メタボ検診の陰に隠れて昨今あまり耳にしなくなっている「がん検診」であるが、より有効な検診になるように、研究は進んでいる。
記事は次のとおり。(Japan Medicineよりお借りしました)
厚労省・垣添研究班「がん検診の評価とあり方に関する研究」が始動 PSA検診や肺がんCT検査などで評価開始 日本人によるデータを収集・検証
記事:Japan Medicine
提供:じほう
【2008年7月2日】
厚生労働省のがん研究助成金で指定研究とされた「がん検診の評価とあり方に関する研究」(垣添忠生班長・国立がんセンター名誉総長)が今年度から3年間実施される。先に公表された厚労省研究班(濱島班)の検診ガイドラインで「エビデンスが不十分なため推奨しない」と結論付けられた「前立腺がん・PSA検診」や「肺がん・CT検査」「胃がん・内視鏡検査」について、あらためて日本人によるデータを収集し、検証する。
「指定研究」は、関連学会や社会的要請に基づいて「がん研究助成金運営委員会」が研究課題を指定し、計画的・集中的に実施するもの。
同じく厚労省がん研究助成金の「総合研究」である「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班(濱島ちさと主任研究者・国立がんセンター検診技術開発部室長)がまとめた「胃がん」「大腸がん」「肺がん」「前立腺がん」の各検診ガイドライン(濱島班GL)は、6月19日までに市町村の検診担当部署に配布され国立がんセンターのホームページに公表された。
濱島班GLでは、「前立腺がんのPSA検診」「肺がんのCT検査」「胃がんの内視鏡検査」について、死亡率減少効果を判定するだけのエビデンスが不十分なため「集団を対象とした対策型検診として実施することは推奨しない」と解説。人間ドックなどの個人の意思に基づく受診は妨げないものの、「個人を対象とした任意型検診を実施する場合には、効果が不明であることについて適切に説明する必要がある」とした。
3つの検診項目の推奨グレードは「I(エビデンスが不十分なため推奨しない)」で、有効性評価を目的とした研究を行う場合に限定することが望ましいとされている。
「推奨しない」の3検診 高普及率、求められる早期検証
指定研究の垣添班では、濱島班GLで、「グレードI」とされた3検診項目についてそれぞれ小班を設置して3年間で可能な検証を行う。
濱島班の肺がん検診ガイドラインでは、「非高危険群に対する胸部エックス線検査」と「高危険群に対する胸部エックス線検査と喀痰細胞診併用法」はグレードB(実施を推奨)。一方、「低線量CT」については、グレードIとされた。肺がんでの胸部CT検査の有用性を検証するのは金沢医科大学呼吸器外科の佐川元保教授の小班。小規模試験による実用可能性研究(フィジビリティ・スタディー)を実施する。
胃がん検診ガイドラインでは、胃エックス線検査はグレードBと評価されたが、「胃内視鏡検査」「ペプシノゲン法」「ヘリコバクターピロリ抗体」はグレードIとなった。
この検証を行う小班を率いる山形大大学院公衆衛生学の深尾彰教授は「今回の研究ではペプシノゲン法とヘリコバクターピロリ抗体までは手が回らないが、胃内視鏡検査の有用性を検証する」という。垣添班長は「胃内視鏡検査は有用性を示すエビデンスがないうちから、広く普及してきた。胃透視の技術者や読影医が減少している現状を考えると、胃内視鏡検査によるスクリーニングの有用性を早く検証する必要がある」と話した。
前立腺がんのPSA検査については、京都府立医科大泌尿器科の三木恒治教授の小班で死亡率減少効果を評価する症例対照研究を実施する計画だ。
いずれの小班研究も次回(10月23日予定)の班会議で研究デザインのたたき台を示し、疫学的検討・修正を進めた上で、可能なものは3年内にスタートすることを目指す。
(記事ここまで)
がん検診の問題については、去年の10月に「
がん検診、大きく進歩するか」、11月に「
『自分はがんにならない』という根拠のない自信」などの記事を書いたので、良かったらそちらも見てください。
冒頭にも書いたように、メタボ検診に忙殺されている自治体の中には「今年度はがん検診が手薄になってもやむを得ない」と考えているところもある。しかしがんは日本人の死亡原因の第1位であり、亡くなる人の3人に一人はがんによって亡くなっている。がんによる死亡をゼロにすることは未来永劫できないと思うが、若くして亡くなるとか苦しんで亡くなるという事態は、なるべく少ない方が嬉しい。
がん検診にもコストがかかる。国によっては「このがん検診には全体でどれだけの費用がかかり、病気が見つかって治療して治った人が社会に戻す利益がそれを下回るから、この検診には意味がない」という計算のしかたをするところもある。日本の検診はそこまで考えずに、割と良心的にやってきた。しかしメタボ検診は明らかに「医療コストを減らすことを目的とした検診と保健指導」であるし、がん検診にもコストと利益の比較が持ち込まれる流れは、避けられないように見える。
その流れの中で、明らかに有効でない検診は、淘汰される運命にあるだろう。安心のための検診という位置づけもあるかもしれないが、検診で異常がなくてもその後手遅れで見つかったという例が多ければ、安心にもつながらない。今回取り上げられている「前立腺がんのPSA(血液)検査」、「肺がんのCT検査」、「胃がんの内視鏡(胃カメラ)検査」は、いずれも比較的新しく検診に取り入れられるようになってきた検査であるが、それぞれに問題の構造は少しずつ異なっている。
まず前立腺がんのPSA検査。PSAという腫瘍マーカー(病気があると血液中で増える物質)は、他のがんの腫瘍マーカーとは異なり、早期がんの段階から増加する。早期がんの間にがん細胞を根絶することができれば、進行がんにならなくて済む。そのためPSAが検診に広く取り入れられるようになってきている。
しかしPSA検査をたくさんやると、それによる弊害も増えることが指摘されている。
まず一つ目は、精密検査に進む人が多くなること。前立腺がんがなくても、前立腺肥大でもPSAはある程度増加する。その人たちすべてに病院で精密検査(がん細胞があるかないか、針を刺して細胞を取る検査)をすると、費用もかかるし出血や感染などの合併症の数も増える。
次の問題は、医療費が増えること。前立腺がんと診断された人には治療がおこなわれる。治療をすることで命が助かる人もたくさんいるが、高齢者の前立腺がんの中には「前立腺がんではあるが寿命は縮めず、困った症状も引き起こさない」ものもあるとされる。そういう人に対して治療をすることは、ただ医療費を増大させる結果にしかつながらない。
解決には「悪性度の高い前立腺がんだけ」を拾い上げる腫瘍マーカーの開発と実用化が必要であるが、それには時間がかかるだろう。
肺がんのCT検査も、前立腺がんのPSAと同じような問題がある。
胸部X線検査(胸のレントゲン)では、早期肺がんを見つけるには力不足であることは、だいぶ前から言われていた。胸部X線で肺に影が見つかって手術をしても、すでに進行がんになってしまっており、命を助ける結果につながる人はよほど運のいい人に限られていた。
CT(ヘリカルCT)による検査では、胸部X線検査よりも小さい段階で肺がんを見つけることが可能になった。そのため海外を中心に、ヘリカルCTによる肺がん検診が盛んにおこなわれるようになった。数年経ってその効果を検証するための集計をおこなったところ、見つかる人の数は増えて治療成績も向上したという報告はあるが、検診対象者全体で見れば生存率が改善していないという結果も出た。
また、CTはX線検査に比べて多くの放射線を浴びるため、健康な人に対する検査としては不適切という面もあり、リスクの高くない人にまでみんなにおこなう検診には使うべきではないという意見が増えている。
胃がん検診は、バリウムでおこなう方法と内視鏡(胃カメラ)でおこなう方法がある。
バリウムでおこなう方法の利点は、胃カメラより苦しくないことだ。胃カメラは結構太いものが検査中はのどから胃袋までずっと通っていることになり、人によってはかなり苦しい。しかしバリウムの検査では早期胃がんの発見率はかなり低いことが指摘されており、早期がん発見の意味合いでは内視鏡に軍配が上がるのではないかと思われる。しかし記事中にも書かれているとおり、内視鏡が明らかに優れているというエビデンス(証拠)は、今のところ示されていない。
最近は鼻から入れる細い内視鏡も普及してきており、以前よりはかなり楽に検査が受けられる。ただ、内視鏡は1回あたりの検査料がバリウム検査より高く、すべての人にやってもらうには検査できる医師などの数も足りず、普及するには障壁がかなり多い。
このように、検診といっても何でもやればいいというものではなく、その人にとっても社会にとってもプラスになる検診を進めていく必要がある。今回の研究はこの3つのがん検診を「やった方がいいか、やらない方がいいか」について調べる研究であるが、どのような方向から見るかによって、やった方がいいかやらない方がいいかの結論が異なってくるような気がする。
検証期間とされる3年の間には、血液を採ればがんがあるかないかがピタリとわかるような、画期的な検診方法が出てこないとも限らない。そんな検査が出現すれば今回の研究は全く意味がないことになってしまうが、どうなるかはわからないので、今やれることをやっていくのがいいだろう。
ところで全くの余談ながら、このような研究調査の費用というのは「社会保障費」に含まれるのだろうか。国民の健康に資する費用の支出が社会保障費であるならば、この研究費用も実際の検診費用も社会保障費だと思うのだが、それだと「抑制すべき支出」になるはずで、研究を進めることは褒められたことではないのだろうか。財務省あたりがどう考えるのか、一度聞いてみたい気がする。