月の稲生座でも披露してくださったインドのポップスで、タイトルは“牛牽きの歌”という意味。お兄さん(民族音楽家の若林忠宏氏)のお手伝いで歌って覚えたのだそうです。
“遠く離れた彼に自分の想いを伝えてくれるよう牛牽きのおじさんに託す娘さん” ...まさにマリ子ワールドのインド版といった様相のこの曲、言葉はわからなくても情感たっぷりの美しいメロディから切ない気持ちが滲み出ています。そしてどこまでも続く伸びやかなマリ子さんの歌声。長い長いサスティンが来るたびに、まだ見た事のないインドの山々と空がステージ上空に現れる錯覚を覚えます。
まったく、私の力不足でこの情景を上手く書き表す事が出来なくて歯がゆいのですが、この圧倒的なスケール感は客席のざわめきを一切消し去り、その瞬間、居あわせたすべての人々は彼女の歌声に引き付けられました。会場全体の空気がこのとき明らかに違う種類のものに変わっていったのです。
そして、この空気のままラストの『on the grass』へ。もう圧倒的です。
マリ子さんの活動と歩調を合わせるかのようにさらに進化を続けるこの曲。今回の演奏はとてもポジティブな印象で、大地の中のちっぽけな自分の「確認」よりも、その先の「希望」の割合がぐっと増えたように聴こえて来ます。熊谷さんの力強いジャンベも決して後戻りはしません。
しかし何故でしょう。いつもなら「もっと聴きたい!」と思ってしまう私が、今回曲数の少なさをあまり感じていません。
その理由はジャンベの余韻が遠くへ消えて行く時に気がつきました。そう、この日は全編にわたって未来が見えるライブだったのです。「これから」へ繋がる充実した時間。本当に来て良かった・・・
と、ここで終わっちゃいけません。
マリ子さん、大切なことをひとつ忘れてますよ!
「あっ、そうだ、CD-R! 3曲入り、500円で売ってますっ、買って行って下さぃっ(笑)」
うーん、素晴らしい演奏が終わり現実に戻ったところでこの少々慌てたMC。ふふふ、マリ子さんポイント高すぎます。やっぱりこんなステージはマリ子さんにしか出来ません。今夜もヤラれました!
セットリストは以下の通りです。
1.『レイニーデー』
2.『点と線』
3.『ウィリアム』
4.『あふれる想い』
5.『オキガリヤルバイ』
6.『on the grass』
そうそう、この日発売になったCD-R『あふれる想い』。私が見た限り、ご本人手渡しの販売カウンターには人がひっきりなしに訪れていました。ファンはもちろんのこと、他のバンド目当てでたまたま居合わせた方も結構買われたのではないでしょうか。このCD-Rの存在も、なにか今回のライブに大きな「未来」を与えてくれたように思えます。
この調子で、今後ますますマリ子ワールドが炸裂してくれることを期待しましょう!
(photo & reported by tanz)

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