
松本市街から西に10kmほどのところにある波田総合病院で、午後6時から「第5回 倫理検討会」が開かれた。講師として呼んでいただいた。
波田総合病院はベッド数215床の病院。平日の夕方であったが、50名ぐらい(多分。数えてません)の職員が参加されていた。(写真は左から司会の高木副院長と赤穂腎・透析センター科長。中央のテーブルは藤田病棟看護師、古畑訪問看護ステーション看護師、私、山崎病棟看護師長、桐井外科医長)
この「倫理検討会」ではこれまで、胃瘻(食事が口から摂れない人に栄養を補給するため、お腹に管をつけて胃に流し込む方法。小さな手術が必要)についてとか、DNAR(急変時に人工呼吸や心臓マッサージなどの延命処置をしないという判断をあらかじめしておくこと)などについて、勉強会を重ねてきたらしい。
第5回の今日のテーマは「終末期の緩和医療について考える」。私が得意とするテーマで良かった。前院長の吉澤先生や副院長の高木先生などが強く推薦して下さったらしい。ありがたいことです。
会はまずはじめに、病院スタッフ4名(写真右テーブルの私以外の4名)が、患者さんの例を挙げてそれぞれの立場から感じたことや問題点を提起することから始
・大きな病院から終末期の状態で転入院、自宅に帰ることを考えて実行したが、家に帰るタイミングとしてどうだったのかと感じている症例。
・家族の強い希望で1日あたり1000mlの点滴を続けていたが、痰が非常に多く家族も大変そうだった。最終的には減量→中止し痰が激減した。
・高齢の難しいがんの方。限界近くまで抗がん剤の治療を何回かやったが、どうするのが適切だったのか。
・外科の桐井医師は3例目の症例に加えて2例。ギリギリの状態になってアルブミンというタンパク製剤と血圧を上げる昇圧剤を使った患者さんの話と、点滴をかなり少なめにしたり持続皮下注射という方法で症状を押さえたりして外泊に行ってこられた患者さんの話。
緩和ケアのやり方としては洗練されていない部分も少なくはないが(失礼)、みんな一生懸命患者さんと向き合っていることが伝わってきた。今日用意してきたスライドやプリントは、役に立ちそうだ。
その次に講演をさせていただいた。テーマは「終末期の緩和医療について考える 〜輸液・鎮静・鎮痛〜」。私は毎回その時に求められるテーマに沿って、スライドを新しく作っている。多分そうしているから時間が足りないんだと思う。でも本業の緩和ケアだって、一人一人の患者さんに対してその都度ことばや治療を取捨選択しながら、臨機応変に仕事をしている。一見無駄に思える仕事の積み重ねが、自分の実力を確かなものにしてくれていると思うことにしよう。本当はどうなんでしょう。
今日の講演のポイントをかいつまんでご紹介。
まずは補液(点滴)について。
このようなスライドを出した。ここに書いてある内容は、若くて身体の力が十分あって、治療をすれば元気になる場合にはすべて真実である。しかしがんで命が終わりに近づいている時には、身体には老衰に似たような変化が加わっている。そのような場合にこの法則を適用してしまうと、しばしば「その人の今の身体には最適でない点滴の処方」になってしまう。
どういう時に量を変更すべきか、また本人やご家族にどのように説明すると納得が得られるかなどについて、解説した。点滴を減らしたりやめたりする時には、多くの人が後ろめたい気持ちを抱くものであるが、そうならずにみんなが同じ方向を向きながら点滴の減量を納得するにはどうすればいいか等も織り交ぜてみた。
続いて鎮痛薬(痛み止め)の基本について。がんの痛みを止める方法はWHO(世界保健機関)方式というものが全世界に普及してきており、これはあちこちのホームページでも見られるので大幅に省略。WHO方式ではやや難しい「神経障害性疼痛(神経の束がからんだ厄介な痛み)」に対する鎮痛補助薬の使用法についてを、やや詳しく解説した。
最後に「鎮静(セデーション)」について。鎮静も点滴と同様かなり誤解が多く、適切なセデーションとはどういうものかの概念から解説。
最も強調したかったのは「セデーションとは寝かせることではない」ということ。わかっている人には釈迦に説法だったかもしれないが、誤解している人には目からウロコだったのではないだろうか。ここでも薬の使い方のコツ、点滴する管がついていない人にはどうするか、どのように説明して合意に至るかなどについて話をした。
講演の最後はまとめ。忙しい日常診療では忘れてしまいがちな「基本」を並べてみた。世間で緩和ケアというと、前向きでない医療とか、消極的な医療とか、治す治療とは同時には行い得ない医療だという雰囲気があるが、実は積極的な前向きの医療であり、治す治療とぶつかり合うところは一つもない。
続いて私を含めた演者全員が並んで座り(冒頭の写真)、終末期の緩和医療について討論。前半の4人の演者の人たちが提起した問題点などについて、私の講演の中に答えがあったものも少なくなかったが、より具体的な答えを求められてそれに答えたり、私なりの意見を述べたりした。緩和ケア医として10年ほど仕事をしているので、多くの問題に経験に基づく回答ができるようになってきている気がする。
その後、何人かの方の質問や発言があった。大学の後輩でもある虎走(こばしり)先生は、呼吸困難(息苦しさ)に対してセデーションを使うことについて質問された。「呼吸困難は不安を伴いやすい症状であり、セデーションという意味ではなく不安を取るという意味で、抗不安薬(薬は同じ)を使うことは基本だと思っている」と回答した。
私はスライドの中に「緩和ケアには職人芸はほとんど必要ない」と書いた。吉澤名誉院長(ついこの間まで院長)からは、私について「アーティストだなあと思う。話す内容や声のトーンなど、経験によって身につけたのかと思うが、仕事自体がアートになっている」と、最大限の賛辞をいただいた。
最後に清水総合診療科長のまとめ。2つの映画「最高の人生の見つけ方」と「ミリオンダラー・ベイビー」の予告編を流し、人の命を看る時には「respect」が大切だと思うと締めくくった。この2つの映画はまだ見ていないが、見てみたくなった。ミリオンダラー・ベイビーはDVDが出ているだろうけど、最高の人生の見つけ方は上映中のところもあるし、まだ先だろうな。
今回勉強会に参加させていただいた感想としては、波田総合病院はパワーのある病院だと思った。院長副院長をはじめ、皆さんとても熱心で、患者さんのために良い仕事をしたいという情熱を感じた。地方公立病院が生き残るのは大変な時代になってしまっているが、この病院なら地域に信頼されることで生き残っていけるのではないかと思う。
開始が若干遅れたことや、私を含めてそれぞれの人が1〜2割増で話したこともあり、予定よりだいぶ超過してしまったが、皆さん最後まで熱心に聞いてくださっていた。今日話したことは、どんな職種であっても明日からの診療に役立つことが必ず含まれているはずだと思う。患者さんのために活かしていただけるとありがたい。