〜死の砂漠、ゴザにて3〜
あれからどれくらい時間が過ぎただろうか。死の砂漠と呼ばれるゴザに静寂の夜が訪れようとしている。
「ん…。」
ちいさな声を発し、ルナはうっすらと目を開いた。ぼんやりと目に入るのは薄汚れたテントの天井、そうして細々と灯されている古ぼけたランプだ。
「おお、目を覚まされましたか。」
「ゴリガン?…もしかしなくても倒れたのね、私。」
ゆっくりと体を起こす。そうすると、体にかけてあった薄い毛布がずり落ちた。
「体に大事はなさそうだな。」
ルナは反射的に声のした方を向く。そこにはこのテントに不似合いな立派な椅子に腰掛けた、ヴァイデンの姿があった。そうして、その横には傅いたナイトが居る。…古いが、比較的広いテントのおかげで、これだけの人数が居ると言うのに窮屈には感じない。
「倒れたルナ殿をナイトを召喚して、ヴァイデンがここまで運んでくれたのです。私にはルナ殿を運ぶ手段が無かったので、助かりました。」
そうゴリガンが説明してくれた。
「まずは水でも飲むが良い。話をするのは喉を潤してからでも良かろう。」
ヴァイデンの言葉にナイトが動き、水を運んでくれた。ルナは有難うと礼を言い、それを受け取ると口に含んだ。…ひんやりとした水が喉に心地よい。ナイトはルナが水を飲んだコップを受け取るとそれを片付け始める。ヴァイデンは手枷のせいで色々と不自由も多そうだ。きっと今のようにその分をクリーチャーが補っているのだろう。
「…良く、私を助ける気になれたわね?さっきまでカードを寄越せ、って言っていたくらいなのに。」
嫌味ではなく、純粋に不思議に思いルナは言葉を紡いだ。その言葉にヴァイデンはふっと笑う。
「不思議なものでな…。お前に負けた途端、世界征服の野望を諦めよう、そう思ったのだ。余が今の境遇に居るのも、思い返せば自業自得と言う物かも知れぬ。…そう、思えてきたのだ。」
そう静かに語る彼の言葉に嘘は感じられない。今まで戦ってきたゼネスを除くセプターは、皆そうだった。負けた後、なぜかあっさりとその野望を捨ててしまう。まるで何かから解き放たれたように。
「じゃあ、もう盗賊紛いの事はしないのね?」
「うむ、約束しよう。これからはこの砂漠を訪れる者を、この力を使い助けようと思う。…砂漠の王としてな!余がそう心の中で思い続けるくらいは、良かろう?」
そう言って笑う、ヴァイデンにゴリガンは苦笑した。
「やれやれ、まだ王に拘るのか…。頑固と言うか、なんと言うか…。」
ゴリガンの言葉に、ルナも小さく笑いつつ、「そうね。」と頷く。
「ねぇ、だったらこうしたらどう?砂漠に訪れる人を助ける、と言うのならその報酬に少しのお金か食料とかを分けてもらうの。砂漠を通る人は貴方の力に助けられて安全に旅が出来るんだし、悪くは思わないはずよ。」
「なるほど。余に対する捧げ物と言うわけだな。」
彼にしたら商売ではなく、「王に対する贈り物」と考えるようだ。何が何でも”王”と言う立場を貫こうと言うらしい。…ヴァイデンらしいが。
「ルナ殿動けますか?出来れば今のうちに砂漠を抜けてしまいたいのですが。」
「そうね…。もう暑い中を動き回りたくは無いし。行きましょう。」
ルナは立ち上がり、テントの隅に追い立てあった自分の荷物を手にしてテントの入り口に向かった。そうして、思い出したかのようにヴァイデンの方を振り向く。
「まだお礼言ってないわよね。…有難う。」
その言葉にヴァイデンは鷹揚に頷く。それを見るとルナはテントを出た。
外に出ればひんやりとした風が吹いていた。空は夕暮れから夜にへと姿を変えようとしている。
「砂漠は、夜冷えるんだったわね。」
「これはこれで応えますわい。それはそうと、ルナ殿。今回は仕方ないとしてもゼネスに少々甘すぎはしませんか?」
その言葉に思わずルナは足を止める。自分がゼネスに甘い?やめてくれ、とルナは真剣に思った。
「あのね、ゴリガン。私は竜眼が嫌いなの。だから去っていく彼に特に何も言わないし何もしたくない。それだけなの。甘いとかじゃないわ。」
やや語気を強めてルナが言う。
「しかしこのままでは当分、ゼネスに付きまとわれますぞ?」
「その時は仕方ないから適当にあしらうわ。…諦めてくれるまで。」
ふぅ、とゴリガンは納得したのかそれ以上は何も言わなかった。
竜眼のゼネス。
自分が旅に出るきっかけになった少年。彼の体からは周りに対する強い憎しみがにじみ出ている、誰も側に近づけないような。そうして向ける眼差しは突き刺さるような敵意。……、だけど。
(気のせいかしら。何となく、何となくだけど…彼の目から悲しみの様なものを感じる。大切な何かをなくしてしまったような…。)
考えれば自分はゼネスのことを殆ど知らない。彼は、何があってああまで人を憎んでいるのだろうか?
「ルナ殿?どうかされましたかな?」
「あ…、ううん。なんでもないわ、行きましょう。」
ゴリガンの声で歩みを止めてしまっていた自分に気づく。軽く頭を振って、考えを振り払った。ゼネスがまた絡んでくるのなら、今までどおりに適当にあしらえば良い。それだけのことだから。
少し先に行ってしまったゴリガンに追いつくために、ルナは少しだけ歩くスピードを速めた。砂漠の出口は、もうそこにあるはずだから。
・あとがき
よ、ようやく終わりましたー。書きたいことをしっかりまとめて書かないから長くなるんですね。(汗)今回は「ヴァイデン、改心したら収入源なくなるよなー。後、どうやって生活してるんだろ?」と言うのと、ゼネスのことを突っぱねてばっかりだったので少しはゼネスについて考えさせてみよう、と言う事で書いた話です。今考えれば、バトルシーン無かったらその2で終わっていたような。(大汗)何はともあれ、駄文にお付き合いくださり、有難うございました。
次はタリオかビスティーム辺りの話だと思います…。