「決勝当日」
朝から路面はウエットコンディションながら、天気予報では午後から急速に回復という事だった。午前9時 FJ1600レースがスタートし、ほぼオンタイムでレースは進行して行った。迫力あるフォーミュラレース、エントリー台数40台のVitsレースが開催された。
午前中、T監督、渋谷選手、メカニックと最後の打ち合わせを行った。昨夜、最後まで1ステイントを何周にするか? が決まらなかったのだ。3台のピット作業を受け持つWESTからは、カーグラチームを短めのスティント、次に台湾チーム、最後に我々がピットインする作戦の提案を受けた。我がチームとしては、渋谷選手からの提案で1スティントを短くする事で最終決定した。ひとつ問題があるとすればカーグラチームとピットインがバッティングする危険性はあるものの、2台までは同時ピットイン可能という事で成立した。
この日、ロータスエリーゼ走行会も開催されていたので、朝からピットで沢山の訪問を受けた。その合い間を縫って、渋谷選手と共にピットイン時のドライバー交替練習を行った。昨夜取付けた肩バンドも上手く作用し、それなりに素早くドライバー交替を行えるようになった。こうして、何度も繰り返す事で手順を身体に記憶させて行く。早目の昼食を渋谷選手と共に摂り、13:25分からのスタート前チェックに備える。鈴鹿サーキットで渋滞が起こるほどの激しいVitsレースが終わり、いよいよ300km先のチェッカー目指してクラブマン耐久のレースが始まる。

「300km先のチェッカーに向けコースインして行く」
「ローリングスタート」
クラブマンレース耐久の特色として、スタートはローリングスタートになる。想像するに、スピード差のあるクルマ同士が安全にスタートする為に取られたスタート方法だと思う。各クラス別に前のクラスと車間を開けスタートできるからだ。しかし、このローリングスタートが後のレース展開に影響を及ぼす事に・・・
ピット前では、コースイン直前にカーグラチーム+台湾チーム+我々の3チームが、カーグラ誌用の写真撮影を行った。レースクィーンが居る華やかさとはまた違う、大人の渋さがあるピット前の風景だった。スタートドライバー渋谷選手がクルマに乗り込みコースインして行った。
エントリー台数34台を迎えるダミーグリッドは、人、人でごったがえしていた。メジャーレースでは当たり前だが、こういう風景を見るのもまたいいものだ。RSが大きなエンジン音を轟かされながら入って来た。その後方から4列目イン側グリッドに渋谷選手が戻って来た。グリッドに付くや否や「チヨット、トイレに」と渋谷選手がクルマから降りて走り出した。コース上では選手紹介が始まった。渋谷選手も、戻って来て再びクルマに乗り込んだ。長いダミーグリット上での選手紹介も終わり、3分前のボードが提示されダミーグリッドより退去の合図がオフィシャルから出された。渋谷選手と握手を交わしてダミーグリッドを後にした。1分前ボード提示、全車エンジンスタート。前方、新設されたF1でおなじみのシグナルのレッドランプが1ずつ消灯し、ブラクッアウトでペースカーを先頭に1周のローリングが始まった。長い隊列はゆっくりしたペースカーの走行に合わせフルコースを一周する。カシオシケインを立上がった所でペースカーがピットインし、先頭RSからスタートする。130Rを過ぎ隊列は二列縦隊となってカシオシケインへ入って来た。ネオクラスPPの#18は、RSとの間隔を少し開けてシグナルグリーンを待つ。

「NSXを先頭に隊列を組む」
「300km耐久スタート」
スタートラインまでは追い越し禁止。シケインを立上がったRSが加速を始めた。シグナルグリーン! 少し遅れて#18、#27、#16のネオクラスがクリーンスタートを切った。#19カーグラチームは、間に2台のシビックが入っていたので、その更に後方からのスタートだった。しかし、1コーナーまでに#18のスタート作戦に引っかかった渋谷選手のスピードの伸びが鈍く、1コーナー入口で#16マックス選手に先行されてしまった。これは予想外だった。このまま#16のペースが上がらなければ#18の先行を許す事になる。どぎまぎしながらモニターを見つめる。西コースに入りヘアピンを立上がった後でマックス選手を抜いて2位に戻した。#18は、まだそれほど先行しておらずオープニングラップで、やや後方に戻る事が出来た。東コースでは#18との間隔を詰める事が出来るが、西コース、ヘアピンを立上がった時点からグングン引き離されている。#18の2年間OHしていないエンジンは、昨日の予選から絶好調だった。#18と、ほぼ同一の2′24秒台で周回を重ねる渋谷選手。

「1コーナーでマックス選手に先行を許した渋谷選手」

「2周目で抜き返して来た」
「そんなミスが・・・」
3周目に入り、トップのRSがシビックを周回遅れにし始めた。たった3周で周回遅れにしてしまうほどRSとシビックのタイム差は1周で実に30秒ある。5周目に入ったところでタワーからドライブスルーペナルティを示す黒旗と当該車両のゼッケンボードが出された。情報に寄ると#19カーグラチームが、スタートで前方のシビックを抜いてしまいフライングスタートの裁定が下ったのだ。レースは先頭RSの2台がトップ争いをしていた。以前、渋谷選手は#18を捉えられず周回を重ねる。その時だった! ピットレーンに赤い#18が滑り込んで来た。かなり速いピットストップなのかと思いきや、ピットは大騒ぎになっている。指定ピット前にストップしたA部選手。クルマから降りる事なくメカニックと話をしている。その後、一切ピット作業をせずにピットアウトして行った。??? #18がピットアウトして行った後、入った情報では#19に出たペナルティボードを自分のゼッケンと見間違い緊急ピットインしたという事だった。その1周後、ペナルティ対象の#19が、ピットレーンをドライブスルーして行った。これでレースの流れは一気に変わった。渋谷選手は、2′25秒ペースで順調にラップしている。これで2位に台湾チームが付けて来た。#18は4位に転落した。これで#18とのギャップは半周以上開き、レース展開は楽な方向になった。
「ピット作業は円滑に」
しかし、気を許す訳には行かない。これからの周回は、常にシビックが前方に現れ、それを抜いて行く事が重要だ。最初のスティント11ラップ目を消化し、渋谷選手がピットに滑り込んで来た。エンジン停止、すぐさまベルトを外して渋谷選手がクルマから降りた。同時にストップウォッチが押され、メカニックが給油作業を始めた。約60秒で給油作業を終え、規程ストップ90秒を消化する。メカニックのカウントダウンと共に私はクルマに乗り込む準備をする。「5、4、3、2、1 ハイ!」という声と共にすぐさまクルマに乗り込んだ。左右の腰ベルトと又ベルトを引き上げ、両側から二人のメカニックがバックルにベルトの金具を次々に差し込んで行く。クルマの外ではトルクレンチでホイールナットを閉めてている。HANSにズレがないかを確認しエンジンスタートボタンをメカニックが押してくれエンジンスタート。すかさずクラッチを繋ぎ、1速から2速にシフトアップ。ステアリングに取付けられたピッレーンボタンを押しながら2速60kmのピットレーン制限速度内で走行。ピット出口に設置された光電管を過ぎたところでピットレーンボタンから指を離しクルマは一気に加速を始めた。ドライバー交替時、渋谷選手から、クルマは問題無しとコメントを貰っていた。昨日の予選時と比較するとエンジンの伸びも戻っていた。

「毎ラップ、抜いて行く事になる」
私は、鈴鹿での耐久レースは初体験だった。最初のスティントだけに無理せず臨機応変に走行する事を考える。ラップは2′26秒台で周回する。#18のラップと比較すると1ラップ1秒差があるものの現時点でのギャップを考えるとこのタイムで十分だ。カシオシケインを立上がり、ピットレーンから同時に数枚のサインボードが出される為、ホームトレート上でサインボードの確認をする。出される場所とラップ数を確認し、ラップに入った。コースイン後3周ほどクリアラップで走行出来たが、4ラップ目あたりから前方にシビックが現れ出した。シビックもまたEK9クラスとFFチャレンジクラスのマシンでは速度差がある。前方に シビックが一台のみならお互い認識も出来るのだが、FFチャレンジマシン、EK9、ネオといったケースだと、前方EK9はFFを抜くまで後方から来る我々のマシンに気づいてくれないケースが多い。それを気にして抜けはぐれるとラップタイムは落ちて行く。前方を行くシビックをパスするのは非常に難しい。またそれに気を取られていると後方からRSが追いついて来る。各コーナーで団子状態になる事もスティント中数知れずだった。
「シビックとの攻防」

このスティントで危険を感じたのは、ダンロップコーナー上り区間で、FF、EK9、私の3台。前方EK9が頂上付近でFFをパスした。それを見た私は、前方のEK9のイン側に滑り込んだ。前方のEK9は、私を認識出来ていなかったようで、私の右側にどんどん幅寄せして来た。ダンロップ通過後、デグ1手前でイン側ダートまで追いやられたが、右手を大きく上げてアピールした事で気づいてくれ、それ以上幅寄せして来る事は無かった。あのまま気づいてくれなければ、デグ1手前でイン側ガードレールに接触し、最悪リタイヤしているところだった。シフトダウン、余分なスライドを極力排しクルマを少しでも温存させる。周回数としては短いはずの11周だが、実際走行を続けていると感覚的には長く感じた。サインボードには残り周回数が1ラップずつ減っていく。前方に次々現れるシビックをパスし、後方から迫り来るRSに注意をはらい続けた2スティントが、サインボードにPサインが出されようやく終わりをむえた。130Rを過ぎたあたりで肩シートベルトを緩め始めカシオシケインからピットレーンに進入する。入口に設置された光電管前で減速しギアを2速へ、ピットレーンボタンを押してピットに向う。指定停止場所でクルマ止め、すぐさまクルマから降りる。また先ほどと同じルーティーン作業が始まった。
「見えて来た優勝」
渋谷選手にクルマに問題が無い事を報告し、渋谷選手がクルマに乗り込むのを見届けヘルメットを脱いだ。ピットモニターでは、RSのピットインタイミングの関係で一時的に総合3位を走行。#18とのギャップは1ラップ差に広がった。同じ1ラップ差、2位キープの台湾チームも淡々と走行を続け、ピットでのルーティーン作業もそつなくこなしている。3スティント目の段階で優勝の文字が脳裏に浮かび始めた。しかし、周回数はまだまだたっぷり残っている。現時点で22周を消化し残り約30ラップだ。
今回のスティントは15周の長丁場になる。スタートから1時間強経過、15時あたりから気温が下がり始めた。以前、#18は、我々より1秒速いラップで周回を重ねて居た。レースに大きな動きは無く、ピットイン4回義務のRSの順位変動が目立つ。我がチームは、渋谷選手が2′25秒台ペースでラップを重ね順調に走行を続けていた。そろそろ渋谷選手のステイントも終わりに近くなった頃、#19がピットインして来た。一時的にメカニックが足らなかったので、次に控えていた私が消火器を持ってピット作業を手伝った。ドライバーは、塚原氏から津々見氏へ。津々見氏が乗り込んだが、思った以上にシートベルト装着に時間を要している。そうこうしている内にピットレーンに渋谷選手の姿が見えた。上手く#19がピットアウトしてくれるのか? 一瞬、ピットに緊張が走ったが、ギリギリ#19がピットアウト。その直後、渋谷選手がピットに滑り込んで来た。
「最後のドライバー交替」
これで最終ステイントになる。渋谷選手から「エンジンが回り出したから、ストレートエンドでアクセル緩めてもいいよ」とアドバイスされ。私は、クルマに乗り込み先ほどと同じタイミングでコースイン出来た。さぁ、残りはチェッカーまでひたすら走る事になる。確かに、前回のスティントと違い、エンジンの回り方が軽い。ラップタイムも無理せず2′26秒台をキープ。1コーナー、スプーン1つ目の高速からのシフトダウン時にオーバーレブさせないよに注意を払いながらラップを重ねた。昨年、ファイナルラップでトップのRSがエンジンブローし、ネオクラスが総合3位に入った。こんな事もあるのが耐久なので、スピンせず、クラッシュや他車に巻きこまりないよう慎重に走行する。交替後3ラップ目(43周目)の130Rでイェローフラッグが出ている。これは、誰かスピンでもしたかなと注意しつつ130Rに進入したところカシオシケイン入口に、アームが付いたままのタイヤが転がっており、辺り一面に飛び散ったパーツの残骸が散乱。その前方には1台のシビックがタイヤバリアに真っ正面から激突しストップしている。更に、その奥には白いRSがこちらを向いて止まってる。RSの後方セクションは無惨にも原型はとどめておらずクラッシュの凄まじさを物語っていた。事故現場で急減速を強いられ徐行で通過。
「幕切れはあっけなく」
その後のポストからSCサインがイェローフラッグと共に出されていた。フルコースコーションになり、セーフティーカー(SC)がトップを押さえにコースインして来た。西コースモマッチャンコーナーで1列縦隊になり、バックストレートでは全車がSCカーの後方に付いた。残り周回数8周。撤去作業き順調に進行している。このまま進めば再スタートも可能。ミラーに目をやると4台後方に#18が居た。例え再スタートし#18にパスされたとしても向こうは1ラップ遅れ。残り周回数を考えても問題は無い。台湾チームは3台前方に居る。ネオクラスとしての位置関係については順位変動はないだろう。

「トップを押さえたSCカー」
問題は再スタートするかどうかだ。もし私が、レース進行担当ならば、SC隊列、スピード差のあるクルマが前後に居て、クラスによっては再スタート後の超スプリントになる。再スタート後、もし1コーナーでスピン車両が出たら間違い無く多重クラッシュは免れない。果たしてそれでも再スタートするのか? 思いを馳せながらSCカーランは続いた。事故現場は全ての回収処理は終了した。130Rを過ぎた所で、SCカーから「先に行け」という合図が送られた。前方の車両から次々とペースが上がった。ドライバーは「再スタートかも?」と思ったに違いない。しかし、ポストからはイェローフラッグとSCボードが提示されている。私の直ぐ後方の勘違いしたシビックがホームストレートで私を抜きに来た。別に抜かれた所でペナルティを受けるのは相手なので放っておいた。抜く寸前で気づいたのだろう、私の後方に再び下がってくれた。
残り3ラップ。この時、トップのRSがピットインしドライバー交替、イェロー無視の10秒ペナルティストップを受けていた。それが原因で再度、SCカーはトップの頭を押さえに、全車両を前に行かせたのだった。スプーン1でSCカーがトップ車両を押さえパックストレートで再びSCカーランに入った。SCカーランで2周を消化し、8周に渡るSCカーランが終わりようやく長かった耐久のチェッカーを迎える事になる。ファイナルラップを確認し、予想通り再スタートは無かった。カシオシケインから立上がり、ピットレーン側壁付近をゆっくり走行しピットレーンで大きく手を振ってくれている皆に手を触り返した。最後はSCカーランでリスクを回避する事が出来、クラス優勝する事が出来た。さらに総合4位。WESTの皆さんを始め、関係者の方々、応援に来てくれた皆さん、そして渋谷選手ありがとうございました。

「Good job!」

「ポディウムで2位台湾チームと共に」
画像提供 飯田氏+わいるど氏 Tanks!