ペットボトルの水 近未来編
第10話 未来からのJin
潮音 仁は勝三の長男である。歯科大学で歯科金属の研究をしていたが、
去年、交通事故に巻き込まれて意識障害の重体になった。しかし、数か月前に意識が戻ったが、人が変わったようにおとなしい性格になっていた。仁は勝三の歯科医院を手伝うことになった。
勝三は、地域の歯科医師会の代議員にと仁を推薦していた。偶然空きが出て、今日は仁が初めて県の歯科医師会代議員会へ出席することになった。定刻から代議員会は始まった。仁はこの席で紹介を受けたのだが、以前はこのような会に出るなどとは思ってもいない性格だったが、勝三に代議員として意見を述べたいなどと相談するようになっていたのだった。
「法人改正に伴う会員種別ですが、県歯としては日歯に習って、
正会員と準会員とし、細則を設けるということで対応したい
と思うがいかがでしょうか」
「異議なし」の声のなか、仁が手を挙げた。
「潮音議員、関連の意見でしょうか」
「はい」
「ではどうぞ」
「正会員というのは選挙権を持つ会員のことだと思うのですが、
現在のところ、個人開業医が主なるものだと思う。
しかし、銀行は開業資金の貸出を渋り、新卒の歯科医師は
個人開業を目的としていません。経営コストと診療報酬の抑制のなか、
勤務医としての自分の生き方を描いています。
県の南部では三十数人を抱える総合病院の中の歯科センター、
個人開業の5人体制の中規模歯科センター、開業医をサテライトとして
傘下に取り組むシステムカンパニー、全国展開する歯科センターチェーンが
それらの勤務医の受け皿として拡大を続けている。
これが、近未来のあり方です」
チン!
「潮音議員、3分以内にお願いします」
「議長、そんなこと言うなよ!我々にとって大事な意見を
この若い先生が言ってるのではないか」
「そうだ!時間など区切る馬鹿げた制度はやめろ」
「もう少し話をさせてやれよ」
会議室は騒然となっていった。仁の異様な空気に引き込まれていた。
「みなさん、ご静粛にお願いします。
潮音議員、この代議員会は3分以内の発言と議運で決められている。
なるべく短く言ってください」
「はい、ありがとうございます」
「個人開業が正会員を占めている今の状態で判断しない方が良いと思う。
勤務医が全盛の時代が目の前にあるのに、この勤務医を正会員として
取り込まなければ、組織率の部分から組織崩壊が始まります。
それに、こんな状態になっている歯科医師会の会長選挙に
どんな意味があるのでしょう。若い歯科医師が困らない舵取りが
旧態依然とした組織の中でできるのでしょうか」
「潮音議員、時間がありません。結論を・・」
「解散して、組織をNPOで立ち上げることはできませんか。
組織を利用しての互助活動ができなくなれば、
無理に組織である必要はない」
チン!
「潮音議員、ありがとうございました。
では、この問題はこれくらいにして、福祉共済の問題に移ります」
潮音 仁は意識不明の入院時にタイムスリップして2030年の世界に行っていた。その事実を知るものは、ここにはいなかった。

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