俺が仕事から帰ると妻のマリコがいつに無く真剣な表情で俺を出迎えた。「何かあったな?さてはまた息子の五郎の事か?」そう思い靴を脱ぐために足元に落とした視線をマリコの顔に向けると、その目には涙が浮かんでいた。
「おい、どうしたんだ。また五郎の事か?」
「そうよ。あなた、リビングでじっくり話しましょう・・・」
これまでにも幾度と無く似たような事はあった。あるときは五郎の躾の問題、教育の問題・・・。その度に俺たちは衝突を繰り返してきた。離婚の話が持ち上がったこともあった。それに懲りた俺は、五郎の事に関しては全てにおいてマリコの思うがままにさせていた。その甲斐あってか、しばらくは俺たちの間には波風が立つことは無かったのである。
だから俺には、一体五郎の事に関してどんな話があるのか全く見当もつかなかった。
「ねえ。あなた・・・」
リビングの真ん中においてあるソファに向かい合って座っているマリコがそう言って話を切り出した。
「私は、五郎が、立派な人間になるように一生懸命やってきたつもりだったわ。」
「確かにそうだろうね。でも、俺の目からみたらすこしやりすぎの感もあるけど」
「そう・・・。だからなの?私に対するあてつけのために、五郎にアンナコト教えたの?」
「あんなこと?あんなことってなんだい?」
「とぼけないで頂戴!あなたが教えなきゃ誰がアンナコトを五郎に教えるっていうの?」
「ちょっと待ってくれ。俺は五郎に何も教えてはいない。もし、俺が知らないうちに何かを教えてしまっていたとしても、「あんなこと」じゃ、分からないじゃないか?一体五郎は何をしでかしたんだ?」
「ナニって。とても汚らわしい行為よ!」
「汚らわしい行為?」
「そうよ。あなたもヤッてる事よ」
「何だい?それは」
「ソレを私の口から言わせる気?」
「言ってくれないと分からないじゃないか」
「そうやって、私の口から汚い言葉を言わせて楽しんでいるんだわ・・・」
そう言って、マリコは泣き出した。
「おいおい、勝手に怒って勝手に泣いてちゃナニがなんだか分からないじゃないか。」
「そんなに、言わせたいのね。だから男って汚らわしいのよ。私は五郎だけはそんな男にならないようにしっかりと教育してきたつもりだったのに・・・」
「いい加減にしろ、汚らわしい言葉だかなんだか知らないが、はっきりと言ったらどうなんだ!」
「いいわよ。言ってあげるわ、昨日の夜五郎がシてたのよ。一人でね。」
「ナニをだい?」
「アレよアレ」
「あれじゃ分からないじゃないか。もっとはっきりと言ってくれ」
「あそこをしっかりと右手で握ってしてたのよ・・・。ここまで言ったらわかるでしょ!これ以上言わせないで頂戴!」
俺は、少々驚いた。この前まで赤ん坊だった五郎がもうそんな年頃になっていたとは。俺も、ちょうどあの位の年頃に初めてヤッたっけ・・・。そんな感慨がこみ上げた。そしてそれと同時に怒りがこみ上げてきたのだ!
「おい。マリコ。お前はどうしてそんな事を知っているんだ」
「どうしてって・・・それは」
「まさか、覗いたんじゃないんだろうな?」
「・・・」
「覗いたのか!?どうしてそんな事をする。五郎の事が心配なのは分かるが、五郎の年を考えてみろ。そこまでする必要は無いだろう?お前だって、そんな事をしている最中を覗かれたら嫌だろう?」
「私は、あんな汚らわしい事はしないわよ!あんな事をするのは男だけじゃないの」
「なんだと、アレのどこが汚らわしいんだ。世の中の男はみんなアレを通して成長していくんだ。それを汚らわしいとはなんだ、アレをしない男なんて男ではない。それに最近では女だってヤッてるそうじゃないか」
「ふん。そんなはしたない女共なんかと一緒にしないで頂戴。どうせ、その情報も男共が好きそうな低俗な雑誌かなんかの情報でしょ?知ってるのよ私。あなたが毎週駅前のコンビニで買っている事を。鈴木さんの奥さんから聞いたのよ。「お宅のご主人、元気でよろしいですわね」っておまけ付きでね。あぁ、恥ずかしいったらありゃしないわ」
「何だと・・・」
「とにかく、私は五郎があの汚らわしい行為を止めれるように、明日から精神科医の所に通わせますからね・・・」
「いい加減に・・・」
俺がそう言って大声を張り上げようとした時、リビングのドアが開き眠たそうにめをこすりながら五郎が入ってきた。
「パパ、ママ。ケンカしてるの?」
「いいや、違うよ。五郎こそどうしたんだい?眠れないのかい?」
「ううん、トイレ」
「そうか・じゃ、早くいかないともれちゃうぞ」
「うん。ねえ、パパ一緒に来てくれる?」
「トイレに?」
「うん。そう。」
「怖いのかい?」
「ううん。いいからきて」
「分かった。」
五郎の後に附いて俺は、一緒にトイレに入った。
「ねぇ、パパ。僕パパみたいにおしっこできるようになったんだよ」
五郎は少し大人びた表情で俺に向かって微笑むと。その右手でしっかりとアレを握りそしてしっかりと便器の中に放尿した。
俺は五郎がしっかりと一人前の「男」として成長している姿に涙した。